沖縄は本気で抵抗している

普天間飛行場の辺野古移設は実現可能性がない。そのことを誰よりもよくわかっているのが外務官僚と日米安保族の政治家だ。米国相手に「一生懸命やった」というポーズを示すために政府は沖縄の保守政治家に圧力をかけているに過ぎない。

東京を中心とする情報空間と、沖縄の乖離がかつてなく拡大している。このままの状態が続くと、沖縄の日本からの分離が始まる。国際基準で見た場合、現在、沖縄で生じている出来事は、民族問題の初期段階だ。しかし、大多数の日本人には、このことが皮膚感覚としてわからない。

ここで沖縄にルーツがあるという自己意識を持つ人々を暫定的に沖縄人と定義しておく。沖縄人は誰であれ、程度の差はあるが、沖縄人と日本人の複合アイデンティティを持っている。複合アイデンティティを持つが故に、極端な方向に走り、日本人以上に日本人になろうとする沖縄人がでてくる。また逆に、日本人であるという自己意識を捨て、民族(ネーション)としての沖縄人を確立しなくてはならないと考える人もいる。

しかし、大多数の沖縄人は、複合アイデンティティの整理がつかずに当惑しているというのが現状と思う。

母親が沖縄の久米島出身である筆者も沖縄人と日本人の複合アイデンティティを持つ(ちなみに父親は東京都の出身)。この複合アイデンティティが、この数年、沖縄人にシフトしつつある。いまここで、「日本人か沖縄人のどちらか一つだけを選べ」と強要されたら、私は躊躇することなく「沖縄人を選びます」と答える。現時点でこのような二者択一を迫られる情況になっていないことを、私は幸せに思う。

私が沖縄人としての自己意識を強めている要因は、東京の政治エリート(国会議員、官僚)、さらにマスメディアが、日本による沖縄に対する構造化された差別について、あまりにも無自覚だからだ。さらに米海兵隊普天間飛行場の辺野古(沖縄県名護市)への移設を強引な手法で推し進めようとする中央政府の手法に沖縄差別の強化を見るからだ。

差別が構造化されている場合、差別をする側にいる人々は、自らが差別者であることを自覚しないのが常態だ。それだから、差別される側は、常に異議申し立てをする。しかし、差別する側は、それを被差別者による異議申し立てとは受け止めず、地域的、グループ的利害に基づいた「わがまま」と捉える。東京で流通している「沖縄では、革新が基地に対して反対を唱え、保守がそれで中央政府からカネを取る。辺野古への移設も、最終的にはカネで解決する」などという言説が、沖縄人には容認できない差別性をはらんでいることに、多くの日本人は無自覚だ。しかし、沖縄人はもはやかつてのような受動的姿勢は取らず、構造的差別を脱構築する課題に本気で取り組んでいる。

私は、ハフィントン・ポストでは、今後、積極的に沖縄に関する論考を発表していくことにしたい。東京の政治エリート、マスメディア関係者に沖縄の内在的論理を知って欲しいと思うからだ。中央政府の強権的な沖縄差別政策に対して、自らのアイデンティティをかけて沖縄人が団結し、本気で抵抗していることを日本人に理解可能な言語で説明すること試みたい。

11月29日付のブログで自民党の石破茂幹事長が、特定秘密保護法案に反対するデモについて「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます」と述べたことが顰蹙を買っている。

自民党の石破茂幹事長のブログに、デモ参加者や識者から怒りの声があがった。

「なんだ、これは」。29日のデモに参加した東京都世田谷区のパート、中山照章さん(60)は同日夜にツイッターでブログを知り、驚いた。「『法案は民主主義を壊すものだ』と訴えている矢先に、反対意見を狙い撃ちにしたい政権の本音が出た。反対運動が盛り上がってきて、焦っているのではないか」と話す。

「デモとは何か」の著書がある五野井郁夫・高千穂大准教授(国際政治学)は「人々が声をあげるのは、法案を承服していないから。(デモを)石破氏は『絶叫戦術』と言うが、やむにやまれず声を出しているのであり、テロ行為と変わらないというのは民主主義を愚弄している」と指摘。そのうえで、石破氏の政治家としての資質にこう疑問を投げかけた。

(11月30日『朝日新聞デジタル』)

石破氏は、ブログの内容が問題視されるとは夢にも思わず、本音を語ってしまったのであろう。このブログで石破氏は沖縄についても興味深い発言をしている。

沖縄・普天間移設問題に明け、それに暮れた1週間でした。

その間に特定秘密保護法案の衆議院における可決・参議院への送付という難事が挟まり、いつにも増して辛い日々ではありましたが、沖縄県選出自民党議員や自民党沖縄県連の苦悩を思えばとてもそのようなことは言っておれません。

多くの方がご存知のことと思いますが、沖縄における報道はそれ以外の地域とは全く異なるものであり、その現実を理解することなくして沖縄問題は語れません。沖縄における厳しい世論にどう真剣かつ誠実に向き合うのか。私は現地の新聞に「琉球処分の執行官」とまで書かれており、それはそれであらゆる非難を浴びる覚悟でやっているので構わないのですが、沖縄の議員たちはそうはいきません。

繰り返して申し上げますが、問われているのは沖縄以外の地域の日本国民なのです。沖縄でなくても負うことのできる負担は日本全体で引き受けなくてはならないのです。

防衛相を経験した石破氏は、自らが21世紀の「琉球処分官」であることをよく自覚している。米海兵隊普天間基地の移設先が辺野古である必然性はどこにもないことを石破氏はわかっている。政治エリート(国会議員、官僚)が沖縄以外の日本に基地を移設する努力をするつもりがサラサラないから、沖縄に基地の過重負担を強要することになる。もっとも1879年3月、処分官・松田道之が随員、警官、兵をあわせて約600人を従えて琉球王国は滅ぼしたときと21世紀の現在では時代精神が異なる。中央政府が強圧的姿勢をとると沖縄では本格的な分離運動が始まり、日本の国家統合が崩れる。

