「ふるさと納税」は誰を幸せにしてくれるのか?

「地方創生」にも今後大きなインパクトを与えるであろう、ふるさと納税。地域活性化のツールとしても、社会貢献の新しい形としても可能性を感じられるものでした。

■ふるさと納税の現状と課題

2015年4月1日の税制改正により、寄付の控除額増額や確定申告不要など、ますます身近になった「ふるさと納税」。

ふるさと納税とは、自治体に寄付することでお礼品がもらえたり、税控除が受けられる納税方法です。しかしながら、まだ新しい制度だけにその内容や寄付のメリットなどを知らない人も多いと思います。

そこで今回は、ふるさと納税の支援サービスを行なう、株式会社さとふるの高松俊和さん(取締役、経営戦略室 室長)と、谷口明香さん(地域協働事業推進部)に、ふるさと納税の現状や課題、事例などをお聞きしてきました。

国が進める「地方創生」にも今後大きなインパクトを与えるであろう、ふるさと納税。地域活性化のツールとしても、社会貢献の新しい形としても可能性を感じられるものでした。

地域活性化や、CSRにおける日本のコミュニティ参画などに興味がある方必見のロング・インタビューです。

■地域活性化におけるビジネスの可能性

――まず、高松さんのご経歴とさとふるの立ち上げについてお聞きします。

高松俊和さん(以下、高松):6年前に、ソフトバンクの子会社で自治体に対して地域活性化などの支援を行っているSBプレイヤーズという会社に入社しました。

入社後5年ほど管理部門におりまして、その後、社長直下の新規事業立ち上げの部門に異動し、その新規事業の一つとして、2014年7月に株式会社さとふるを立ち上げることになりました。事業開発のプロジェクト・リーダーという立場だったのですが、設立と同時に現場責任者として参画し、今に至ります。

――先日、「Yahoo!JAPAN」との提携が話題になっていましたね。

高松:ふるさと納税に関する情報が巷に溢れているわけですけど、それらの情報を整理してまとめるという立ち位置で、今回のYahoo!JAPANとの連携になります。情報サイトを協働で作っていきましょうというのがベースになります。同じソフトバンク・グループですので、連携そのものの障害はほとんどありません。

本格的な提携の前から、税金・公共料金の支払いがクレジットカードなどでも簡単にできる「Yahoo!公金支払い」の中で、去年から「地域活性化フォーラム」という、地方創生・地域活性化に向けたフォーラムをしていたのですが、こちらを今年もやっていくので、その連携強化という部分が一つあります。

もう一つは、ふるさと納税などで知ってもらった地域の商品などを、「Yahoo!ショッピング」で購入できるようする連携です。もともと、ふるさと納税の寄付者からお礼品の購入希望も多かったので、地域産業活性化や寄付者の利便性向上につなげられると考えています。それぞれのサービスや連携事業は2015年夏以降に順次開始していく予定です。

元々、私たちのミッションが地域活性化なのですが、その具体的なビジョンとして、特産品などを味わってもらい地域を知ってもらう、知ってもらえたら特産品を売り出していく、そして地域のファンを増やし観光につなげていく、という流れがあります。

「ふるさと納税=地域活性化」ではありませんが、それらの活動を通じて最終的に地域活性化を促していくという考え方です。

まだまだブラッシュアップの余地はありますが、ファーストステップのふるさと納税で地域を知ってもらうという枠組みはできてきたので、次に地域の特産品を売り出すというステップとして、今回のYahoo!ショッピングとの連携があります。

実際の所、ふるさと納税自体が日本国民に広く知れ渡っているものではありませんし、マイナーな制度であることは間違いありません。ですので、寄付者の方々へのわかりやすい情報発信も強めていくための連携でもあります。

■ふるさと納税における寄付者と自治体の実態

――御社のビジネスモデルを教えて下さい。

高松:非常にシンプルです。集まったふるさと納税に対し一定の割合で手数料をいただきます、というビジネスモデルです。完全な成果報酬型ですので、私たちのPR不足で寄付金があまり集まらなかったとしても、失敗分を自治体に請求することはありません。

