20代の新しい働き方? 今どきの"ソーシャル女子"のキャリア論

新しい働き方についてインタビューしている本企画。今回お話をお聞きしたのは、セプテーニベンチャーズの社会貢献プラットフォーム「gooddo(グッドゥ)」の事業に携わる中村奈津さんです。

■次世代の夫婦の働き方

新しい働き方についてインタビューしている本企画。今回お話をお聞きしたのは、セプテーニベンチャーズの社会貢献プラットフォーム「gooddo(グッドゥ)」の事業に携わる中村奈津さんです。

仕事で社会貢献的な事業をしながらも、プライベートでもNPOの支援活動をする、典型的な表裏のないソーシャル女子。来年、ご結婚とのことですが、同じタイミングで婚約者の方がコンサルティング会社の内定を蹴り、NPOに転職するそうです。

NPOの正社員年収は事業会社より一般的に低く、結婚と同時にNPOを退職する「男性の寿退社」もあると言われる中、逆に結婚を間近に控えNPOに転職するというのは、チャレンジングなキャリアと言えるのではないでしょうか。

個人だけではなく夫婦間でもビジネスセクター(営利)とソーシャルセクター(非営利)をフレキシブルにまたぐライフスタイルの中で見えてきたものとは?

■大手企業から、スタッフ数人のスタートアップへ

安藤:まずご経歴からお聞きします。

中村奈津さん(以下、中村):私は、東京生まれ東京育ちで、大学では心理学を専攻し、サークルには入らず、カフェのアルバイトと様々なボランティアをしていました。

当時は、将来子どもの周りにある問題を解決できる保健室の先生(養護教諭)を目指していましたが、大学2年の時に友人に誘われて、教育支援のNPOのカタリバと出会い、日本における社会課題は、子どもたちに関わるもの以外もたくさんあることを知りました。

カタリバの活動を通じて久美さん(NPOカタリバ代表理事・今村久美氏)や駒崎さん(NPOフローレンス代表理事・駒崎弘樹氏)などの社会起業家の方々と出会ってから人生が変わりましたね。当時学校でのボランティアもしていたのですが、学校の先生は本当に忙しいので、様々な社会問題に気付いても動きにくいなと分かりました。もっと積極的に課題解決に関わる仕事をしたいなと感じるようになりました。

カタリバでのボランティアはプロジェクト単位で活動をするのですが、プロジェクト中は毎日のように事務所に入り浸っていました。学生時代ほとんどいたと言っても過言ではありません。ただ当時NPOに就職するとは考えていなかったので、大学卒業後は、大手の人材育成・社員研修コンサルティング会社に就職しました。

3年勤めたのですが、やはり社会貢献分野の専業の仕事をしたいと考えていた所、縁あって、社会貢献プラットフォーム「gooddo」のプロジェクトメンバーとして立ち上げ期から参加することになりました。

gooddoというサービスは、企業から広告費を頂き、ユーザーが行ったアクションに応じてNPOに支援金が送られるという仕組みで、ユーザーには金銭的負担がないので、気軽にNPOの支援ができます。ソーシャルメディアなどを使ってNPO/NGOの活動の認知拡大をすることで社会貢献を身近な存在にすることを目指しています。

安藤:なるほど。大手企業からスタッフ数人のスタートアップに転職ってすごい決断ですね。

中村:大手企業からいきなり、しかも前職とは畑違いのネット広告会社の新規事業に、って驚きですよね。自分でもびっくりしています(笑)。新規事業なので、当然うまくいかなければプロジェクトの解散もありえますが、まずやってみようと。今やらなければ後悔すると思ったので誘われた翌日には決めました。

実際の業務としては、パートナー対応(NPO・企業)を中心に、広告の企画・運用・分析、ライティングやデザインなどのコンテンツ制作、経理業務などです。数人しかいないチームなので、ほぼすべての業務を担当しています。色々勉強させてもらっています。

