沢田マンションの熱くて長い秋の一日~沢田マンション祭「沢田トロリンナーレ」レポート~

さる11月9日、高知県の高知市薊野北町に位置する「沢田マンション」は、ただならぬ熱気に覆われていました。

さる11月9日、高知県の高知市薊野北町に位置する「沢田マンション」は、ただならぬ熱気に覆われていました。この日は、2011年の「SAWA SONIC2011」以来、3年ぶりとなる大規模なマンションイベント「沢田マンション祭り 2014 沢田トロリンナーレ」(以下:沢田トロリンナーレ)の開催日。全国から多くの沢マンファンが現地を訪れ、あいにくの雨にもかかわらず、なんと1400人もの人々が集結! いちマンションイベントとしては、異例の集客を実現しています。

今回は、「沢田トロリンナーレ」当日の模様を、沢田マンションの住人で同イベントの仕掛け人の一人でもある岡本明才さんとともに、振り返ってみたいと思います。

オンリーワンのセルフビルド建築 沢田マンションとは

さて、そもそも「沢田マンション」とはどんなマンションなのでしょうか。詳しくは、2012年にマンション・ラボに掲載されたこちらの記事「前代未聞のセルフビルド建築、沢田マンションが今の時代に問うこと。」をご一読頂きたいのですが、ひと言で言うならば、このマンションは"世界でも稀にみるセルフビルドマンション"。そう。なんと夫婦ふたりだけで作り上げた地下1階、地上5階建ての鉄筋コンクリートマンション。1971年に着工されて以来、独自の設計思想に基づき進化してきたこのセルフビルド建築には、現在も多くの人が暮らしています。

<<沢田マンション・データ>>

5階建て/総戸数68

賃料 2万円~5万円

敷金1カ月/礼金なし

※入居後は、改装をしなければ賃料も据え置き

※マンション内で引っ越す場合は、賃料の高い部屋へ移る時、差額分が敷金になる

熱狂のゼリーみこしから奈良美智さんのドローイングショーまで。沢田トロリンナーレの概要とは

いよいよ本題です。類い希なる個性を持つ沢田マンションで行われた一大イベント「沢田トロリンナーレ」。11月9日の10時~16時に開催されたこのお祭りでは、一体どんな催しが行われたのでしょうか。

岡本さん「当日は沢田マンションの1階から屋上までのスペースを使い、およそ40もの出店やパフォーマンスが行われました。沢マンの住人が出店するサンドイッチのお店や雑貨店もありましたし、県外の雑貨店やベーカリーからの出店も多かった。あとは『トロリンナーレ』ちゅう名前のお祭りだけあって、木工作品のワークショップや絵画などのパフォーマンスなど、アート系のイベントもたくさんありましたね。

いろんな要素が渾然一体となったお祭りで、その敷居の低さ、というか敷居のなさがとても沢マンらしかったんじゃないですかねぇ。見に来てくれる人も、地元の子供たちから、過去に沢田マンション祭に来てくれた沢マンファンの方まで、本当にいろんな人が来てくれました」

お弁当屋さんからアートギャラリーまで、実に幅広いコンテンツが展開された「沢田トロリンナーレ」。なかでも参加者の興奮がクライマックスに達したのが、沢マン祭恒例の「ゼリーみこし」というイベントだったそう。

岡本さん「『ゼリーみこし』ちうのは、その名の通り、巨大ゼリーをご神体としたおみこしを担ぐイベント。2011年の『SAWA SONIC』の時にはじまったイベントなんですけど、とにかくお客さんがものすごく興奮して、独特のグルーヴが生まれるんです」。

巨大ゼリーやおみこしは、沢マンの住人が手づくりしたもの。今年は45kgもの巨大ゼリーをやわらかく仕上げすぎたせいで、すぐにおみこしから落ちてしまったそうですが、それでも会場の一体感はすさまじいものがあったと言います。