また、お礼品の選定で中間マージンをいただいたりもしませんし、寄付金獲得のコンサルティングやアドバイザー料をいただくこともありません。

私たちは、支援させていただく地域にできる限りお金を落としたいと考えています。余計なマージン獲得は逆に自治体の負担になってしまう可能性もあり意味がないと思うので、このようなビジネスモデルを採用しています。

――さとふるのユニークな点はどこでしょうか。

高松:競合サービスももちろんありますが、私たちのユニークな点は寄付者に対する利便性提供はもちろんのこと、ご利用いただく自治体に対しての利便性の提供という点があります。

商品を紹介したり、決済サービスの提供だけだと、自治体側の負担がかなり増えてしまうのです。例えば、ふるさと納税をしていただいたお礼品として地場のお肉を準備していた場合、千件の寄付があったら、千件のお肉の発送準備をしなければなりません。

その在庫管理や配送手配、個人情報管理などかなりの量の作業が発生するので、その事務作業だけでも大変です。そういった事務作業も含めて、私たちがお引き受けしますという点がユニークな点と言えます。

――主な寄付者層ってどのあたりですか。

高松:地方出身の方、もしくは以前住んでいた事があるなどで地域にゆかりのある方、などでしょうか。また、30〜50代の男性が多い気がします。

先日行なった市場調査のデータだと、全体の9割近くの方がふるさと納税を認知していました。つまり、詳細の理解は別にして、聞いた事やメディアを通じ見た事があるという方々が9割程度いると。

しかし、その中で実際に寄付したことがあるという方は1割程度となってしまいます。この「知っている9割」と「寄付したことがある1割」というギャップにいる方々が今後、私たちがPRしていきたい方々になります。

――国もその差を埋めるために税制改正を行なった、と。

高松:税制改正は、この2015年4月1日からスタートしていまして、ふるさと納税の簡略化といいますが、税制優遇の枠が約2倍になったり、会社員の方の確定申告が一定要件で不要になるとか、今まで面倒だったり税優遇の恩恵が少なかったりといった課題が解決されました。

特に会社員の方の確定申告が不要になった影響は大きいです。確定申告が面倒、税優遇が少ない、という部分でハードルを感じていた方々に、正しい情報を提供していくことで、先ほどの「知っている」と「したことがある」というギャップを埋めていければと考えています。

また市場調査で、なぜやらないのかを質問したところ、「制度自体がよくわからない」や「確定申告が面倒」という2つの回答が多く、逆にこれらをクリアできれば、寄付潜在層の方々の大きなハードルはなくなるのかなと考えています。そこをサポートできればと思っています。

■地方出身者の純粋な想い

――では、谷口さんのご経歴をお伺いします。

谷口明香さん(以下、谷口):私は、石川県珠洲市(すずし)の出身です。珠洲市は能登半島の先端にある田舎町です。大学入学と同時に上京し、車メーカーで6年ほど勤めまして、この2015年4月に入社しました。まだ入ったばかりです。

――なぜ車メーカーから地域活性化ビジネスへの転職なのでしょうか。

谷口:前職とはまったく別の業界なのですが、私が地方出身者であり、以前からいつか地元を盛り上げる仕事をしたいなと漠然と考えていて、今回転職をしました。

今の業務担当エリアは関東と地元の北陸となっています。まだ入社したばかりで先輩の同行が多く、担当エリア以外もまわっているところですが、最終的には地元・石川をどんどん盛り上げていきたいです。

■ビジネスにおける課題

――事業において大変なことはありますか。

高松:いくつかあるのですが、ふるさと納税の制度自体がまだ若い、という点でしょうか。最近始まったばかりの制度ですので、今後も大きな制度変更などが予想される中、寄付者の方々にどこまで適切な情報提供ができるのか。そのあたりが課題の一つです。

