ネガティブでいるよりもポジティブでありたいと思うのは当然のこと。しかし「いつもポジティブを目指す」と言うのは、はたして本当に良い結果をもたらすだろうか?
cheering woman open arms at sunrise beach
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fatchoi via Getty Images

ネガティブでいるよりもポジティブでありたいと思うのは当然のこと。私もそう思ってポジティブ思考を目指しているときもある。

でも、誰かにイラっとさせられたときは、「こんな経験もポジティブに乗り越えよう」などと思っても、あとあとまで引きずるものだし、いつも物事をポジティブに持っていこうとする人には、本当の共感を持つことは難しかったりする。

そもそも、ビジネスにつきものの複雑で困難な状況や、絡み合った人間関係の中で、「いつもポジティブを目指す」と言うのは、はたして本当に良い結果をもたらすだろうか?

最初に結論を言ってしまうと、答えは否、である。

【ポジティブにこだわる人はポジティブから遠ざかる】

避けることのできないネガティブな状況、ネガティブな感情が反射的に起こっている自分や相手に対して、「ポジティブであらねば」、「ネガティブにとらえてはいけない!」と否定的に反応してしまう――。

これはけっきょく、忌み嫌っているネガティブのパワーを増幅することにしかならない。

たとえば、必死で期限までに作成した提案書を、上司から批判され今日中に大幅に書き直しするよう命じられたとする。

もともとこの上司は重箱の隅をつつくようなことを言い、結果としてチームのパフォーマンスを落としていることが明白。

「ああ、またか」と、あなたは落胆する。そしてムカムカとした苛立ち(ネガティブな感情)が反射的に起こってくる。

と、ここまでは人としての自然な気持の流れ。しかし最近読んだ本の影響で「ポジティブであること」を心に決めたあなたは、「だめだめ、ポジティブにならなきゃ」と、何とか気分を上げようとし、苛立つ自分を抑制して上司の立場になってみようと努力する。

結果はどうだろう。いつまでたってもそのネガティブな記憶が想起され、ふたたび「これじゃいけない!」と、心の自然な動きに立ち向かう。

この過程で、私たちは無意識に何度も自分や相手にダメ出しを繰り返している。

そう、ポジティブであろうともがく人は、ポジティブから遠ざかってしまうのだ。

【ネガティブ反応は人間の自然な反応にすぎない】

物事が期待通り行かなくてがっかりすること。健康、人間関係、仕事などなどで困難に陥ること。こういった事は避けがたく私たちに起こることである。

こうした状況に対して反射的に起こる本能的反応というのは、ネガティブであるのが当然だ。

そして反応のしかたは闘争(反発、逆切れ、暴力etc)、逃走(身を隠す、言い訳、サボタージュetc)、硬直(フリーズ、絶句etc)。

これは敵対する部族や獰猛な野獣と戦ってきた人類のサバイバルに関わる原始的な働きなので、おいそれと後天的に変えることができない。

【むかっ腹、ムカムカ・・・を見つめる】

しかし私たちが日頃経験している反応は、これだけでははい。実はもう一つ別の反応があって、そこに現実的なポジティブ思考の鍵がある。

それは反射的に起きる自然な反応がどんなものであるかに気づき、それに対処していく反応だ。反応ではなく対処、と言い換えてもいいだろう。

たとえば理不尽な上司の態度に対して、いよいよ"逆切れ寸前怒りマックス"な自分がいる。この一次的反応がどんなものか、ぜひここで一瞬目を閉じて疑似体験いただきたい。

「むかっ腹」とか「胸がムカムカ」、「動悸が高鳴る」、「胃がキリキリ」など、人によってピンとくる体感は違うと思うが、"身体の変化を経験している"ことは共通するだろう。

これらの一次的な反応を「見つめる」ことによって、次の行動に至るまでの「間」ができる。この「間」をとった上で(実際はコンマ何秒の世界)次に起こすのが二次的反応としての対処だ。

