民泊はマンションにとって吉とでるか?凶とでるか? 住民が行うべき対策とは

2020年開催の東京五輪に向けて、外国人観光客の宿泊施設の確保問題を解決するために、「民泊」推進の動きが高まっています。

民間の空き部屋を宿泊施設として貸し借りするインターネットサービスや、数人で部屋をシェアして住まうシェアハウスの動きが広がっています。

現在、全国61都市のホテルの稼働率は86%以上(全日本シティホテル連盟発表による)。ホテル難民がこうしたサービスを活用する潮流も増えているようです。

また、政府が規制緩和する国家戦略特区の大田区では、マンションなどの個人住宅で外国人を泊める事業を来年1月から始める計画を発表。大阪府議会も、マンションなどの空室を宿泊施設に利用できる「民泊」条例を可決しました。

2020年開催の東京五輪に向けて、外国人観光客の宿泊施設の確保問題を解決するために、政府や自治体による「民泊」推進の動きが高まっています。

一方で、「民泊」に関しては、ホストとゲスト間でのトラブルや、宿泊中の事故など、「民泊」によって起こりうるリスクが考えられます。

こうした動きに対して、マンションとしてどのように考え、対策していけばよいのでしょうか?

マンション・ラボでは、マンション住民に対して本件に関するアンケートを実施。住民としての意見や感想に加え、専門家の意見や、いち早くこの問題に取り組んだ湾岸エリアのマンションの事例を紹介し、この問題に対するマンションのいまとこれからについて考えてみたいと思います。

●自宅を宿泊施設として提供するインターネットサービス「Airbnb」とは?

自宅を貸し出すといってもピンとこない方も多いかもしれません。これは、自宅の一室や、自分がいないあいだの空き部屋を、インターネットを通じて貸し出すマッチングサービスです。

なかでも代表的なサービスAirbnb(エアービーアンドビー)は、世界の都市で100万物件以上を取り扱っているともいわれ、日本でもそのユーザー数を伸ばしています。

ホストである貸し手側は、自分の部屋の一部屋、または不在のあいだの部屋をまるごと貸し出します。ゲストである借り手側は、まるで現地の友達の家に住むような感覚で、好みの部屋を選んで泊まります。旅先での交流や、現地の暮らしを楽しむ旅をしたい若者を中心に人気となっています。

自分のマンションの部屋を貸した場合、ホストとゲストでどのようなメリットとデメリットが考えられるのかを整理してみました。

Facebookアカウントを使用しているから安心できるといった声もありますが、基本的には、見ず知らずの他人を信用した上での、自己責任の貸し借りとなります。では、マンション全体で考えた場合のメリット/デメリットはどういったものが考えられるのでしょうか。

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会が、旅館業法に基づかない物件の営業についての申し立てを行い、法律的な議論も取りざたされていますが、いまのところ、Airbnbは日本の法律ではグレーゾーンにあり、個人の責任の範疇で行われているのが実情です。将来的には、こうした問題に対する法律が整備される可能性があります。

●マンション居住者の73%が「自宅の貸し出しサービス」の存在を知らない

マンション・ラボでは、2015年8月に3,000人弱のマンション居住者に「自宅の貸し出しサービスに関するアンケート」を実施。居住者の声を伺ってみました。

インターネットを活用して自宅を有料で貸し出すサービスを知らない人は、73%。聞いたことがある・知っている人は26%。ほとんどの人がまだこのサービスを知りませんでした。

貸し出したことがある・借りたことがある経験者は、わずか0.4%。「貸し出したのはローン返済のため」という声もありました。

では、貸し出すことについて、みなさんはどう思っているのでしょうか?

Q.マンションの部屋を、ホテル代わりとして有料で外部の方に貸し出すことについて、どう思いますか?