岡本さん「一見、地味でくだらないけど、実はすごく楽しめるのが『ゼリーみこし』。お金を掛けなくても、アイデア次第でみんなが楽しめる沢マンらしい行事なんですよ」

さらに「沢田トロリンナーレ」のもうひとつの目玉が、沢田マンションの1階に位置する「沢田マンションギャラリーroom38」で行われた「3日間の奈良美智・ドローイングショウ」。こちらは11月7日~9日の3日間にわたって開催され、「沢田トロリンナーレ」開催日と重なる個展最終日には、1000人もの人々がギャラリーを訪れたそう。

でも、そもそもどうして日本を代表する画家・彫刻家である奈良美智さんの個展が、今回のイベントとコラボレーションすることになったのでしょうか?

岡本さん「もともと奈良さんが『沢田マンション物語』(沢田マンションができるまでを綴ったドキュメンタリー本)を読んでいたようで、『SAWA SONIC』のことをTwitterで呟いてくれたことがあったんです。

ちょうど今回のイベントのタイミングが『沢田マンションギャラリーroom38』のオープン5周年ということも『奈良さんが来たらおもしろいんじゃない?』、『いやいや、来るわけないよね』なんて話になって。冗談半分にTwitterを通じて『奈良さん来てよ』とつぶやいて見たら、その日の夜に奈良さんからOKの返信がきたんです。

それはもう、メンバー全員が俄然やる気になりますよね。儲けや集客を目的にするのではなく、『奈良さんを喜ばせるためにやろうぜ!』が合い言葉になっていました」

展覧会の期間中には「沢田マンションギャラリーroom38」に、奈良さんの原画がずらり。ギャラリーのメンバー25人が24時間体制で警備にあたったそう。

岡本さん「いやぁ、いろいろと大変でした(笑)。でも、3日間で2000人もの人がギャラリーを訪れてくれて、大成功だったと思います。

奈良さんの希望で、大手メディアへの露出を控え、なるべく地元の人々に来てもらえるようにしていたんですけど、奈良さんのことを詳しく知らない地元の子供たちもたくさん来てくれて。原画を前に『すごい!』って感激してました。やっぱり奈良さんの絵には力があるんですよね。

奈良さん自身、今回の展示には『初心に返る』っていうテーマがあったみたいなんですけど、展覧会が終わった後もすごくうれしそうにしてくれていたので、良かったです。『奈良さんを喜ばせるためにやろうぜ!』っていう自分たちの思いも叶ったのかなって。他人の評価や儲けなんかは気にしないで、自分たちがやりたいことを、とにかくやりきる。とても沢マンらしいイベントだったと思います」

以上が11月9日に開催された「沢田マンション祭り 2014 沢田トロリンナーレ」と11月7日~9日「3日間の奈良美智・ドローイングショウ」のレポート。ここからは、沢田マンションが自由で面白いイベントを開催する理由や、マンションイベントを盛り上げるための秘訣についてお聞きします。

沢田マンション祭を開催するのはマンションのファンを増やすため

大成功に終わった「沢田マンション祭り 2014 沢田トロリンナーレ」ですが、そもそもどうして沢田マンションでは、定期的にユニークなイベントを開催しているのでしょうか。きっかけは、沢田マンションの魅力を知ってもらい、ファンを増やしたいという思いだったと岡本明才さんは言います。

岡本さん「『第1回沢田マンション祭り』が行われたのは、2002年のことですが、その頃、沢田マンションは取り壊しの危機にあったんです。当時、伝説的な住人"27号"という人がいたんですけど、彼は沢マンの魅力を多くの人に発信することで、沢マンのファンを増やし、いざという時に沢マンを守れるようにしようと考えていたんですね。

沢田マンションって、すごくヘンテコなイメージがあるけど、中身は意外と真面目ですし、独特の魅力がある。沢田マンションを夫婦で作り上げた大家さんの人柄や面白さがにじみ出ていますから、まずはそれを知ってもらおうと、マンションツアーをしたり、沢マン新聞を作ったり......。『沢田マンション祭り』もそうした試みの一環として始まったんです。