また、自治体との連携も強化していく必要もあります。制度変更があった場合、その適正な利用方法を議論していく必要がありますから。そこは私たちだけでどうにかなることでもないので、試行錯誤しながら進めていかなければならない難しさはあります。

他には、ウェブサイトにおけるユーザビリティの課題でしょうか。私たちの目標として、多くの方が利用している大手ECサイト並の利便性まで持っていきたい、というのがあります。ふるさと納税は、様々な法律・制度が関っていて、現状ではECサイトのようなサービスレベルまで持っていくのが難しい状況ではあります。

しかし、それは自治体や私たちの論理であり、少なからず、利用者の方にはサービスレベルが低いと判断されてしまう現状もあります。そのあたりは非常に苦労している所です。

――自治体や事業者との連携も難しそうですね。

高松:地域の事業者の方との連携はたしかに課題の一つです。私たちのやっていることはふるさと納税の支援サービスですが、やっていることはネットショッピング・サービスそのものに近いです。中堅・大手企業であれば大手ECサイトに出品して、それなりの規模で運営をし、専任の担当者(担当部署)の方もいますが、個人事業レベルの小規模事業者はリソース的に出店するのが困難な現状です。

ただし、ふるさと納税のそもそもの理念が企業規模に関係なく、地域に特産品を広めましょうというのが趣旨であり、地元の小規模経営の農家とか、小さな工芸品を作っているお店とか、そういった所から地場のオリジナル商品を出さなければ意味がないのです。

大手企業の生産ラインで作っているものは、そもそも全国で流通しているものが多く、改めて支援する必要性はあまりない。だからこそ、規模は小さいけど地場で品質の高い商品を作っている人たちのものを、ふるさと納税のお礼品として出していきたい、という考えがあります。

事業としては、地場の大手企業と組んだ方が楽なのでしょうけれど、広いエリアで売られているものをお礼品としても、意義が薄まってしまいます。なるべく、地元の有名な小さな業者とか、その地域らしい世界観を、お礼品を通じて作っていきたいですね。

――企業がCSR(企業の社会的責任)で地域活性化に取り組む例もあります。一般企業との連携などはあるのでしょうか。

高松:私たちがサービスの対象としているのは個人なので、企業とのコラボレーションはあまり想定しておりません。法人寄付はふるさと納税の仕組みを使わなくても、税制優遇はありますから。今でも、地域のお祭りなどへのスポンサードを含めて、ゆかりのある地域に寄付するのはよくありますよね。

もしご一緒させていただくとすれば、例えば、企業の従業員の方にふるさと納税への参加を促していただくとはあるかもしれません。大手のメーカーなどが工場のある地域に対し、法人として寄付をするだけではなく、数百人、数千人の東京本社の従業員の方々が地域に寄付したら、その地域が一気に盛り上がる可能性はありますよね。そういう意味で企業のパワーはとても大きいと思います。

■制度活用は強制ではないものの・・・

――営業担当として現場でも同様の課題はあるのでしょうか。

谷口:現場としては、そういった大きな課題はわかりませんが、例えば"イメージの問題"があります。

ふるさと納税自体に対して悪いイメージを持っており、最初から拒否反応を示す方々が一定数います。例えば、豪華なお礼品で釣って寄付金を集めているのは良くない、というイメージが自治体の中であることとか。

自治体ごとの方針などもあるので、一概に善悪を決められるものではありませんが、実際にはふるさと納税の制度利用で良い結果を出している自治体もたくさんあるのに、イメージ先行の先入観といいますか、悪い印象だけが残ってしまい、そのイメージが自治体で根付いてしまうのが残念です。

――自治体がふるさと納税を利用する障害は、イメージが主な原因なのでしょうか。

高松:自治体の方針が異なるからという例もありますし、私たちのような民間と組むのがそもそも難しいということもあります。また「やりたくない」とまではいかないけど、自治体の中でも様々な部署をまたぐ取組みなることも多く、実施するのに単純に時間がかかりすぐに取り組めない、ということもあるようです。

