うつ伏せで寝ることの効果と裏づけ【私達を支える看護学(2)】

皆さんは、うつ伏せで寝ることが健康に良いと言う話を聞いたことがありますか?

看護学研究の世界へようこそ!

私達を支える看護学シリーズ第2弾です! 前回は「寝たきりの人の生活を変える方法」について紹介させて頂きました。

看護師の行う患者さんへのケアは看護学の根拠に基づいて行われています。そもそも「看護学」とは学問体系(知的)と実践体系(技術)の両面を持ち合わせた実践の学問(科学)です。

この学問は、あなたの生活にも活かせるだけではなく、周りの友人や親の健康に関する悩み解決へのヒントになるかもしれません。

うつ伏せで寝ることが、健康促進につながる

皆さんは、うつ伏せで寝ることが健康に良いと言う話を聞いたことがありますか?

なんと、100歳を超えた今でも現役医師、聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生も実践されているくらい健康維持促進の面で効果が期待されている健康方法なのです。

うつ伏せで寝ることを、医療用語で「腹臥位療法(ふくがいりょうほう)」と言います。

「腹臥位療法」とは、仰向けや横向きを中心とした生活に目的意識的にうつ伏せを組み込むことです。現場では、高齢者・障害者への廃用症候群と呼ばれる全身や局所の機能的・形態的障害を生じることを予防・改善するためのポジショニングとして用いられ、呼吸器系疾患への治療としても利用されています。

■仰向けで寝ることが普通になっているが、それが良いという確証は存在しない。

これは昔から当然のように仰向けで寝ることを習慣としてきた人にとっては、信じられない話かもしれません。しかし、仰向けが当たり前だなんていう証拠はどこにも存在しないのです。

ある看護師はうつ伏せで寝ることについて、いくつかの研究結果から検討しました。そこで明らかにされたのは、うつ伏せは気道が確保されるため、いびきや睡眠時無呼吸症候群の人にとっては最適な姿勢だということです。さらに、うつ伏せは物理的な効果だけではなく、(1)大脳機能の活性化やリラクゼーション効果の示唆(2)筋緊張のバランスを整えて、呼吸の問題を改善できるという効果があることも判明しました。

うつ伏せで寝ることによって本当に大脳の活性化やリラクゼーション効果が得られるのか?

今回は、(1)の大脳の活性化やリラクゼーションの効果について特化した研究を紹介したいと思います。

ある地区に在住する健康な老人12名(66~84 歳,平均73.5歳)と学生12名(21~23歳,平均22歳)を対象に、同じ環境下で老人群と成人群で分けて実験研究を行いました。

評価の指標は、大脳の前頭連合野への刺激量の増大をみるための脳波と、心臓の自律神経の交感神経機能をみるための心拍変動としました。

脳波とは、脳神経細胞の自発的電位の変動を頭皮上の電極から記録したものです。心拍変動とは、体を傷つけない手法であり、心拍一拍ごとの変動を測定する心臓の自律神経緊張の指標のことです。心拍変動の増加は、おそらく交感神経緊張の減少と副交感神経緊張の亢進によると思われるため、値が増加することでリラックスするということになります。

まず、大脳の機能に影響をみるために、以下の図の通り前頭連合野であるFp2やF4における反応を見ました。

その結果、脳波の変化としてFp2におけるβ波(精神活動活発時に測定される波)含有率は老人群では実施前(14.5±7.45%)にくらべ実施中(21.1±13.0%)は優位に増加しました。実施後(11,1±9.37%)には実施中より低下しました。成人群では、実施前(8.3±3.86)・実施中(9.9±5.00)・実施後(8.6±4.31)であり、差異はありませんでした。F4においては、老人群では実施前21.7±9.37%から実施中27.2±11.28%に有優位に増加し、成人群では実施前10.6±3.85%から実施中12.8±4.90%に優位に増加しました。よって、大脳は活性化しているということが分かります。

次に、心拍変動についてデータの不備により1例を除外して11例のデータを解析しました。1つの波の谷から谷までの時間を周期(持続時間)と言い、msecで表されます。

その結果、老人群では実施前907.9±113.70msec, 実施中889.4±112.62msec, 実施後953.3±108.17msec, であり、実施前と実施後、実施中と実施後の比較でそれぞれ優位差がみられました。また成人群でも、実施前880.6±94.37msec, 実施中890.6±98.97msec, 実施後939.4±98.69msec, であり、実施前と実施後、実施中と実施後の比較でそれぞれ優位差がみられました。よって、自律神経系への影響としては、実施後の値が両方とも伸びているため、リラックス感が高まったのだと考えられます。

以上のことから、うつ伏せで寝ることは大脳の機能が活性化され、リラクゼーション効果があるということが分かります。

どの反応においても老人群の方が高値であったのは、脳波の特徴として高齢者には速波(β波)の増加があるからです。特に前頭部での出現は高いと言われていることから、このような結果が得られたのだと考えられます。

また、うつ伏せで寝ると手の平からの刺激も加わることから、仰向けの時よりも多く刺激を感知して自身に伝えることができ、大脳の活性化に有効であると考えられます。

最後に

いかがでしたでしょうか? 意外だと感じられた方も、少なからず居られたのではないでしょうか。

このように、腹臥位療法は、障害を受けた人の急性期から慢性期、さらには健常の人に至る人まで、あらゆる人が対象になるとされており、この効果の示唆は得られています。

看護の分野で「腹臥位療法」が紹介されるようになってから10年以上が経過しているにも関わらず、まだまだ普及・継続が十分に図られていないのが現状ですが、

是非、皆さんも健康な体を作っていくために、意識的にうつ伏せで寝てみてください!

「看護学」は、私達を救ってくれます。

私達を支える看護学シリーズ、まだまだ続きます。次は第3弾でお会いしましょう!

私達を支える看護学シリーズ第1弾

文責:聖路加国際大学看護学部4年 松井晴菜

引用・参考文献 / URL:

・菱沼典子・川島みどり編集(2013) , 看護技術の科学と検証 第2版―研究から実践へ、実践から研究へ―,株式会社日本看護協会出版, p17-p25

・柳奈津子・小坂橋喜久代・有働尚子,他(2002):腹臥位が大脳機能および自律神経機能に及ぼす影響―健常老人と健常成人の比較―,群馬保健学紀要, 23, p.43-48

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