アップルとユニクロはなぜ叩かれたのか―59.4%の"意識高い系"消費者とその背景

労働関連課題で話題のアップルとユニクロ。問題は解決すべきですが、問題の背景には日本らしい消費者意識があり、話題に拍車をかけているのかもしれません。

■アップルとユニクロの労働問題

先月、今月と何かと労働関連課題で話題のアップルとユニクロ。問題は解決すべきですが、問題の背景には日本らしい消費者意識があり、話題に拍車をかけているのかもしれません。

今回の話のポイントは、自社の直接雇用している社員ではなく、取引先(下請け)企業の「法令違反および準ずる行為」があり問題になったということ。なぜ自分たちの直接的な関与がないのに問題となったのか。CSR(企業の社会的責任)的視点でいえば、これは「加担」という幇助(ほうじょ)の考え方にあたります。

つまり、直接犯罪行為をしていなくても、犯罪行為をした人を支援した(今回は取引をした)という意味で、それは悪いことであるとされているのです。身近な例でいえば、飲酒運転がわかりやすいです。

飲酒運転をした人はもちろん罪となりますが、飲酒運転の罰則は運転した人だけでなく、「運転手が飲酒をしたという事実を知りながら同乗する」などの人も罪に問われるということです。「運転者はあいつで、俺は酒を飲んでないし運転もしていない!」と言っても罰せられる可能性が高いということです。

ただし、そんなこと言ったら何も製造・販売できんがな、という部分も少なからずあります。まさかの想定外の利用がされるプロダクトなんて世の中たくさんあるでしょうし。なんにせよ、まずは、こういうこともあるということはしっかりと把握しておきましょう。

■消費者動向

では、なぜここまで各メディアで話題になったのか。私は、日本人の精神性にその原因の一つがあるのだと考えています。いくつか、消費者データを確認してみましょう。

2014年1月調査の『消費者意識基本調査』(消費者庁)によれば、商品・サービスを選ぶ時に59.4%が「経営方針や理念、社会貢献活動」を意識するという回答をしています。中でも「常に意識する(3.8%)」、「よく意識する(14.6%)」という、非常に倫理観の高い消費概念をもつ人が18.4%もいるという事実。このレベルは結構驚きです。

全体からすれば6割近くの消費者が商品・サービスそのものではなく、運営・販売する企業姿勢を評価するということは、ビジネスパーソンは知っておくべきでしょう。商品・サービスの前にその会社って信頼できるか?が問われるとなると、まさにCSR視点による企業評価とも言えます。BtoC企業は特に注意です。

「多少高くても、社会のためになる活動をしている企業の商品・サービスを購入したい」という問いには、46.1%が「そう思う」に回答。一方、53.9%が「そう思わない」と回答している。「"社会のためになる企業の利益に繋がる購買"を優先したい」という20代は2人に1人の割合で、「エシカル(倫理的)な消費スタイルの20代も珍しくない」としている。

上記は、消費者庁とは別の消費者意識調査のデータです。データの中身は比較的近く、消費者の半数近くが企業姿勢を見ていると回答しています。

消費者も企業のCSR推進を望んでいるといえるでしょう。決して少なくない人たちが、倫理的な購入を望んでいるのですから、国は違いますが、労働者をこき使って製品を作り上げたということで、批判的に見る人たちが多かったということなのかもしれません。

■Appleの労働問題

この取材を行うために、BBCは記者をAppleが部品や原材料を調達している企業の工場に潜入させた。中国の部品工場で働いた記者の一人は、休暇を繰り返し訴えたにもかかわらず、18日間連続で働かなければならなかったという。

また、別の記者は最長では1日に16時間働く日もあったと話した。この記者は「いったん寮に戻ると、もう何もしたくなくなった。いくら空腹でも、食べるために起き上がるのが嫌だった。少しでも横になって休みたい。ただそれだけだった。ストレスで、夜は眠れなくなってしまった」と、述べた。

記事では、Appleがその一部を認めているとしています。サプライチェーン(取引先)が複雑で、サプライヤーのすべての事業活動を監視できていない、と。もちろん、それも事実ではありますが、だからこそ、商品調達先企業の労働状況をチェックできるような仕組みを構築すべきなのでしょう。

世界的なCSRの概念では「人権・労働慣行」が非常に重要視されています。企業のブランド価値を落としたくないのであれば、レピュテーション・マネジメント(評判管理)としても、取引先をチェックすべきです。ただし、アップルは以前に中国の生産工場で自殺者が多いとか、児童労働や過酷な労働を強いているということで叩かれており、秘密主義のアップルが「Apple|サプライヤー責任」というコンテンツを出すようになっています。

■ユニクロの労働問題

48ページに上る「中国国内ユニクロ下請け工場における労働環境調査報告書」では、2社の基本給が最低賃金であることや時間外労働が月100時間を超えていることを指摘。さらに、30度以上にもなる高温や床に流れている排水、無雑作に置かれた化学薬品、粉塵が大量に舞うといった工場内の劣悪な労働環境を報告した。また、わずかな遅刻などで罰金を科すなど多くのルールを課していることも明らかになった。

上記の記事では、先週の記者会見の詳細をまとめています。会見の中で上記のような問題があるとした上で「労働慣行のマネジメントができれば解決する課題」であるともされています。"取引先のマネジメント"をマネジメントする、という考え方はかなり難易度は高いと思います。

ファーストリテイリング社は、Appleと同様に、報道の一部を認めており、今後改善に動くとのこと。アジアは"世界の工場"と呼ばれ、労働問題が多発するエリアでもあります。今後の対応に注目が集まります。

サプライヤーにかなり気を使っているであろう、世界的な企業の2つの事例。結果からいえば不祥事とも言えるかもしれません。「不祥事で注目のレピュテーションリスクマネジメント」という記事にも書いたのですが、不祥事や問題はいつか起きるもので、本質はその対応力だと言えます。最近の言葉でいえば「レジリエンス」(柔軟な対応力)を持ちましょう、とも言えます。

■消費者はどう対応すべきか

では、消費者としては何ができるのでしょうか。

一つは「問題のある企業の商品・サービスを買わない」ということでしょう。今、ユニクロのシャツを着て、アップルのノートパソコンでこの記事を書いているのですが、これが続くようだったら、買い控えをする行動にでるかもしれません。

もう一つは「声を上げること」でしょう。叩く、というと語弊があるかもしれませんが、問題は問題だと主張すべきです。むしろ、世界ではそれが当たり前です。それにより企業が動き、問題が解決され、より素晴らしい社会的負荷の小さい会社になっていくことだってありえます。

企業の社会的責任に関心の高い消費者が多い日本でもビジネスをする以上、アップルもユニクロも実績もプロダクトも素晴らしい会社ですし、がんばってもらいたいと個人的に思っています。

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