2015年03月04日 17時30分 JST | 更新 2015年05月03日 18時12分 JST

質の良い提案を生むには量を生むこと。「ジャーナリズムやメディアも同じ」

新しいクリエーティブサービスを提供する「ロフトワーク」代表取締役の林千晶さんは、質の良い提案を生むための仕組みは「量を生むこと」だと語る。

「質と言うときに、純度を先に求めてはいけない。量を持てばそれが層になり、おのずと純度が生まれる」。2万人のクリエーターが登録するネットワークを核に、新しいクリエーティブサービスを提供する「ロフトワーク」代表取締役の林千晶さんは、質の良い提案を生むための仕組みは「量を生むこと」だと語る。そして、「ジャーナリズムやメディアでも同じ」ではないかと投げかける。

●「人と人をつなぎ、隠れたニーズを形にする」ネットに魅力

米国でアシスタント記者をしていた1990年代、林さんは取材を通じて、GoogleやAmazon、eBayなどいわゆる"ネット第一世代"の企業に出会い、その魅力にとりつかれた。たとえば、eBayが提供している「自分に不用となってしまったものが、別の誰かにとっての宝物になる」体験は、林さんに「ネットであらゆるものが変わる」ことを確信させた。隠れたニーズを掘り起こし、人と人、モノとモノをつなぎ、どちらもハッピーにするのがネットだと感じた。

ロフトワークは、「eBayのクリエーター版を目指して作った」。現在2万人のクリエーターが登録するネットワークは、「日々の仕事の紹介や提供を目的としているわけではない」という。クリエーターやクライアントが「こんなことがやれる」という自分の可能性に気づく場にしたいとの思いがある。たとえば、制作会社のデザイナーが、年賀状の仕事をきっかけに、独立してイラストレーターとなった。「偶然の出会いやきっかけを作るプラットフォームにしたい」

●課題ごとに求められるスキルは異なる 多様性が質を生む

ロフトワークでは年間500のプロジェクトを動かしている。有名老舗旅館の新規顧客獲得のためのWEBサイト構築、沖縄の島の魅力をどう伝えるか......。それぞれのプロジェクトが対峙する課題によって、どのクリエーターのスキルが生かせるかは異なる。だから、多様性を担保することを重視する。「量か質かを問われたら、量をとります」。林さんは量が質を生むと信じている。「質と言うときに、純度を先に求めてはいけない。強度なんです。量を持てばそれが層になり、おのずと純度が生まれる」

「ジャーナリズムやメディアも同じ」だと林さんは言う。インターネットで誰もが情報発信できるようになり、情報発信する人も、コンテンツも激増した。「ネットには、従来のメディアなら没にするような情報や原稿もあがっている。でも、その中には価値ある情報もある」。さらに大事なのは、「今は価値がなくても、時間がたって『今』を眺めると価値が出てくる情報もある」ことだという。

●大切なのはパッション、課題への共感が質を高める

「量から質」を生むための仕組みづくりを心がける林さんが、「質」を生み出すもう一つの鍵と考えているのが、「パッション」だという。

プロジェクトを受託した際、どのクリエーターと仕事をするかを決めるのに大事にしているのが、「課題への共感」だ。そのプロジェクトの課題解決に興味があり、「やりたい」と思う人がやれるようにしたいという。もちろん、最初からやりたいと思う人が見つかることばかりではない。だからこそ、量を生む仕組みを持っていることが重要になる。

林さんは、ロフトワークの追いかける質を「360度の方向の質」と表現する。一つの正解にもとづいた、ピラミッド型のより分け方ではない。むしろ、解を増やすことで、新たな価値、イノベーションを生んでいく。「おもしろくない仕事って、ないんじゃないかと思う。正しく興味を持てば、どんな課題解決もおもしろくなる。クライアントを愛し、愛される。というプロセスは伝えているつもりです」

化粧品会社のマーケティングから、ジャーナリズム、そして起業。ロフトワーク創業後も、ひとつの事業領域にとどまることなく、次々と新しい挑戦を続けてきた。林さんは、今なお、「予定調和にならないこと」を心がけているという。デジタルのモノづくりを楽しむ場として2年前にオープンしたFabCafeにある3Dプリンターについて、「すごいと思ったのは、アトムからビットになって、もう一度、ビットからアトムになること。デジタルの中にしかなかったものが、手触りのあるモノになるんですよ」。声を弾ませ、輝かせた目の奥にあるのは、そのことへの強い興味、飽くなき探求心のようだ。

●プロフィール

林 千晶(ロフトワーク 共同創業者、代表取締役)

2万人が登録するクリエイターネットワークを核に、新しいクリエイティブサービスを提供する同社を2000年に起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間500件を超える。学びのコミュニティ「OpenCU」、デジタルものづくりカフェ「FabCafe」などの事業も展開している。MITメディアラボ 所長補佐、グッドデザイン審査委員、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員も務める。1971年生まれ、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒業。

2015年1、2月開催の朝日新聞社・未来メディア塾イノベーション・キャンプ」で、審査員(アドバイザー)を担当。