ふるさと納税はあくまでも地域振興の一つの手段で、自治体にも寄付者にもメリットのある国の施策です。私たちは、自治体の事情も考慮しながら、ふるさと納税導入を支援し、できる限り自治体に寄り添って地域活性化に貢献したいなと考えています。

■ふるさと納税はあくまでも"手段"

――例えば、民間同士と組むプロジェクトに自治体が参加するということもありえますか。

高松:私たちにとって、ふるさと納税の利用促進は「手段」と考えています。地元の方々と一緒になって、地元を盛り上げる事業などを作っていきたいと思っており、それを外部へ発信するツールとしてふるさと納税があるというイメージです。

例えば、新潟県十日町市の国際芸術祭「大地の芸術祭」などでは、芸術祭を推進していくための資金獲得手段としてふるさと納税を利用しています。十日町市の事例などでは、必ずしも、農産物だけがお礼品となるわけではなく、芸術祭の鑑賞パスポートや、棚田オーナー権などがふるさと納税のお礼品として送られるパターンもあります。

自治体が行なう「クラウドファンディング」とも言えます。横並びの公共サービスではない部分といいますか、ふるさと納税の仕組みを上手く利用して、良い意味で各地域が特色を活かして競争をしていくのも良いと思います。

――他の事例はありますか。

高松:例えば、耕作放棄地を復活させる取組みや、北海道のある自治体では大規模な農園を作る取組みとか、寄付者に対してお礼品を送って終わりではなく、一度足を運んでもらい一緒に盛り上げていきましょう、という寄付者とのつながりを重視する取組みも増えています。

他には、ある自治体のブランディング施策のご依頼をいただき、関らせていただいている事例もあります。新しい試みとしては、子どもたちを巻き込んだ教育サービスなどにも関れないかということも取り組んでいます。寄付金の使い道自体には規制はないので、様々な可能性があると感じています。

■市場規模と今後の展望

――ふるさと納税関連のマーケット規模はどれぐらいあるのでしょうか。

高松:結論、実態を示したデータってないんです。一番近いのは、総務省発表の数字ですが、平成25年で140億円程度の規模となっています。少し前のデータなので、今現在の数字とは差が大きいのかなと感じています。

この数字は「寄付金控除の申告があった金額」ですので、寄付はしたけど申告をしていないという人たちは含まれていませんし、控除の申請をまとめているので、1年とか1年半前のデータとなり、現実的ではないとも言われています。

実態として、日本全国でどれくらいの金額がふるさと納税に使われたかというのは、誰にもわからないというのが現状だと思います。特に去年は控除の割合も小さかったので、5千円とか1万円のために申告するのはメリットが少ないし面倒というのもあり、申告忘れが多かったとも考えられます。

去年、様々なメディアでふるさと納税の話題が取り上げられて、数字は一気に跳ね上がっています。そして今月の2015年4月で税制が変わり、また数字が伸びています。想定ですが、市場規模は去年で数百億、今年はその倍程度というのが実際の規模なのかもしれません。

一部のメディアではお礼品競争が過熱気味と騒がれていますが、そのわりには規模としてはまだまだ小さいというのが本音です。あと、過熱気味と言われていますが、地場の特産品を各自治体が積極的にアピールし続けることは、決して悪いことではないとも感じています。

――お礼品自体が悪いわけではありませんよね。

谷口:本質的な取組みといえば、サービス開始時からご一緒させていただき、私たちの活動を理解してくださっている群馬県榛東村の事例があります。

ふるさと納税の合計金額が大台を越えましたし、寄付件数でも村の人口と同じくらいか、それを越えるくらい集まったようです。ただ単にお礼品ありきの訴え方ではなく、地域活性化とは何かという命題に真摯に向き合って活動をしてきたからこその結果だと思っています。ふるさと納税の使い道も公表していますし、まさにふるさと納税の本来の目的に純粋に沿った取組みになっている例です。

今後も、ふるさと納税を多くの方に知ってもらう活動もしながら、自治体に寄り添い、長期的な視点で地域活性化のサポートをしていきたいと思っています。

注目記事