この二次的反応は、訓練でコントロール可能なことがわかっている。理性を司る脳の新しい領域――大脳新皮質の前頭前野が司る働きで、アプローチしやすいのだ。

【嫌な自分を評価しない】

ただし問題は、ポジティブにこだわる人が「間」をとってどうなるかだ。ポジティブでありたいと強く思う人の「こだわり」は、ネガティブな一次的反応を「見つめる」というよりは「評価」をはじめる。

もちろんここでの評価はダメ出しだから、二次的反応は脳内でストレスをさらに増加させ、瞬時に脳の思考を司る部分(前頭前野)の機能を低下させる。したがって適切な対処は、脳神経の働きからみて困難になってしまうのだ。

どこか明るく"無理している感じの人"や、"本音を抑え込んでいるように見える人"は、まさにこの状態にあるのかもしれない。

そこで、いったん評価を手放して、ただ湧き起こっている感情を見つめるだけにする。 これは訓練がいるけれど、どんなに嫌な自分が現れても通知表をつけないことが肝心だ。

【ネガティブはダメ!から"今はネガティブだ"・・・への転換】

起こってしまった本能的反応を、立ち止まって冷静に認識する。自分に起こっている状態を変えようとせずにしっかりと気づく。つまり二次的反応を、批判や判断ではなく、認識と言うプロセスに置き換える訓練をするということだ。

本能的反応は4分の1秒の速さで起こると言われる。その後また4分の1秒で「ネガティブな反応はいけない」と言う批判が起こる。この瞬時のプロセスに対し、意図的に立ち止まり、認識する方向へ変えていくこと、果たしてこれは訓練可能であろうか?

答えはイエスである。

【ポジティブである前に大切なこと】

イラッとしたり、カッとなったり、ネガティブな状況では、まず自分の体に何が起こっているかを意識しよう。状況や感情を変えようとする前に、である。

心臓の動悸が激しくなっている、頭に熱を感じて顎の筋肉が固くなっている、お腹に脱力感がある、などなど、それを観察し、呼吸にも注意を払う。実況中継のイメージで、体に起こっていることを頭の中で解説するというのもありだ。こうしているうちに、気分も安定しやすくなる。

しかし、脳内で起こるものすごい速さの連鎖反応を、つぶさに中和する(立ち止まる⇒気づく⇒安定を取り戻す)には、やはりベースとなる認識力を高めることが必要だ。その認識力のトレーニングとして、マインドフルネス瞑想がベストだと、リチャード・デビッドソン博士(ウィスコンシン大学マディソン校教授)ら多くの脳科学者、ハーバードビジネススクールでリーダーシップを教えるビル・ジョージ博士らのエキスパートも述べている。

本来のゴールに立ち戻り、様々な観点から問題を見直す能力を取り戻すためには、ポジティブさの前に、身体知と研ぎ澄まされた認識力が求められる。その最善の訓練法がマインドフルネス瞑想なのだ。

Google、Facebook、スターバックス、フォード自動車など大手企業の管理職・リーダーたちがマインドフルネスを採用している背景には、こうした科学的な理由がある。

マインドフルネス瞑想の実践方法はこちら

【冷静な認識力から生まれる自然体のポジティブさ】

「ポジティブであらねばならない」というこだわりを手放し、瞬時に起こる自分の反応をニュートラルにとらえたとき、感情に揺さぶられた後でもすぐに安定した視点を取り戻すことができる。

前述のリチャード・デビッドソン博士、そしてマインドフルネスを応用したストレス低減プログラムで知られるジョン・カバット・ジン博士(マサチューセッツ大学医学大学院教授)らは、この安定した認識力を高める訓練が、心身の健康(幸福度の向上、免疫力の向上など)にも関連付けられると強調している。

そしてこのような状態から、誰しもが無理のない自然体のポジティブさを醸し出すことができるはずだ。

木蔵(ぼくら)シャフェ君子 一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート理事

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8月29日:大手企業人材開発担当者が語るマインドフルネスの可能性と挑戦~マインドフルリーダーシップシンポジウム開催。

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