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2018年06月07日 05時50分 JST | 更新 2018年06月07日 14時29分 JST

ネットを飛び出してコーヒーをおごりまくったら、悟りがひらけた。

5000字インタビューより大切な、1杯500円のコーヒーの話

月曜日。どんな人が何人くらい来てくれるかソワソワしていたハフポストメンバー。
HuffPost Japan
月曜日。どんな人が何人くらい来てくれるかソワソワしていたハフポストメンバー。

よく晴れた金曜日の午後。私はハフポスト日本版の編集部ではなく、ブルーボトルコーヒー六本木カフェにいた。

ハフポストが平日の5日間、読者500人にコーヒーをおごるという企画の最終日だった。

エディター(記者・編集者)として普段愛用している「MacBook」をリュックにしまい、代わりにコーヒーカップを手にしていた。

正直、私は少し、気負っていた。

この企画で、これからのメディアの存在価値を確かめたい。本気でそう思っていたからだ。

私は2017年、新卒から6年間勤めていた大手広告代理店をやめて、ハフポストに転職してきた。派手なCMでは、もう人が動かない。プレスリリースをつくって、企業の商品がメディアに取り上げられても、誰の行動も変えていない。ネットで、ハッピーな世界が来ると思っていたのに、みんな背中を曲げて、いつもスマホに目を向け生きている。

もう一度、発信することの価値を考えたくて、ニュースメディアに来た。そして「発信すること」を根本的に考えるために「コーヒー」を用意した。

HuffPost Japan

結構謎なイベントでした。

イベントの概要はこうだ。

・5/21から5/25の夕方5時から7時の間、六本木のブルーボトルに来てくれたお客さんに、ハフポストがコーヒーを1杯ごちそうする。

・合言葉は「アタラシイ時間」。なんとなく停滞している日本の社会。みんながオフィスや家や学校を少し抜け出し、コーヒーを飲む時間をつくれば、何かが生まれるはず、という思いを込めた。

・ゲストも出し物もなし、パワポもなし。ふらっとコーヒーを受け取りに来ていただく。

・ハフポスト日本版のメンバーも店にいる。ニュースも議題もない。とにかくみんなで、「ボーッとしましょう」「会話をしましょう」と呼びかけた。

結構な謎イベントだった(笑)。

HuffPost Japan

もう少し説明させてください。

やってみるまでめちゃくちゃドキドキした。

スベるんじゃないか。「無料」目当ての長い列ができて、パニックになるだけではないか。

最後は「えいやっ」で腹をくくって、とにかく「真っ白な時間を用意しよう」と考えることにした。

結果は以下の通り。

 ・月曜日:約20人

 ・火曜日:約30人

 ・水曜日:約40人

 ・木曜日:約90人

 ・金曜日:約200人

スローなSNSを見つけた。

初日はゆっくりと始めて、来てくれたお客さんと"呼吸合わせ"をした。

平日の夕方。みんなが「コーヒー飲んだよ」とSNSに投稿し始め、話題が広がる。「明日行くね」「金曜日にのぞいてみる」。声をかけてくれる人が増えていく。

数十万のフォロワーがそれぞれいるハフポストの公式Twitter、Facebook、LINEでの告知も控えめに。

普段書いている記事は、とにかく1人でも多くの人に読まれたい、と必死にSNSに投稿しているけれど、今回は、ネットの向こう側にいる相手を探るように、"のんびり拡散"を目指した。

うっかり来てしまった人たちが集まっている。

参加者から、こんな感想をもらった。

「(自分と)同じようによくわかんないけど、うっかり来てしまった人たちが集まってる。だから、当然そこで会話も生まれる。(中略)実りがあるとは言いがたいですが、たしかにそこにはいつもと違う時間があった」

