「たすけてと言いたいときもある」新しい春を迎えた1500人の声から見えてきたこと

正直に言います。死んでからでは、遅いのです。
公益財団法人あすのば

3月に入り、春という季節を感じる日も増えてきました。週末に自宅の近くにある高校でも卒業式が行われ、卒業した生徒の嬉しそうに商店街を笑顔で歩く姿が印象的でした。

期待よりも不安の方が大きくなる春の訪れ

あすのばでは入学・新生活を迎える子どもたちに3万円~5万円の「入学・新生活応援給付金」を届けています。この給付金は制服や教科書など入学・新生活にかかる費用に使っていただいています。

このたび給付金を届けた住民税非課税世帯・生活保護世帯・児童養護施設や里親など社会的養護のもとで暮らす子どもたち2,257人への大規模アンケートをはじめて行い、子どもと保護者合わせて1,500人以上から切実な生活状況や声が届きました。

「入学(中学)では制服や運動着、ワイシャツなど最初に準備しなければいけないものがたくさんあり、10万ちょっとかかりました。」

「高校受験、入学にかかる支出が多く不安な時期だった。給付金のおかげで入学を心から喜べるようになったと感じた。入学=不安にならず良かった。」

お届けした給付金に対して「ありがとう」の感想も多いなか、同じくらい多かったのは入学・新生活に対する不安の気持ちでした。かかると思っていなかったお金が想像以上にかかる「ゴーストコスト(見えない費用)」や先行きが見えない状況に、子どもも保護者も漠然とした不安を抱えていました。

給付金の機能と「入学の前や直後にもらえる」ニーズが高い理由

公益財団法人あすのば

これまでにも給付金を届けた子どもや保護者とお会いし、直接お話をうかがうなかで給付金の「5つの機能」が見えてきました。その「5つの機能」とは、①返さなくてもいい(給付型)、②成績不問や就職する人などにももらえる(包摂型)、③入学の前や直後にもらえる(時期適応)、④使い道が限られていない(使途自由)、⑤最低限の手続きで申し込める(手続き簡素)です。

これらの機能はどれもが重要だと考えられますが、アンケートでは特に「入学の前や直後にもらえる」ことへお役に立てた理由を答える人が多くいました。

実は、現行の手当で一番お金のかかる3月に児童手当も、ひとり親が利用できる児童扶養手当も支給されていません。児童扶養手当の支払い回数を見直し3月(奇数月)に支給する法案がありますが、早くて2年後の2020年3月から。また、高校などに入学する子ども(15歳)の家庭では児童手当が、高校などを卒業する子ども(18歳)のひとり親家庭では児童扶養手当が年度末にあたる3月で切れてしまいます。

そして、費用負担を軽減するための就学援助制度も入学後に支給される自治体が少なくないなか、色んな支払いを一時的に立て替える必要があります。最新の文部科学省の調査では入学前支給を実施または実施予定の市町村の割合が小学校で41%、中学校で49%と増えてきましたが、手当の現状も含め「日々の生活は何とか切り詰めてやっていても、急な出費に対応できない」構造的な課題としてさらなる改善が求められます。

生活がギチギチです。助けてください

公益財団法人あすのば

深刻な状況は、入学・新生活という局面に限った話ではありません。発表した中間報告では「貧軸(経済的な状況)」と「困軸(困りごとの状況)」の2軸で分析をしました。

先ず「貧軸」について、保護者の就業率が74%と高い割合にもかかわらず、勤労月収の中央値は11万7千円でした。児童手当や生活保護など諸手当を含めた総年収の中央値は203万円。86%の世帯は年間300万円未満で暮らし、家庭の貯金についても76%の世帯は50万円未満か「ない」と回答しました。

また、85%はひとり親か両親がいない世帯で、18%の保護者は子どもの頃に同じようにひとり親家庭などで暮らしてきていました。健康状態についても保護者の41%は「良くない」または「どちらかといえば良くない」と回答し、生活保護を利用している保護者はその割合が63%にのぼりました。

さらに、65%の世帯では子どもが小学校の頃までに経済的に厳しい状況になっており、入学からアンケートを実施したおよそ半年間の間で高校1年生世代の3人に1人(33%)はアルバイト経験が「ある」と回答しました。

