医学部の学費を考える

舛添要一・東京都知事が頑張っている。東京都のカジノ構想を「私にとって優先課題ではない」と切り捨てたが、多くの国民は拍手喝采だったのではなかろうか。

舛添要一・東京都知事が頑張っている。東京都のカジノ構想を「私にとって優先課題ではない」と切り捨てたが、多くの国民は拍手喝采だったのではなかろうか。国の成長戦略が賭博では、あまりにも情けない。

舛添氏は、医療への造詣が深い。今後、我が国の医療政策論争の台風の目になるのは間違いない。彼を見ていると面白い。自ら定めた目標を達成するためには、どんなに失敗しても、叩かれてもへこたれない。まさに九州男児だ。福岡県八幡市(現北九州市)の出身である。

この機会に、舛添氏以外の関東の知事の出身地を調べてみた。神奈川県の黒岩祐治知事は兵庫県神戸市。埼玉県の上田清司知事は福岡県大牟田市。南関東で唯一の関東地方出身知事は千葉県の森田健作氏である。東京の大田区出身だ。一方、栃木、群馬、茨城県など東京都と隣接しない北関東の知事は、全てが自県出身者だ。

余談だが、今回の都知事選の候補の出身地も面白い。細川護煕氏は東京育ちだが、肥後熊本藩主の細川家の第18代当主、宇都宮健児氏は愛媛県東宇和郡(現西予市)、田母神俊雄氏は福島県郡山市、家入一真氏は福岡県古賀市、そして出馬しなかったが世間を賑わせた東国原英夫氏は宮崎県都城市出身だ。純粋な関東地方出身者がいない。

以上の事実は、南関東に全国からトップランクの人材が流入し、地域を活性化させていることを示唆する。一方で、この地域での人材育成に問題があるという見方も可能だ。

実は、この状況は医療でも通用する。例えば、日本医学会会長の高久史麿氏は福岡県小倉中学卒だし、山中伸弥、中村祐輔氏など我が国を代表する医学者は圧倒的に西日本出身者が多い。

なぜ、こんなことになるのだろうか? 私は医学部の偏在が影響していると考えている。特に、国公立大学の医学部が関東地方には少ない。人口390万人の四国に4つ、人口1310万人の九州に7つ、人口577万人の中国地方に5つ存在するのに対し、人口4260万人の関東には6つしかない。

私立大学の学費は高い。例えば、川崎医大は4,565万円(6年間の納付金)、金沢医大は3,950万円である。もっとも安い慶應義塾大学でも2,051万円だ。国立大学の医学部の学費(約350万円)とは比べものにならない。

私立大学医学部の進学者の多くが、開業医をはじめ、高額所得者の子弟で占められるのも無理はない。関東地方には16の私立大学医学部(自治医大を除く)が存在するが、このような大学は「医師の世襲化」を推し進める役割を担ってきた。

関東地方のサラリーマンの家庭に育った高校性にとって、医学部は難関となっている。四国の7倍、中国地方の6倍難しいと言っていい。どうしても医学部に進みたい高校性の中には、東北地方や中部地方などの国立大学医学部に進む者も出てくる。彼らが卒業後、故郷の関東地方に就職したくなるのも当然だ。

このように考えると、我が国の医学教育には著しい国内格差がある。教育格差は所得格差につながり、社会階層を固定化しかねない。

多くの大学で、医学部は強い影響力を持つ。医学部の停滞は、高等教育の停滞につながりかねない。それは各地の高等学校以下の教育レベルを低下させる。多くの地域では、地元の大学進学を目指し、子供たちは勉強するからだ。冒頭にご紹介した関東地方の知事の出身地を見る限り、既にその兆候が現れている。

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この文章は「医療タイムス」に発表した文章に加筆修正したものです

東京大学医科学研究所

先端医療社会コミュニケーションシステム

社会連携研究部門

特任教授 上 昌広

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