しかし、全国紙からは問題の深刻さが伝わってこない。11月25日に石破幹事長と沖縄関係自民党国会議員の会談に関する報道からして実態からずれている。『朝日新聞』の報道を引用しておく。

自民党の石破茂幹事長と沖縄が地盤の同党国会議員5人が25日、党本部で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題について会談した。石破氏は会談後、5人と記者会見し、移設先について同県名護市辺野古沖を含むあらゆる可能性を排除しないことで一致したことを明らかにした。事実上、辺野古移設の容認となる。

(中略)5人のうち宮崎政久、西銘恒三郎両衆院議員と島尻安伊子参院議員は辺野古容認を表明。残る辺野古移設に慎重な国場幸之助、比嘉奈津美両衆院議員の対応が焦点だった。国場氏は25日、石破氏らとは別に単独で記者会見し、「県外移設の公約は堅持する。変えれば有権者への裏切りだ」と強調する一方、石破氏との会談で普天間飛行場の危険性除去について「全ての可能性は排除すべきでない」という一点で合意したと説明した。比嘉氏は記者団に「県民の命の方が大切だと考えて、決断をした」と語った。

(11月25日『朝日新聞デジタル』)

この報道では、國場幸之助氏の立場が正確に伝えられていない。國場氏は辺野古移設に向けて舵を切ったわけではない。「事実上、辺野古移設の容認になる」というのは、東京の政治エリートの願望に過ぎない。『朝日新聞』がこのような報道をするのは、法廷用語を用いるならば「不当要約」だ。歴史家の比屋根照夫氏は、

國場氏は、米海兵隊普天間飛行場の沖縄県外への移設の公約を堅持している。氏は、革新勢力におもねって、県外移設の公約を堅持しているのではない。むしろ保守的な立場から、県内移設を強行すれば、流血の事態が発生し、辺野古にとどまらず、嘉手納基地を含む沖縄の全米軍基地閉鎖要求が「島ぐるみ」で起き、日米安保体制を弱体することを懸念している。辺野古基地建設を強行する場合、流血が不可避になる。日本の国家権力により、沖縄人が殺される事態が生じれば、沖縄で分離傾向が強まり、日本の国家統合が揺らぐ。

國場氏は、先読みが出来る保守政治家として、安保と日本の国家統合を真剣に考えているので、普天間飛行場の沖縄県外移設の公約を撤回しないのだ。「全ての可能性を排除すべきでない」という選択肢には、当然、沖縄県外への移設も含まれる。

11月30日、自民党沖縄県連が、県関係国会議員でつくる「かけはしの会」の会談においても、國場氏は、態度を変えていない。

(翁長政俊県連会長によると)國場幸之助衆院議員は「『あらゆる』には県外も含まれており、私は公約をたがえたと思っていない」との考えを述べた。

(12月1日『琉球新報』)

國場氏のこの姿勢に対して、『沖縄タイムス』は冷ややかだ。12月2日付社説でこう指摘した。

米軍普天間飛行場の辺野古移設問題で自民党県連(翁長政俊会長)は1日、常任総務会を開き、辺野古移設容認の方針を正式に決めた。翁長会長は政策変更の責任をとって辞意を表明した。

「普天間飛行場の危険性除去と早期返還・固定化を阻止するため、辺野古移設を含むあらゆる選択肢を排除しない」。回りくどくて分かりにくい表現は、官僚の作文をほうふつとさせる。逃げ道づくりに腐心したような表現だ。

案の定というか、「あらゆる選択肢という言葉には県外移設も含まれる」と釈明する国会議員も現れた。

名指しはしていないが、この国会議員は國場氏のことである。

他方、同日の『琉球新報』社説は、こう指摘する。

公約撤回後、初めて国会議員、県議がそろい踏みし、結束を印象付ける狙いもあっただろう。県外を堅持して沖縄1区支部役員を辞任した那覇市議団に続く、翁長会長の辞任表明は、県連が一枚岩でないことを逆に露呈した。

それは、国場幸之助氏の発言にもうかがえる。国場氏は「辺野古移設が、唯一絶対のプランであるのか分からない」とし、「県外移設」の公約堅持を強調した。有言実行を求めたい。

字義通りに解釈すれば、県連方針の「あらゆる選択肢」の中には、「県外・国外移設」が含まれる。自民県連は「辺野古移設」で思考停止すれば、県民からしっぺ返しを食らうと肝に銘じるべきだ。

『琉球新報』は、國場氏が辺野古移設に疑念を持っていることを読み取り、沖縄自民党が「あらゆる選択肢」の中から「県外・国外移設」に向かう流れを作ろうとしていることを示している。

沖縄情勢を読み解くときは、このような細かなニュアンスが重要だ。

繰り返すが、普天間飛行場の辺野古移設は実現可能性がない。そのことを誰よりもよくわかっているのが外務官僚と日米安保族の政治家だ。米国相手に「一生懸命やった」というポーズを示すために政府は沖縄の保守政治家に圧力をかけているに過ぎない。このゲームが、日米安保体制を弱体化し、沖縄の分離傾向を強める結果になるということを、知的に怠惰な東京の政治エリートには予測できないのだ。

次回は、今後の情勢を分析する上で、重要な示唆を与えている仲里利信沖縄県議会議長(11月29日に自民党を離党表明)の言説を取り上げる。

(2013年12月3日脱稿)

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