公益財団法人あすのば

自由記述には「たすけてと言いたいときもある」とだけ、大きな文字で書いた子どももいました。

貧困には「自己責任」という認識も根強くあります。しかし、先ほどの局面的な支援制度の課題に加え、働いても十分な収入を得ることができない、学校の費用や家庭の生活費のために子ども本人もアルバイトをしている状況は、改めて根本的な社会構造の問題として捉えるべきです。特に、ひとり親は「世界で一番働いているのに、世界で一番経済的に厳しい」と言われている不名誉な"金メダル"の状態です。

子どもにとっての「3つの"R"」~Right,Relationship,Recollections~

公益財団法人あすのば

「困軸(困りごとの状況)」についても、大きな発見がありました。それは、子どもにとっての「3つの"R"」で、子どもにとっての「あたりまえ(Right)」、「つながり(Relationship)」、「おもいで(Recollections)」の3つを指しています

経済的な理由であきらめた経験について、「塾・習い事(保護者・69%)」、「洋服や靴、おしゃれ用品(子ども・52%)」、「スマートフォンや携帯(子ども・30%)」、「海水浴やキャンプなどの経験(保護者・25%)」、「お祝い(保護者・20%)」などの項目で高い割合がありました。なかでも、幼少期から経済的に厳しい状況が続いている世帯や子どもほど、様々な「あきらめ体験」で高い傾向となり、あきらめを積み重ねている「あきらめの連鎖」が浮き彫りになってきました。

気をつけたいことは「経験をあきらめた=貧困」なのではなく、経済状況が子どもにとっての「あたりまえ」に影響を与え、その「あたりまえ」が奪われることで「つながり」や「おもいで」の形成も奪われるリスクが高いという現実に焦点を当てていることです。保護者と子どもの学校との関係や、子どもが学校や地域を居場所と思うかについても、幼少期からの困窮に影響がありました。

公益財団法人あすのば

子どもたちや保護者から本当に色んな声が届きました。最後にひとつ紹介します。

「大人の階段をのぼることがこんなにも複雑な気持ちになるなんて、小さい頃には分かりませんでした。親がいて、家に帰ったらみんなでご飯を食べて、一緒にテレビをみて、でも、年齢があがるとだんだん忙しくなって家に帰る時間が遅くなって今まで一緒にいた時間があたりまえじゃなくなりました。」

さらに、この子どもは「でも、それが私にとってとても良かったです」、「誰かの支えが自分にとって人生を良くしてくれます」と続けて書いています。

子どもたちは、あきらめを積み重ねながらも「大人の階段」をのぼっていきます。そこには、生き抜こうとする「強さ」をも感じ取ることができます。

しかし、子どもにとっての「3つの"R"」が十分に保障されないまま大人の階段をのぼることは人生の糧となる大切な「子ども期」をその人から奪い、その先で待ち構えているのは先ほど述べた行き過ぎた自己責任の社会なのかもしれません。

「背もたれのない社会」から「自分だけで抱え込まなくていい」明日へ

自己責任論は、自分たちも同じ自己責任の条件で生活している「自分事」だから根強い側面もあります。ただ、この状況を社会課題として改善する理解や「勇断」がない限り、私たちは自分たちの手で自分たちのことを、どこにも頼れない「背もたれのない社会」へと追い込んでいくことになります

すべてを社会の責任だと言うつもりはありません。最後は子ども自身が自分で自分の人生を切り開き、保護者には子どもを育てる責任もあります。しかし、そのための十分な環境を社会全体で整備することは必要不可欠です。

村尾政樹

私は小学校6年生の春に母親を自殺で亡くし、自責の念を抱きながら子ども時代を送ってきました。しかし、自殺対策基本法で「自殺は社会課題」と明記され、少し肩の荷が下りた気持ちになれました。

6月に成立5年を迎える「子どもの貧困対策法」も、アンケートに協力してくれた子どもたちはもちろん、すべての子どもやお母さん・お父さんにとって「自分だけで抱え込まなくていい」と希望に感じる法律であってほしいと願い続けています。

実は、私の母親も子どもの頃にひとり親家庭で育ち、貧困の連鎖を断ち切ろうとするなかで自殺へと追い詰められました。正直に言います。死んでからでは、遅いのです。

平成の時代も終盤にさしかかり、2018年の春は新しい時代へ移り変わるための重要なスタートライン。今から未来は始まっています。私は今を生きる子どもたち、お母さん・お父さん、そして、みなさんの「今」に笑顔があってこそ素敵な未来が広がっていくと信じています。

注目記事