■カネボウ「白斑」問題
この週末に、読売新聞などの大手メディアにて、カネボウ化粧品の美白化粧品白斑被害の続報ニュースが流れてましたね。
すでに回復された方もいるとのことですが、カネボウの発表(12月2日)によると、現在症状が確認されている方は約13,500人(うち重度の症状の方は約5,500人)、症状の改善が見られた方は約3,500人となっています。
カネボウ化粧品の美白化粧品による白斑被害の問題を受け、東京都内の弁護士による被害者説明会が7日開かれ、約120人が参加した。問題の発覚から5か月が過ぎても、同社による被害救済は進まず、参加者からは「元に戻らなかったら、どうしよう」と不安を訴える声が続出。被害者弁護団は仙台、大阪、広島などでも結成されており、集団提訴に向けた動きも出ている。
予めご了承いただきたいのですが、本記事はカネボウを叩きたいという趣旨ではなく、今回の事例を教訓にして、クライシス・コミュニケーションやCSR、コンプライアンスのあり方を考えていければと思っています。
自主回収後、すぐ同社に電話をして対応を求めたが、「詳細は調査中」と曖昧な回答に終始した。同社が遅くとも昨年9月には問題を把握していたのに、対応が遅れたと知って不信感が増し、今年9月に提訴した。
問題発覚直後に書いた「コンプライアンス経営とは何か? カネボウ美白化粧品問題から学ぶ、不祥事とCSR活動」という記事の続報になります。
私は、一時期カネボウのユーザー(シャンプー)でした。化粧品ではないものの、もし、今回のような健康被害が確認されたとしたらと思うと、正直ゾッとします。拙著『この数字で世界経済のことが10倍わかる--経済のモノサシと社会のモノサシ』でも書きましたが、大手企業のインパクトを自分自身で把握していないのは、叩かれてもしょうがない部分かもしれません。
■そもそもの経緯
ご存知の方もそうでない方も、今一度この問題を振り返ってみましょう。
ロドデノールが配合された美白化粧品は2008年9月に初めて発売。その後、美白化粧品は順次拡充されていった。購入者から最初の症例が、カネボウ側に相談されたのは2011年10月。12年2月には関西支社の教育担当者が、「美容部員3名に白斑症状が出ている」と本社のマーケティング部門と研究所に問い合わせていたが、カネボウ側はいずれもこの症状を「病気」として処理し、化粧品が原因であることを疑わなかった。
(引用:白斑問題を招いた、カネボウのたこつぼ風土)
そう、兆候はあったのです。ただし、この時点でごく一部の人にしか症状が出ていなかったようで、会社の処理も間違いではなかったように思います。しかし、ハインリッヒの法則というフレームワークもあります。この一部の人たち以外にも"軽度"の症状が出ていた人は一定数いたはず。企業の品質監視体制としてお粗末であると指摘されても、何も言えません。
その後も複数の購入者からの相談が相次ぎ、12年9月には大阪府内の大学病院の医師から、美白化粧品との関連性を疑う異常性白斑についての電話連絡もあった。自主回収が始まった13年7月よりもはるか前から、危険な兆候がいくつも出ていたにもかかわらず、カネボウはこの問題を見逃し、結果として被害の拡大を招いてしまった可能性が高い。
(引用:白斑問題を招いた、カネボウのたこつぼ風土)
カネボウが困る分は自分たちに至らぬ点があったからと納得できても、今回は被害者が数千人いることですので、いやはやなんとも...。スタンダードなCSRとしては「社会への負荷(悪影響)を最小化し、社会の利益の最大化をする」という考えがあります。社員数人の会社ではないので、その影響力がイメージできなかったとはなりませんよね。
■親会社など組織な対応
その後色々ありまして、10月8日には、親会社の花王がカネボウ化粧品の研究・生産部門を花王に統合すると発表してます。白斑問題の発覚から3カ月間、親会社は何をしていたんだと言われてもしかたありません。
でも、企業としては、詳細の原因や因果関係がわかっていない状況もあったと思うので、顧客の個別対応ではなく、リコールのように商品回収などの全方位の"市場対応"はできないという状況でもあったと推測できます。
事故対応って難しいですね。しかし、因果関係がわからないくらい高度な商品だったのでしょうか?そうは言っても、原因らしいとされているのは自社商品ですからね。こればっかりは言い逃れできませんね。
第一三共ヘルスケアの化粧品「ダーマエナジー」の場合、カネボウのような白斑が出るというような深刻なトラブルではないらしいが、肌への浸透性のある化粧品の場合、どうしても体質に合わないという人が一定の割合で出てきてしまう。そう考えると、現代の化粧品に副作用リスクが有ることは別に不思議な話でもないのかもしれない。特に「美白化粧品」というものは、実質的には「化粧品」というよりも「薬品」に近いものなので、万人に最適化された安全な化粧品とは言えない。
確かに、いわゆる「美白化粧品」の皮膚障害問題は、カネボウだけではないようです。確かに、「肌そのものを白くする」というものは、美白化粧品というより美白薬品というイメージに近いものがあります。ですので、肌に合わない人が化粧品よりも多くなる可能性が高い、と。このあたりは素人なのでそういうこともある程度にしておきます。
■コンプライアンス問題の対応策
コンプライアンスというか、致命的な問題に発展しそうなことをチェックする体制がなかったのはカネボウのミスであると、記者会見であった発言です。
だからといって、「半沢直樹にはなれないっしょ! コンプライアンス違反を密告できないわけとは?」という記事でも書きましたが、従業員がおいそれと密告できるわけでもありません。
ですので、個人に依存した密告システムではない、組織としてマイナスな情報を共有する仕組みが必要。いわゆる「裸の王様」状態でマイナスな情報を誰も教えてくれないと、企業経営の致命的な問題を引き起こす可能性が一気に高くなります。
早期対応を行わないと何が起きるか。二次不祥事が起きます。「なぜ、問題があることを黙っていたのか?」という問題です。CSR活動だなんだで作りあげた、ブランドも即終了です。何年もかかって築き上げた信頼がほんの一瞬で消滅します。
監視の効かない、ガバナンスというパラドクス。ブランドが傷つくのは、不祥事初期の段階ではなく、嘘や不誠実さが露呈したときの二次不祥事の時と言われていますから。
日々の企業活動でできることは、「何かあった時にどう対応するのか?」を考えて実行すること。いつか来ると言われる大地震等の自然災害対策にもなります。BCP(事業継続計画)という考え方にもCSRの考えにもつながってきます。そして、二次不祥事でブランドが壊れる前に、とにかく"誠意"ある行動をすることでしょう。
間違っても、被害者と思われる方に不誠実な対応をしてはいけません。企業としてブランドを守りたいのであれば、ですけど。
御社のクライシス・コミュニケーションの参考になれば幸いです。カネボウは年明けに研究機関からの詳細関連データが出揃うようですが、1日でも早く問題の解決が進む事を願っています。
(この記事は、「CSRのその先へ」2013年12月9日の記事を再編集して転載しました)