アンケートでは、反対意見が約60%、それ以外では、個人の責任や規約ルールを決めた上で行うのならいいという賛成意見が約30%近くという結果になりました。総体的には反対意見の方が多く、セキュリティ面の不安、犯罪の可能性、モラルの低下などを指摘する声があげられていました。

一方、賛成意見のなかでは、「自分でも宿泊してみたい」「文化交流やお小遣い稼ぎなどの理由からホストになってみたい」という声がいくつかありました。

●マンション管理業協会「話し合いの場づくりが大切」

マンション管理の適正化の推進を行う一般社団法人 マンション管理業協会に、「民泊」についてお話を伺いました。

一般社団法人マンション管理業協会の近藤雄二さん(写真左)と梅津 潤さん(写真右)にお話を伺いました。

編集部「マンション管理業協会では、管理会社などからの相談や問い合わせ窓口を設けて、現場の声に応えています。現在、「民泊」に関する問い合わせはどのような状況なのでしょうか?」

梅津さん「相談窓口を担当しておりますが、現時点ではまだ民泊に関する問い合わせはほとんどありません。自治体が次々と民泊計画を発表している段階ですので、実際の相談はこれからではないのかと思います」

近藤さん「協会への問い合わせはまだないようですが、私が所属している会合などで、"Airbnbについて詳しく知りたい"と質問する方がいらっしゃいました。最近の民泊に関するニュースなどを見て、徐々に関心が高まりつつある状況なのでしょう」

編集部「民泊計画がスタートした場合、管理組合としてはどのように対応すればいいのでしょうか?」

梅津さん「ネガティブな面ばかりが取り沙汰される民泊ですが、居住タイプのマンションではない、投資用マンションなどでは、もしかすると歓迎される動きもあるかもしれません。やはりマンション毎にお考えがあると思いますし、区分所有者の方の権利も尊重されます。

こればかりは一概にどの方法がいいとはいえません。マンション特性によってメリット・デメリットを検証し、管理組合でよく話し合うことが、現時点でできる最良の方策といえるのではないでしょうか」

近藤さん「民泊といっても、お住まいの部屋の一室を民泊として旅行者に提供して異文化交流をしたいという方、空室活用として利用するという方、さまざまなシチュエーションが想定されます。

マンションとして、民泊を禁じる・禁じないを決定する前に、まず管理組合の皆さんでメリットとデメリットを整理して討論する、話し合いの場づくりからスタートさせることが大切でしょう」

編集部「今後、国や自治体から民泊に関するルールが制定されていくはずです。こうしたルールも参考にしながら、マンション全体で、どうするべきか方針を話し合っていく必要がありそうです。」

●いち早くこの問題を検討、管理規約に禁止条項を明記したマンションの事例

「共同生活の場であるマンションの活用ルールは、マンション規約で決定して共有化しておくことがよい。また規約の中に事前届け出を必要とする条項も必須とする」というアンケート回答者の声にもあるように、この問題は、マンション全体の問題として検討するべきでしょう。

この問題について、すでに管理組合で検討し、規約を修正して、「自宅の貸し出し」利用を禁じる措置をとったマンションがあります。湾岸エリアの超高層マンション、ブリリアマーレ有明の管理組合です。

ブリリアマーレ有明の理事長 星川太輔さんに、お話を伺いました。

編集部「まだ「自宅の貸し出しサービス」という存在自体を知らないマンション居住者が多いなか、管理規約でいち早くシェアハウスやAirbnb利用を禁じた措置は、非常に先見性のあるものです。いつ頃から議題に上がっていたのでしょうか?」

星川理事長「2013年頃にメディアを騒がせた脱法シェアハウス(※)の問題から、管理組合では、専有部分の用途に関してシェアハウス利用を禁じるべく、管理規約の変更について検討を始めていました。そして2014年4月の総会で、シェアハウス利用を禁じるための管理規約の変更が承認され、規約が修正されました。