かくいう僕も"27号"の影響で沢マンに引っ越したひとりなんですけど、ちょうどこの頃から沢マンに20代~30代の住人が増えていきました」

こうして始まった2002年の「第1回沢田マンション祭り」。その後も、2006年の 「SAWAMAN EXPO 2006 沢田マンション秋祭り」や2008年の 「沢田マンション 豊年祭」、2011年の「SAWA SONIC 2011」、2012年の「沢田マンション本祭り「BOOK STOCK 沢田マンション ブックの祭典」、そして2014年の「沢田マンション祭り 沢田トロリンナーレ」へと沢田マンション祭りの系譜は続くことになります。

マンションイベントは住人同士の出会いの場となる

さて、では沢田マンションのリーダー的な存在として、数々の祭りを経験してきた岡本さん。彼は、マンションでイベントを開催することのメリットをどのように捉えているのでしょうか。

岡本さん「もともとは沢田マンションのファンを増やしたい、と始まったお祭りですが、何度も経験するうちに『住民同士の出会いや交流のきっかけ』として、とても良い機会だと思うようになりました。

例えば今回の『沢田トロリンナーレ』のゼリーみこしを造ったメンバーのひとりは、沢マンに住む20代の大工さんなんですけど、彼はけっこう人見知りするタイプで、あんまりほかの住人と接点がなかったんです。でも、みんなで一緒にみこし造りよったら、自然に仲良くなるし『一緒にみこし担ごうや!』となるでしょう。

もちろんきれい事ばかりじゃないから、喧嘩することもある。でも、喧嘩しても謝れば良いんですよ。それも後で思い返してみれば、良い思い出になりますからね。お祭りを通じて、住民同士が仲良くなる。それは沢田マンションに限らず、どんなマンションでも言えることだと思います」

クオリティにこだわらずやりたいことをやりきる。

では、マンションイベントを成功に導くための秘訣とは何でしょうか。

岡本さん「マンションのお祭りを楽しくやりきるためのコツは、いくつかあると思います。まず大切なのは、参加するもしないも住人の自由であること。来る者拒まず、去る者追わずで、メンバーが『やりたいからやっている』ということが大前提。

そして、メンバーがやる気になっているときには、思い切って任せてみること。たとえば今回の『沢田トロリンナーレ』では、イラストレーターを使える住人がデザインしたり、大工さんがみこしをつくったりしましたけど、自分が横から見ていて『あれれ?変なことになっちゅうぞ』ってことはある(笑)。でも、クオリティなんて、あんまり気にする必要はないんですよね。そもそも沢田マンション自体が、建築物としてのクオリティが低いわけですし(笑)。

見栄えの良さとか、集客とか、儲けとか......。そんなものにこだわらずに、『やりたいことをやりきる』。なんでもかんでもコントロールしなくて良いと思うんですよ。失敗は失敗で意外と『まぁ、面白いけん、ええか』ってなりますから」

さらに「お金をかけすぎないことも大事」なのだと岡本さんは言います。

岡本さん「お金かけるとろくなことにならないんですよ。やっぱり『成功させたい』とか『クオリティ上げたい』ってなっちゃいますから(笑)。今回の『沢田トロリンナーレ』でも、かかっているお金は5~6万円くらい。それでも、面白いことをやっていれば、周りは喜んでくれる。他の住人やご近所に迷惑を掛けるようなトラブルにだけきちんと気をつけていれば、案外うまくいくんですよね。『やりたいけど、きっかけがない』とか『めんどくさい』とか、いろいろありますけど、とにかく一度失敗を恐れずにやってみることが大事だと思いますね」

失敗を恐れずに、やりたいことをやってみる。それはまさに、前代未聞のセルフビルド建築・沢田マンションの成り立ちそのものかもしれません。頭でっかちになりすぎず、自分の好奇心や面白いと感じる気持ちに従うことができれば、マンションのイベントはもっと楽しくなる。そして、そんなマンションがひとつでも増えれば、きっと日本はもっと素敵な国になるのではないでしょうか。

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▼編集元 マンション・ラボ

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