若手医師が注意すべき、新専門医制度との付き合い方

若手医師が進路を考える上で注意すべきは、我が国の医療が都市部から崩壊していることだ。

2017年が明けた。今年は医療界にとって試練の年になるだろう。

若手医師にとって重要なのは、新専門医制度との付き合い方だ。私は、この制度について聞かれると、逆に「専門医資格をとるのは何のためですか」と質問することにしている。

「技術レベルの向上」や「専門医資格がないと将来は就職できない」と答える人が多い。果たして、本当にそうだろうか。

若手医師が進路を考える上で注意すべきは、我が国の医療が都市部から崩壊していることだ。コストは高いのに、診療報酬は全国一律だからだ。経営改善のためには人件費を削るしかない。昨年は聖路加国際病院にも労基署が入り、サービス残業の問題が指摘された。

最近、首都圏の有名病院で研修している医師と話す機会があった。彼は「医局での話題は給料が安い、待遇が悪いばかりだ」という。

この病院を受診する患者は多いが、医師も多い。このため、医師一人あたりの患者数は、地方の一般病院より少ない。彼が「多くの若手医師が医局で暇そうにだべっている」と言うのも頷ける。

この事実は、多くの基幹病院で、医師が過剰になっていることを意味する。私は、医師数を半分に減らし、給与や症例数を増やせばいいと思うが、一筋縄ではいかないらしい。以前、この病院の幹部を務めた医師は「出来るだけ多くの若手医師を抱えたいというのは経営者の本能」という。多くの医師を抱えることが自己目的化し、病院経営の効率より優先されているのだ。

このように考えれば、昨年の新専門医制度をめぐる大学教授たちの議論も納得がいく。ただ、こんなことが長続きする筈がない。

それは、大学病院が得意とする高度専門医療は、既に「選択と集中」が進んでおり、大きな成長が期待出来ないからだ。

例えば、首都圏のがん治療は癌研有明病院の一人勝ちだ。大学病院は歯が立たない。大学病院は、補助金(研究費や製薬企業からの資金援助を含む)なしでは立ちゆかないし、若手医師が、新規技術を身につけても、彼らを雇用し、新たにがんの高度医療をやろうとする医療機関は少ない。「レッドオーシャン」と言っていい。

高齢化社会では医療ニーズも変化する。従来型の高度医療より、終末期や認知症医対策、在宅・遠隔・コンビニ医療などが求められる。このような領域は成長する。若手医師の多くは、このような分野で雇用されるはずだ。

重要なのは、このような分野を主導するのが大学病院よりも、地方の民間病院の可能性が高いことだ。現に、福島県内では、いわき市のときわ会グループや平田村のひらた中央病院など、優秀な経営者が率いる民間病院の躍進が目覚ましい。

若者がとるべき戦略は、このような組織に軸足をおいて経験を積むことだ。大学病院など専門機関は、もし習得すべき技術があれば、短期間だけ研修に行けばいい。議論されている中核病院と協力病院の関係とは正反対になる。

若手医師は、いまこそ、自らの将来を真剣に考えるべきだ。中途半端な専門医資格など必要ない。若い時間は貴重だ。実力をつけなければ、将来路頭に迷うことになる。

現行の医療制度は早晩、破綻する。国が一律に価格を決め、赤字の組織には損失を補填し、業界は国の意向ばかり伺っているからだ。このやり方は、国が支えきれなくなればもたなくなる。

その証左が銀行業界の歴史だ。筆者は87年に東大に入学した。バブル経済の真っ盛りに学生時代を過ごした。全学の剣道部に所属したため、多くの友人が銀行に就職した。悲しいかな、銀行業界の淘汰再編の中で、多くが挫折した。自分の頭で考えた、一部の人たちは、はやばやと他業種や海外の企業に転職した。そして、成功を収めた。

護送船団という点で、医療界は、かつての銀行業界と酷似する。同じような展開を辿るだろう。

若き医師たちが生き残るためには、自らの頭で考え、そして行動しなければならない。今年を、その最初の年として欲しい。

*本稿は「医療タイムス」に掲載した文章に加筆修正したものです。

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