「実は竹下編集長に会いたい、という方がいて連れて行ったんですが会えなくて『じゃあコーヒーでも飲みますか』となり、そのあと1時間以上いました。その方とは打ち合わせでは頻繁に顔を合わせていたんですが、初めて個人的な話をしたりして、すごくいい時間でした」

コーヒーを飲みに来なくても、独自に「イベント」を開いた人もいた。コンサルティング会社「プロノイアグループ」。午後3時、会議で煮詰まったとき、ハフポストの企画のことを知った社員が「ビアホールで会議をしよう」と口を開いた。ちょっとした一言を発する勇気で、同僚との話し合いの雰囲気が変わったという。

世羅侑未さんより提供

ハフポストの編集部員は、スタンフォード大のアメフト部の日本人コーチ、河田剛さんとアイスコーヒーを飲んだ。その席で、日大のアメフト部の危険タックルについて会話をして記事にまとめ、「日本の体育会系スポーツは変わるべきだ」と訴えた。300万PV以上を獲得した記事だ。

みんながスマホから目を離し、顔をあげてコーヒーを飲みながら人と話している。コーヒーカップを手に持っているから、名刺交換がしにくく、お互いの肩書きを知る暇もない。

多くの「アクション」が交差した。働き方改革、ダイバーシティ推進、ワークライフバランス、生産性。メディアがいくら記事で伝えても実感のなかった「ちょっとした変化」を目の当たりにすることができた。

HuffPost Japan
前職で出会った先輩、今の仲間、ひとつの場に集う不思議をかみしめていました。

メディアも広告も、ぜんぜん違うことをやり始めている。

今回の挑戦で感じたのは、ネットメディアはコミュニティを作れるということだ。出版ベンチャー「コルク」の佐渡島庸平さんは「WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE」(NewsPicks Book) で、こう言っている。

《今、多くの人が抱えているのは、情報が欲しいという欲望ではない。関係性を築きたいという欲望だ。》

ハフポストは、コーヒー片手に集った人々の間に「関係性」をつむぐお手伝いができただろうかーー。

今、このブログを書くにあたって、私は1人の「少女」を思い出している。

金融街のウォール・ストリートに立てられた「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」像だ。2017年の「国際女性デー」に合わせて立てられたこの像は、ウォール街の象徴である雄牛の銅像「チャージング・ブル」に向かい合う形で置かれた。

Brazil Photo Press/CON via Getty Images
2017年3月9日撮影

男社会だった金融の社会。今こそ、男性も女性も同じように活躍できる場所にしようーー。

ある金融会社が設置した少女像は、そんなメッセージを世界中に伝え、SNSにはこの像の隣で同じポーズを取った子どもや女性の写真が溢れかえった。

AFP/Getty Images
2017年3月8日撮影

私はこの像の存在に、1人の女性として勇気づけられた。そして同時に、一方的なメッセージが世界を変えることには限界がきていると直感し、この流れはもう元には戻らないと確信した。

ウォール街の少女のように、その場に佇むだけで、人々がひとりでに語り始めたくなるような場所を、設計しなければならない。メディアも、広告会社も。

最後に。

何はともあれ、私はコーヒー1杯で、少し自分の仕事の存在意義を見つめ直せた。

コーヒーの次はおにぎり?卵焼き?どこかに出張しちゃう? そんな話をしている。

ふらっと集うための「小さな言い訳」を用意して、

私はこれからも「恐れを知らない少女」のように、ニコッとして色々な人を迎えたいと思う。

コーヒー1杯のために集ってみれば、何だかちょっとだけ「アタラシイ時間」に出会える。

ハフポスト日本版は5月に5周年を迎えました。この5年間で、日本では「働きかた」や「ライフスタイル」の改革が進みました。

人生を豊かにするため、仕事やそのほかの時間をどう使っていくかーー。ハフポスト日本版は「アタラシイ時間」というシリーズでみなさんと一緒に考えていきたいと思います。「 #アタラシイ時間 」でみなさんのアイデアも聞かせてください。