その後2015年初頭あたりから、マンションでのAirbnbの利用問題がメディアで取り沙汰されはじめましたが、シェアハウス利用を禁じる管理規約は、そのままAirbnbにも適用されるため、その旨を改めて住民に告知して周知徹底を図り、マンション内のAirbnb利用の排除に取り組みました」

法的な安全基準や建築基準法を満たしていないシェアハウスに、不特定多数の賃貸者がせめぎ合うように住んでいることで社会問題となった。

編集部「ブリリアマーレ有明には、最上階の33階にプールやバーラウンジ、露天風呂付きスパなどの、ホテルグレードの共用施設があります。もしシェアハウスやAirbnbを禁止せずに、自宅貸し出しを行う居住者を放置していたら、こうした共用施設にも不特定多数の人々が出入りすることになっていたはずです。」

星川理事長「たとえば、当マンションの賃貸物件を借りている賃借人が、シェアハウスにして複数人と家賃を折半したり、オーナーがAirbnbなどに部屋を貸し出したりする可能性もある訳です。

我々居住者としては、不特定多数の人の出入りによるセキュリティ問題、共用施設の利用ルールの問題、マンションのブランド価値の低下などが考えられる自宅貸し出しは、マンションの資産価値を下げかねない問題だと考えました」

編集部「通常のマンションでは、問題が起こってから対処するケースが多いと思いますが、今回の場合は未然に防いだということですね?」

星川理事長「分譲マンションを購入した人のほとんどは、そこに住まうことを目的としています。不特定多数の人が出入りするAirbnbなどが横行してトラブルが発生すれば、居住空間の安心や安全が損なわれてしまいます。今回のように、トラブルが発生する前に未然に防ぐことも、我々マンション居住者の責務だと思います。

また、今後こうした問題と対峙するであろう、周辺マンションや新しく建つマンションにも参考にしていただくために、理事会の決議を取った上で、当該規約を当マンションの公式サイトのブログで公開して情報を共有しました」

編集部「なるほど。管理規約の公開まで行なわれたというのは、まさにご英断ですね。他のタワーマンション居住者や管理組合からも高く評価されたとうかがいました。マンションが抱える新たな問題へ一石を投じたのは間違いないと思います。これらの行動をマンション全体で行うために、大切なこととはなんでしょうか?」

ブリリアマーレ有明のヴィジョンを明示した「クレド(Credo)」カード。Keep Intellect、 Keep Nature、 Keep Style。この3つの柱に沿って運営することを、理事会役員から管理員、コンシェルジュ、清掃スタッフにいたるまで、運営に携わるすべての人が規範としています。

星川理事長「我々のマンションは、『非日常が日常であるために』というヴィジョンのもと、すべての判断を行っています。そのヴィジョンからみても、Airbnbは、分譲マンションには相容れない性質のものだと思います。

しかしマンションによって、どう捉えるかは異なってくるかもしれません。自分たちのマンションがどうありたいかという議論も出てくるはずです。これをきっかけに、自分たちのマンションをどうしていきたいのか、全員でよく話し合うべきでしょうね」

●マンションも、新しい社会の流れに即した対応を考える必要があります

2020年の東京五輪開催に伴って、外国人観光客の増加は間違いないでしょう。今後、Airbnbの利用ニーズが増えるとともに、ホストとして自室を貸し出す人が増加するかもしれません。

アンケートでは、60%の回答者が民泊に反対していますが、実際に行動に移しているマンションはまだまだ少ないと予想されます。ブリリアマーレ有明のように、「未然にトラブルを防ぐ」という行動も、場合に応じては必要でしょう。

時代が変わると、いままで考えたこともないような新しいサービスや動きも生まれてきます。「自宅の貸し出し」だけでなく、今後もマンションにはさまざまな未知の問題が出てくることでしょう。その都度、どう決断して行動していくかは、それぞれのマンションに住む居住者全員で考えていかねばなりません。

あなたのマンションでは、どのように対処するのでしょうか?この機会に、真剣に考えてみませんか?

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