■オンもオフも入り混じる"ライフワークミックス"な働き方

安藤:プロジェクトの参加から1年だそうですが、何か社会貢献に対する意識は変わりましたか?学生時代や前職では、プライベートのボランティアは無給じゃないですか。社会貢献をビジネスにしていくという過程はどう見えるのかなと。

中村:成果の意識が強くなりました。社会貢献分野って、普通のビジネスパーソンからしたら懐疑的な目で見られている部分も多いと感じています。ただのキレイごとでしょ?みたいな。だからこそ、結果を出すことがこの領域においては特に重要なことだと再認識しました。

安藤:キャリアチェンジでモチベーションのあり方は変わりましたか?

中村:モチベーションがどうこうというのは、最近は考えた事がありません。公私関係なく、私が将来にわたってやりたいことはより多くの人にとって「社会貢献を身近にする」ことです。新卒で入社した会社は、仕事とプライベートがきっちり分けられていましたが、今は差はそこまでないように思います。

仕事とプライベートが重なり合っていても嫌とは思いませんね。

やりたいことがやれているので、プライベートの領域に仕事の要素が入ってきても、辛いと思った事はほとんどありません。これはあるNPO職員の方の言葉ですがライフワークバランスではなく"ライフワークミックス"な状態ですね。この業界ではよくあるみたいです。

安藤:オンでもオフでも社会貢献に関わるアクションをしていて、正直面倒とか、プライベートくらいはゆっくりしたいとか思わないのですか?

中村:ないですね。(笑)例えばソーシャルメディアのFacebookとTwitterのオン・オフのなさは顕著です。ソーシャルメディアの個人アカウントをプライベートでも仕事でも使っていますから。どこからが仕事でどこからプライベートな活動なのか、もはやわからないくらいです。もちろん、仕事のことを投稿する時は情報の扱いに気をつけますけど。

まわりのNPOの人たちでも、公私混同でFacebookなどのツールを使っている人は多い印象です。たしかに休みの日に仕事の話がきたり、遊びに行ったら仕事関係の方に出会うことが多いということは傍目には楽ではない気もしますが、好きなので辛いと思った事はありません。

■NPOに転職する彼を後押し

安藤:では、今後のキャリアプランについてお聞きしたいのですが、今26歳で、30歳までにどうなりたいとか、35歳までにこうなりたいといった目標があれば教えて下さい。

中村:キャリアではないですけど、30歳までに子どもを授かればいいなとは思います。あと、今の仕事を通じて社会に貢献していきたいという気持ちはありますが、その先は正直わかりません。

安藤:まわりの同級生とかは?

中村:子どもを産んだ人も増えてきました。以前はもっと働きたいと思っていたのですが、来年結婚をするというのもあり、子どもを産むこともリアルに考えられるようになってきたように思っています。

女性の多くがそうだと思うのですが、結婚・出産がキャリアを考える中で大きな要素になります。私の場合、来年結婚する彼が、今年一般企業からNPOに転職することになったんです。NPOに就職となると正直給料は下がるので、お互いやりたいことを続けるためには2人で頑張って働きたいと思っています。家事や子育てもどちらがと言うわけでなく、一緒にやっていくつもりです。

彼のNPOへの転職の話はびっくりましたけどね。でもまず思ったのが「いいことだな」と。転職活動の中で別の戦略系コンサルの企業さんからも内定を頂いていたので、そっちを蹴ってまでNPO? みたいのはありましたよ、正直。

でも、社会を良くする仕事がしたいと強く思っていて、その仕事をできる機会があるのにチャレンジしないという選択肢はないわけです。個人として人生をかけてしたいことがあるのならば、挑戦すべきだと。

