出来レースの選挙がまかり通る理由 -「あなたは選挙をどう習いましたか?」

そういう知識を持って自分のアタマで考えれば自分の取るべき行動が見えてきます。学校も新聞もこうしたことを教えない。だから世の中はよくならないという話ですよね。

小さな世界に閉じこもる人が増え、教養との分断が進むことに危機感を覚えました。

教養は私たち1人1人にとって大切なのか、そのヒントをもらいに出口さんが創業された会社「ライフネット生命保険」に足を運びました。今回は第2回です。

02 出来レースの選挙がまかり通る理由

03 だから政治は嫌われる

04 皆が一致していないのは当たり前の社会

05 少数者しか世界を変えない

06 格差は悪くない。大事なのははしごがかかっているかどうか

07 がまんできない大人たち

08 手紙を書いても人間関係は続かない

02 出来レースの選挙がまかり通る理由

田中 そう考えると、好きなことを続けていくって大事で、社会では評価されていると思うんですけど、

一方で、小さなコミュニティにとどまりすぎると他の世界を知らない、他のことへの想像力がなくなる人が増えて、偏った教養になってしまうのではとも思います。

出口 世界は広いのでそういうことはありますよね、若い世代は縮こまっている人が特に多いかも知れません。

それは仕方ないことですが、それってやっぱり知らないことが問題なんだと思います。

例えば、選挙についても、ヨーロッパの若者の投票率は7、8割。

日本の若者は2割、3割、これは単純に選挙に対するリテラシーが低いからだと思います。

投票にはいってますか?

田中 はい。

出口 どうしていかない人がいるのですか?

田中 投票にいっても変わらないという人もいるし、やっぱりめんどくさいという人が多い気がしますね。

優先順位は、投票より友達とのご飯。

出口 めんどくさかったら、ご飯を食べながら投票できる

「インターネット投票をやりましょう」という声をなんで上げないんですか?

田中 投票がめんどうなら声をあげるべきだと。

出口 そう。市民の権利なんだから。

例えば恋人とおいしいものを食べている時に、投票ができたらいいじゃないですか(笑)

田中 それは賛否両論ありそうですが名案ですね(笑)

友人同士でも声をかけあうことでその場でできますね。

インターネット投票は昔から必要といわれていますが、どうして進んでいかないですか?

出口 簡単にいえば、皆が投票に行かないと、既得権を持つ政治家しか通らないから。

政治家本人たちにやる気がおこらないからですよ。(笑)

普通の選挙で投票率が50%ぐらいなら、後援会や大政党の支持がある人しか通らない。

選挙に出たい人が少ない一番の理由は、選挙に通らないからですよね。

通る見込みがなければお金がかかるし、嫌でしょう。

投票率が70%くらいになったら後援会とか組織票の力の意味がなくなるんですよ。

そうしたら当選する可能性が出てきてチャレンジしようと思うようになりますよね。

田中 気持ちの面でがらっと変わりますね。

出口 G7の中でみると、二世、三世議員(世襲議員)の比率が1割を超えている国はどこもないんですが、日本は5割を超えているんです。

田中 これも支持基盤や後援会、組織票によるものですね。

これでは風通しが悪くなりますね。

出口 日本の喫煙率は、今二割もないんですが、国会議員の喫煙率は五割を超えているんです。

2人に1人はタバコを吸っている組織が受動喫煙の法律を通すことに一所懸命になるはずがないじゃないですか。

田中 自分たちにとって損ですもんね。

出口 そう。彼らは大政党や後援会をつくっているわけですから、

インターネット投票をやって投票率が上がったら困るわけですよ。

田中 そうとわかっていながらやっているんですかね。

出口 そうです。だって、昔、とある総理大臣が、「無党派層は家で寝ていてくれればいい」という趣旨の発言をしていました。

それはとても正直な発言。

投票率が低ければ、大政党や後援会のある人が勝つに決まっているわけですね。

出来レースだし、こんな美味しい話はないわけですよ。

田中 そういう構造を知っていれば、選挙に行く人は増えそうですね。

出口 そうそう。

他にも選挙の投票率に関していえば、あなたは政治の時間に選挙をどう習いましたか?

