事務方に学べ 若い医師にとっての「先生」は、院内のいたるところにいる

私は、若き医師たちに「事務方の人に感謝すること」と教えている。

もうすぐ四月。今年も私たちの研究室から若者たちが巣立っていく。みな期待に胸を膨らませ、素晴らしい医師になりたいと希望している。

彼らを送り出す際、いつも言うことがある。それは「勉強と仕事は違う」だ。

勉強は基本的に自分一人でやる。むしろ、周囲に付和雷同せず、一人でコツコツやる方がよい。

ところが、医師の仕事は違う。そもそも患者を相手にするし、看護師など他職種とも連携する。周囲から信頼されなければ、仕事にならない。

ただ、多々ある医療関連職の中で、若き医師にとって特に重要なのは看護師と事務方だ。

医師と看護師の協力については、すでにいわれ尽くしている。改めて説明するまでもないだろう。

一方、事務方の重要性は、医療専門の媒体でなければ、ほとんど紹介されることはない。医大生や研修医向けの媒体でも同様だ。私は、若き医師たちに「事務方の人に感謝すること」と教えている。

それは、診療業務が円滑に進むには、裏方としての事務方の参画が欠かせないからだ。若者が実績をあげたければ、事務方と信頼関係を構築することが重要である。

ところが、よほど気をつけない限り、若き医師が、このことを理解するのは難しい。それは、病院経営は診療報酬で成り立っているからだ。

診療報酬は、医師の医療行為に対して支払われる。医師しか、金を稼げないため、院内では医師が力を持つ。研修医ですら「先生、先生」と持ち上げられる。

ただ、これを真に受けてはならない。「先生と呼ばれるほどの馬鹿でなし」という川柳があるが、まさにその通りだ。若いうちにおだて上げられると、使い物にならない医師が出来上がる。

病院にとって若い医師は有り難い。安い給料で文句も言わず、たくさん働いてくれるからだ。だから、チヤホヤされる。

ただ、医師も年をとれば要らなくなる。給料が上がるのに、働かず、文句ばかりいうため、使いにくくなるためだ。経営陣は肩たたきする。このあたり、サラリーマンの世界と同じだ。

では、年をとって生き残るにはどうすればいいのだろう。それは「仕事ができるようになること」だ。若い人にはできないことがやれないといけない。そのためには、どのような能力が求められるのだろう。

それは、調整力、段取り力、コミュニケーション能力などだ。このような能力が高ければ、実績があがり、組織内でのプレゼンスも高まる。

残念ながら、このようなスキルは医学部の授業や実習では身につける事ができない。また、現在の臨床研修制度や専門医制度でも重視されていない。

どうすればいいのだろうか。仕事をして、実務を積むしかない。その際、私は「就職した病院で、優秀な事務方のやり方を盗むように」と指導している。つまり、身近にいる優秀なマネージャーを見つけることだ。

どこにいけば、そのような人材に会えるのだろう。成長している、経営状態の良い民間病院で修業するのがいい。いい民間病院には優秀な事務方がいる。

例えば、当研究室のスタッフで、現在、福島県の相馬中央病院で診療する坪倉正治医師や森田知宏医師には「佐藤美希さんを見習うように」と指導している。

彼女は、相馬中央病院の総務係長だ。私自身、福島で活動して、困ったことがあれば、彼女に相談している。

(写真) 相馬中央病院総務係長の佐藤美希さん。

彼女は非常に聡明だ。仕事が速い。相談すると、即座に院内の適切な人に話を通してくれる。相馬中央病院の理事長で、相馬市の市長である立谷秀清氏にもダイレクトに話す。彼女が立谷市長から信頼されているためだ。

佐藤さんのやり方をみれば、相馬中央病院で仕事をする際に、誰を通して、どうやれば仕事が進むかが分かる。前出の坪倉医師や森田医師にとっての格好の教科書だ。

やり方を学べば、仕事も速くなる。速くなれば、自然と業績もあがる。周囲から信頼され、チャンスも増える。好循環となる。

いわき市で常磐病院などを経営する公益財団法人ときわ会の事務方も良い。佐藤隆治氏(ときわ会事務局長)、神原章僚氏(同事務局次長)、黒田浩行氏(同常磐病院事務長)らだ。

ときわ会はいわき市で急成長中の組織だ。中核である常磐病院では、震災前8名だった常勤医が19名まで増えた。4月からは東大医科研の大学院を卒業した森甚一医師が就職し、血液内科を開設する。彼は都内の大学病院の助手を断り、ときわ会に就職した。

ときわ会は、一般診療だけでなく、震災後、内部被曝検査から幼稚園、学童保育を立ち上げ、現在、看護師育成機関設立を準備中だ。

勿論、中心になって動くのは前述の三名の事務方だ。皆さん、気さくだ。よく飲む。そして、相手を取り込んでしまう。何を隠そう、私もその一人だ。

ときわ会に勤務すれば、どうやって資金を調達し、関係各所に根回しし、さらにスタッフをリクルートしてくるかを目の当たりにすることが出来る。

(写真)左からときわ会の黒田浩行氏(ときわ会常磐病院事務長)、佐藤隆治氏(ときわ会事務局長)、神原章僚氏(ときわ会事務局次長)。

実は、佐藤美希さんやときわ会の3人の能力こそ、若き医師がリーダーに成長する上で身につけなければならないことだ。「プロジェクトマネージメント」の力である。院内の至るところに、若き医師にとっての「先生」がいる。貪欲に学んで欲しいと思う。

*本稿は筆者の「医療タイムス」の連載に加筆したものです。

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