グーグル、インテル、フェイスブック... 最先端企業が「心のトレーニング」を始めた理由

ぜひ試していただきたいのが、グーグルやインテル、フェイスブックなどが大々的に取り入れ始めているマインドフルワークだ。これはマインドフルネスという概念をベースにしている。

■心の筋力と柔軟性を鍛える

頭に血が上る、胸がムカムカする、腸(はらわた)が煮えくり返る、キュンとくる、ジーンとなる、こみ上げるものがある・・・。こういった言葉が示すとおり、人間は感情の動き(情動)を何らかの生理的反応としてキャッチしている。

前回のブログでは、そんな情動と言語的思考(理性の働き)の間にあるタイムラグ(情動のほうが先に生じる)が、失言や意思決定の誤りにつながることにふれた。

とりわけネガティブな情動は発想を狭めることがわかっており、要注意である。習慣化された望ましくない言動、狭い視野からの反射的行動を招きやすいのだ。これは感情が暴れている状態で、思わず心にあるトリガー(銃の引き金)を引くようなもの。そこから銃弾の代わりに失言が飛び出し、拙速な判断やピントはずれな行動が生まれる。

このメカニズムは、われわれが祖先(原始人)から受け継いだものだ。常に命の危険にさらされていた祖先は、情動に応じて反射的に行動しなければならなかった。そのため脳のデフォルトは、すぐトリガーを引けるようになっているのだ。

私たち現代人が理性というポテンシャルを十分に活用するには、このデフォルトを書き換えなければならない。これは心を最適化するトレーニングとも言えるが、身体に置き換えれば、筋力と柔軟性を鍛えるようなものだ。

常に自分の注意を「今、ここで起きていること」に向ける訓練と(注意を向ける筋力を鍛える)、起きていることをしっかり認知した上で、最適の発言や行動を選べるようにする訓練(反応の柔軟性を鍛える)である。

■マインドフルワークは科学的瞑想

筋力不足や身体の硬さはスポーツで具合が悪いのと同じで、状況に対する注意不足、反応の硬直化は仕事のパフォーマンスを下げる。そこでぜひ試していただきたいのが、グーグルやインテル、フェイスブックなどが大々的に取り入れ始めているマインドフルワークだ。

これはマインドフルネスという概念をベースにしている。

マインドフルネスとは、「今この瞬間に完全な注意を向けた状態」のこと。誰かと会話している最中であれば、相手の話す事柄や様子に、完全に寄り添うことができている状態といえる。また同時に、相手の話を聞いている自分の中で起きること(感動、共感、反発、戸惑い等)にも、十分に注意を向けることができる状態だ。

基礎的なワークの内容自体は、言葉に抵抗のない方には、瞑想と受け取っていただけばいい。あえて私たちがマインドフルワークと呼ぶのは、これが科学的知見にもとづくリーダーシップ開発、パフォーマンス強化に向けたエクササイズの一環だからである。

呼び方はどうあれ、その変化は驚くべきものだ。継続的な訓練を行っている人(禅僧など)の扁桃体(情動をつくる中枢機能)は、不必要に活性化しないことがわかっている。

しかも昨今の研究では、2~3ヶ月の訓練をつづけた初心者からも、多くの望ましい変化が報告されている。それは仕事帰りにトレーニングジムに通い、専属トレーナーのもとで身体を鍛える感覚。こうして脳の働きを現代に、自分の環境に合わせてアップデートできるのだ。

■1日5分「真剣な呼吸」のススメ

基本となるワークは極めてシンプルだ。目を閉じるか半眼にして、ゆっくり自分のペースで呼吸をする。伝統的な瞑想法に則っていえば、鼻から吸って鼻から出て行く呼吸を、その出入口のところで観察する。

これが難しければ、吸う息と出す息、およびその間を意識するだけでもいい。また吸う息と出す息を1セットで1回として、1から10まで心の中でカウントする方法もある(10までいったら、9、8、と戻り、また繰り返す)。

難しく考えず、1日に5分でもいいので試していただきたい(弊社のトレーニングでは、1日10分、7週間つづけるプログラムをご提供している)。

試してみると、ほぼ例外なく出てくる感想は、「呼吸を意識したつもりでも、すぐに雑念が出てくる」というものだ。

実はここがミソで、自律神経の働きである呼吸ほど〝意識しづらいもの〟はない、のだ。だから注意がそれるのは当然のこと。そしていちばん大切なのは、注意がそれたことに気づいて、また注意を呼吸に戻すこと。

この「注意がそれた」、「それたことに気づく」、「注意を戻す」の繰り返しこそが、「トリガーを引かない自分」になるための筋力をつくる。

注意力を向けるのは、対象物に合わせて望遠鏡のズームを調節するようなもの。そして目の前にある状況をクリアにとらえ、今なにが起きているかを理解する。その注意力が状況の認知力を、さらに認知力が判断と行動の選択肢をもたらす。

不確定要素が高く、目まぐるしく変化する時代を、私たちは避けることができない。しかし不確実な時代に溢れ出そうな情動をうまく乗りこなし、最適の判断と行動につなげることは可能だ。トリガーを意図的に停止できるようになれば、そこから自分の世界が変わる。そして組織も変わってくる。私たちは、そんな手ごたえを強く感じている。

一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)理事 吉田典生

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