田中 参議院と衆議院の定数を教えてもらって、テストのときにどっちがどっちかごっちゃになっていましたね。

習ったというより、教科書に書いてあるよくらいの感覚ですかね。

出口 そんなの意味ないですよね(笑)

ヨーロッパでは選挙はどうやって教えていると思いますか?

田中 模擬選挙ですか?

出口 もっと簡単です。

選挙の事前予想をメディアが出します。

その事前予想に賛成であれば、そのあととるべき行動は3つあります。

1投票に行ってその通り書く。

2棄権する。

3白票を出す。

全部結果は同じです。

事前予想に反対だったら、あなたには採るべき方法は1つしかありません。

投票に行って、違う人の名前を書く以外に意思表示はできません、これが選挙です、

以上おしまい。

田中 この話を聞くと、選挙に対するモラルというのかな、が根底から違いますね。

出口 そうです。これはけっこう深い話で、日本では大新聞でも、棄権が増えたから政治不信が増しているとか言っているでしょ、違うんですよ。

棄権というのは、今の有力者に票をいれるのと同じなので、政治不信なはずがないと思います。

政治不信を表明するんだったら違う人の名前を書くしかない、という当たり前のことを新聞記者ですら知らないわけです。

田中 棄権という言い方をしていますが、投票に行かない人はそもそも信じる、信じない以前の話ですもんね。

不信を表したいのであれば、投票にいくべきだ、と。

出口 こういうふうに教えてもらえれば、中学生、高校生は、

「そうか、今の人でよければ、投票に行ってその通り書いてもいいし、棄権してもいいし、同じなんだね」

と思うわけです。

こういうように具体的に教えられたら、わかりやすいから投票に行く人が増えます。

だからヨーロッパは投票率が8割になるんです。

これは社会の成熟度とリテラシーの問題です。

田中 あえて選択肢や情報を多く複雑にすることで、読み解きにくくなるという話もありますが、今の話はシンプルなので、誰でも理解できますね。

出口 そうでしょう。

それから、選挙については候補者のことがよくわからないとか、票を入れたい人がいないと新聞やネットには書かれていますよね。

これもヨーロッパでは、どう教えられているか、チャーチルの言葉は知っていますか?

田中 民主主義は最低の政治形態・・・ですか?

出口 そう、その前段の言葉が重要で、選挙に出たい人は自分も含めて立派な人なんていない。

みんな変な人ばかり、目立ちたがり屋、金儲けをしたい人など不純な動機を持っている人しか選挙には出ないんだとチャーチルは言っています。

田中 今の人はそういう人ばかりではない気もしますが(笑)

そういう前提で考えておいたほうがいいこともありそうですね。

出口 続けてチャーチルは、

「選挙とは、変な人の中から、少しでもましな人を選ぶ『忍耐』のことをいう。だから民主主義は最低」。

「ただし過去の王政や貴族政を除いては」

と言っています。

田中 つまりチャーチルは、選挙は忍耐だから最低だけれど、他にいい形態がないからしょうがなくその制度を選んでいるんだと。

出口 こういう当たり前のことを中学や高校で教えたら、「ろくなひとがいないから選挙なんてばかばかしくていけない」などという考えがいかに愚かかということがすぐにわかりますよね。

そういう人たちは、選挙に出る人は立派な人に違いないというありえない前提を置いているのです。

田中 立派な人たちで、何でもできるスーパーマンのように見えますが、国会議員の人たちも人間ですからね。

そう見せなくてはいけない空気もなんだか苦しそうですが。

人間なんだからもっと弱いところも見せてほしいとも思います(笑)

出口 チャーチルの言葉はファクトだけれども、そういう知識を持って自分のアタマで考えれば自分の取るべき行動が見えてきます。

学校も新聞もこうしたことを教えない。

だから世の中はよくならないという話ですよね。

03 だから政治は嫌われるにつづきます。

(インタビューの理念は田中將介インタビューサイトへ)

(写真:小野瑞希)

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