どんな風に生きていきたいかが明確で、やりたいことが目の前にあれば、それを選ばないのはもったいないですよ。未来の自分に対して、言い訳をしている場合じゃない。

■"普通の人"もソーシャルな働き方ができる時代に

安藤:奥さんがNPOの正社員というのはたくさん例がありますが、特に20代の夫婦は、旦那さんがNPO社員で奥さんが営利企業ってあまり聞かないですよね。NPO界隈では「男性の寿退社」もあるようですし。結婚してお金が必要になるから、営利企業にいかないと生活できないという現象ですね。

中村:私は、いいと思いますけどね。確かに、給料のことを考えると、男性側がNPOスタッフというのは難しいというのもわからなくはないです。でも、だからこそ、彼のように若い男性のNPOスタッフが増えることは良いことだと思います、次の世代のロールモデルになりますし。

これはNPOの正社員限定の話ではないと思いますが、社会性を意識して働く人が、世の中にもっと増えれば、素晴らしいことだと思います。若い優秀な人たちが参入して、市場が盛り上がってくれば、給与面の改善にもつながっていくのではないでしょうか。

安藤:20代ではユニークな属性ですね。夫婦で、ビジネスとソーシャルという別のセクターで働くこと。ただ給与面でいえば、独立してしまったほうが、ハイリスクですけどリターンも大きいじゃないですか。独立はしないのですか?

中村:私も彼も独立してガンガンやっていくというタイプではないので独立・起業を目的にすることはないですね。良くも悪くも"普通の人間"なんです。たくさん起業家の方を知っていますが、そういった働き方は誰でもできるわけじゃないし、私たちには正直難しいと思います。

でも世の中って普通の人が大半じゃないですか。だから私たちみたいな「普通の夫婦の、ちょっと変わったキャリア観」ってまだ珍しいし面白いのかもしれません。実践しようと思えば、できないなくはないですよね。

安藤:確かにメディアに登場する女性キャリア論だと、誰もマネできないようなワーキング・マザーの事例が多いです。

中村:そういう意味では、「普通の人が普通に目指せる」ソーシャルな働き方のモデルがもっとメディアに出てもいいですよね。パラレルキャリアを実践している人もたくさん出てきているわけですし。

■「お金を稼ぐこと」と「社会を良くする働きをすること」

安藤:「新しい働き方」をテーマとして様々な方からお話を聞いていますが、労働環境がどうこうの前に、思考の枠が広い人が多いですよね。

中村:たしかに働くことと労働することはイコールではないですね。少なくとも私のまわりの20代は、ただ自分が稼げればいいと思っていない感じがします。稼ぐだけが仕事じゃないというか。お金以外にも価値ってあるだろうと。

私たちの世代(今の20代半ば)は、生まれた時はすでに不景気、物心ついたくらいで阪神大震災がありましたし、ゆとり世代と言われて育ってきています。

就職活動の時にリーマンショック、心の病気で仕事を辞める人達をたくさん見てきたし、女性は子どもを産みたくても産めないかもしれないし保育園に預けられるか分からない。いろんな社会課題を感じながら生きてきました。それにたくさん働いて稼いだら必ず自分や家族を幸せにできるというわけじゃない、ということを上の世代の方々が示してくれています。

だから普通に働いて稼げればそれだけで良いとは思えないんです。そういう点で社会貢献に関わりたい若者は確実に増えていると感じています。私にとってもお金を稼ぐことと社会を良くする働きをすることは切り離せないことです。

数年後に生まれるであろう自分の子どもたちに、社会問題ばかりの日本社会を引き継ぎたくないじゃないですか。それには社会起業家になれるようなすごい人だけじゃなくて、私みたいな普通の人が、仕事でもプライベートでも社会を良くすることに関わっていくことが大切だと思っています。

そのためにはまず、よりたくさんの人に社会問題を知ってもらい、社会貢献というものを気軽に近づける分野にしていく必要があります。だから私としては、今携わっている「gooddo」というサービスで、「社会貢献を身近にする」ことをより大きく広めていくのが大切だと思っています。

【取材協力:CSRビズ

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