あなたの早食い直せます!

早食いは、よく噛まずに食べ物を飲み込んでしまうため、消化にも悪く肥満の原因であることは多くの方がご存知だと思います。しかし、「ゆっくり食べる」とはどのようにする事なのでしょうか。

早食いは肥満の原因。ゆっくり食べるってどういうこと?

早食いは、よく噛まずに食べ物を飲み込んでしまうため、消化にも悪く肥満の原因であることは多くの方がご存知だと思います。

しかし、「ゆっくり食べる」とはどのようにする事なのでしょうか。

そもそも人によって「ゆっくり」の基準は異なりますし、「トラの縞(しま)は洗っても取れない」という言葉にもあるように、長年かけて形成された習慣は簡単に変えられるものではありません。「ゆっくり食べる」方法を検索すると、時間を測ったり、1回で20回以上噛むと意識したりすると良いと他のサイトなどで書かれていますが、それらは長続きせずイライラしてしまう方が多いように見受けられます。

病院の看護師も、患者さんの食事を介助するときは「ゆっくりと、患者のペースに合わせて行う」と教わります。早食いは不整脈を起こすなど、循環動態に影響を起こす可能性があるので、ゆっくり食べてもらうことは重要なのです。ただし、ひとえに「ゆっくり」と言っても、どうすれば修正できるのかを具体的に考える必要があります。

つまり、看護師は食事指導を行う際に、その人が普段どんな食べ方をして、何を修正しなくてはならないのかを確認することが大切なのです。

食べるスピードや食べ方を自然にコントロールするためには

そこで、患者さんが何も意識せず食べるスピード食べ方を変えられたら患者さんにとっても楽なのではないか、と考えた看護師が、食器の数、BGM、食べ物の温度などの食事そのもの以外の環境が、食事の美味しさに影響するかどうか について検証するために 看護研究を行いました。

まず、166名のサラリーマンが社員食堂で食べている姿をビデオ録画して①食べた量、②食べるのにかかった時間、③食べ物を口に運ぶ回数(運び回数)、④食べ物を噛んだ回数、⑤食べている間に休んだ回数、⑥30秒ごとの食べた量の推移 を記録しました。

それらを検証すると、対象者は約800kcalの食事を7.3±2.5分でたべ、28.2±7.9回口に運び、382.5±68.3回咀嚼し、43名(25.9%)は食事重量の60%を3分以内に摂取してしまういわゆる「早食い」であることが分かりました。

次に、その43名のうち、ゆっくり食べたいと希望し、自主的に参加を申し出てくれた16名に依頼をし、①食器の数 ②BGM ③食べ物の温度 ④同席者の有無 という4つの環境因子を変化させて実験観察が行いました。

その結果、食器の数だと、懐石料理のように食器の数が多く、一皿に盛られている量が一口以下になると、口に運ぶ回数や食べている間に休む回数が増えるということが分かりました。つまり、これが家族とゆっくり話しながら食べるために作られている懐石料理の実力です。

一方で、分割してゆっくり食べるためには、一皿に一口量の2~3倍盛られていると認識させること、仕切りのあるお弁当箱の利用が有効なのだそうです。

BGMでは、同じ曲のテンポを1分間で122beats(拍)と56beats(拍)で演奏した時の影響を観察したところ、アップテンポの方がバラードのようなゆったりした曲よりも噛む回数が15%多くなることが分かりました。行進曲に合わせて足が動きますよね。もしかしたら、看護師の味気ない食事の指導にもバリエーションが加えられるかもしれません。

食べ物の温度では、35~30℃の場合と60~70℃で加温された場合を比較したところ65℃の状況では噛む回数が減少しましたが、噛む時間は変わりませんでした。早食いの人の場合、熱い食べ物を出すことで噛む回数を減らすことができました。しかし、食べ方の変化には至らず、むしろ噛む回数が減ることで丸飲みするという新たな問題が生まれました。

同席者については、面識のない同席者や親密な関係にある配偶者が同席した場合においては影響が確認出来ませんでしたが、面識のある人の場合は、口に運む回数の増加と食べている間に休む時間の延長により、食事にかかる時間が5.2分から7.2分に延長しました。一見楽しそうに見えても、職場での関係性から「ペースを合わせようとした」「同席者の食事の進み具合が気になった」「できれば同席したくない」といったように、相手との人間関係が食べ方に及んでいると考えられます。

このように、環境が食事のスピードにも影響を与えているということが分かりました。

病院で入院している患者さんにとっては、ゆっくり食べて安全に飲み込むことは、自分の命を守るための手段でもあります。食器をどういう風に分けるか、音楽をかけるかどうか、食べ物の温度、そして誰と一緒に食べるか等、環境因子を考慮することは、とても大切なことです。

入院をされていない皆さんも、この話は関係ないわけではありません。早食いが気になるあなた、そして大切な人にゆっくり食べてもらいたい方、ぜひ食べる前に一度 食べるときの環境を整えることを意識してみてくださいね。

文責:聖路加国際大学看護学部4年 松井晴菜

参考・引用 文献/ URL:

・菱沼典子・川島みどり編集(2013) , 看護技術の科学と検証第2版―研究から実践へ、実践から研究へ―,株式会社 日本看護協会出版, p165-p167

・齋藤やよい(1997),食事摂取に伴う循環動態の評価(その2),看護管理,7(5),p382-p389