「パパ、手抜きでいいからメシ作れ」って励まされても...政府の『おとう飯』推し、色々ズレてる気がする。

男性に、もっと家事や育児をするよう政府が呼びかける「"おとう飯(はん)"始めよう」キャンペーン」が発表された。この施策に対し、Twitter上などでは疑問の声もあがっている。

男性に、もっと家事や育児をするよう政府が呼びかける「"おとう飯(はん)"始めよう」キャンペーンが発表された。

男性にとって料理はきっとハードルが高いはずだ----そんな風に思った政府が、男性たちを励ますため、「イクメン芸人」として知られるお笑いコンビ「イシバシハザマ」の石橋尊久さんを巻き込み、「見た目がキレイではない料理でも大丈夫」「手抜きでも良いからまず作ってみて」と呼びかける。簡単レシピの紹介や料理を作る気にさせるイベントなどを開くという。

何となくモヤモヤした気持ちが湧いた。「前向きなこと」を呼びかけているはずなのに、どこかしっくりこない。

●男性だけの問題でなく"男女"の問題なのでは?

モヤモヤした理由のひとつは、「おとう飯」キャンペーンのコンセプトとなるフレーズに、このように書かれているからだ。

「これまで料理なんかできないと思っていたあなた、立派な料理を作らなければいけないと思っていたあなた、いいんです。"おとう飯"ならいいんです!」

なぜ、「お父さん」のご飯だけ、「手抜きでもいいんです」とここまで強調する形で励まされるのだろうか?

料理が「手抜き」になるのは、本人が苦手だという理由だけではない。そもそも、男女も関係ない。共働きも当たり前になってきた今の時代。誰だって仕事から帰ってきたら疲れて料理に100%エネルギーを注ぐことなんて出来ないはずだ。なぜ、「お父さん」のご飯だけ「手抜きでもいいんだよ」と励まされるのか。

Twitterでは、この呼びかけによって「自分にも出来たんだから女はもっと出来るだろ、みたいな流れになったら逆効果」という声があった。

日本人男性の家事に費やす時間を増やすために、政府が何とかしようと模索しているのは分かる。

内閣府の発表では、「6歳未満の子どもがいる男性」が1日当たり家事や育児に関わる時間は、日本では2011年の時点で67分なのに対し、スウェーデンが201分、ドイツは180分、アメリカは173分。男性がやらない分、女性の社会進出が遅れる。人口が減って労働力が不足し、経済の低迷が心配される日本にとっては死活問題だ。

けれど、「男性は手抜きでもいい」というメッセージだけだと違和感がある。「仕事や育児で疲れた女性も手抜きでいいんだ」と男女ともに気付けるようなメッセージも同時に発信した方が、現代に合っているのではないかと思う。

●家事参加への意識よりも"働き方"の問題なのでは?

男性の家事参加時間が低いのは、慢性化した長時間労働のせいではないかと思うからだ。「料理の苦手意識をなくしてね」と政府が男性たちの「マインド」を変えるというのは、ピントがずれているようにみえる。

政府が発表している「1人当たり平均年間総実労働時間」のデータによると、日本人の実労働時間は、1980年以降減少を続けているものの、他の先進諸国と比べて長い。

また、年次有給休暇取得率は2014年時点で、50%を下回り男性単体で見ると44.8%と、まだまだ有給取得が十分でないことがうかがわれる。

企業の働きかた改革に取り組む「株式会社ワーク・ライフバランス」のワーク・ライフバランス コンサルタントの田村優実さんはこう話す。

「男性や家庭内の意識は、もう変わってきていると思います。根本的な問題は長時間労働であり、政府や経営者の『働き方改革』が求められます。現状の『働き方』では多くの人が、家事をする時間や、家事をしてみようと思う心の余裕を持つ時間が持てていません」と話す。

「長時間労働の解消が日本人の家事参加時間を増やす」という因果関係についても、田村さんは自身の経験からこう振り返っている。

「私自身は女性ですが、長時間労働をしていた時に家で料理をせず、これは『自分がやる気がないからかもしれない』と考えていました。でも、転職して長時間労働が解消され、早く家に帰れるようになったら『料理でも作ってみよう』と自然と家事に時間を割くようになりました」

大事なことは男性に限った問題ではないということだ。また、「料理が下手でも大丈夫」と呼びかけられることによって、料理をするようになったわけでもない。

政府は2017年3月に「働き方改革実行計画」を閣議決定し、「長時間労働の是正」や「外国人人材の受け入れ」などの検討テーマを掲げ、働き手の負担軽減と経済成長をなんとか両立させようとしている。しかし具体的なアクションは、当事者の実感値として実現してきてはいないようだ。

Twitterでは、「やりたくても仕事のせいで時間がない」という声があがった。

●"家庭内"で解決できることではないのでは?

「おとう飯」キャンペーンに対しては、ネット上でも賛否の意見が広がった。

仕事、育児、介護、家事。核家族化も進む。大きな経済成長が期待できない中、ひとり一人の働き手の負担は増えている。

個人の力ではどうしようもないところもある「働きかた」をめぐる苦労に対して、「おとう飯」という、解決策を家庭内に求める政府の施策に、「何で政府は個々人の負担を増やすのか」という戸惑いが広がってしまったのではないだろうか。

政府も「長時間労働の是正」や「外国人人材の受け入れ」など様々なマクロの施策を打っている。個人への「余計なお世話」の前にそちらに集中してくれれば、みんなのモヤモヤ感も消えるだろう。

「前向き」であるはずの施策が、何となくしっくりこない。その違和感は、多層的な課題を今まさに抱えている当事者たちに、その解決を押し付けているからかもしれない。

産経デジタルなどによると、「"おとう飯(はん)"始めよう」キャンペーンの式典で、担当大臣の加藤勝信・1億総活躍担当相は、「鶏もも肉のうま煮」をほおばり、「味が染み込んでいておいしい」とご満悦だったという。モヤモヤはつのる。

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