日本を訪れる人たちに"真のおもてなし"を -- Tokyo Smile Veggies

最近、"食の多様性"を日本国内に推進しようと立ち上がった4人の女性たちに出会いました。「トーキョーにベジなおもてなしを」を合い言葉に、東京のレストランに"ベジタリアン食"を普及するプロジェクトを始めた人たちです。

"Love Diversity"をスローガンに掲げるMy Eyes Tokyo(以下MET)。これまで国籍や民族の多様性を日本国内に推進すべく、日本在住外国人のインタビュー配信を英語だけでなく日本語で日本人向けにも行ってきました。

そんな私たちは最近、"食の多様性"を日本国内に推進しようと立ち上がった4人の女性たちに出会いました。「トーキョーにベジなおもてなしを」を合い言葉に、東京のレストランに"ベジタリアン食"を普及するプロジェクトを始めた人たちです。"Tokyo Smile Veggies"(以下TSV)と名付けられたそのプロジェクトは「ベジタリアンの訪日観光客に日本の食を楽しんでいただくこと」を活動のゴールに据えています。

多くの人たちが日本を訪れ、日本のファンになり、彼らが母国で日本のことを伝え、その結果としてさらに訪日観光客が増える・・・私たちMETにとっても、それは大きな願いです。活動分野は違えど「あらゆる国々からいらっしゃる人たちをお迎えしたい」という思いは同じ。私たちは勝手ながら彼女たちを"同志"のように思い、また"ベジタリアン食"と訪日外国人という組み合わせに非常に新鮮なものを感じ、この度は学ばせていただくつもりでお話を伺いました。

Tokyo Smile Veggies

・烏山 彩さん(マクロビオティックアドバイザー/米粉マイスター認定インストラクター)

・千葉 芽弓さん(マクロビオティックアドバイザー/ヨガインストラクター/マクロビオティック・フードデザイナー)

・森田 淳子さん(マクロビオティックアドバイザー/懐石料理講師資格)

・深澤 久美子さん(愛菜料理人)

■ 真の"おもてなし"を目指して

千葉:私は普段は外資系企業で働いています。世界中にオフィスがあるので、私が在籍している東京のオフィスにもあらゆる国々からのゲストが来ます。彼らのベジタリアン率が高い一方、彼らを連れて行けるお店が東京には少ないことをずっと感じていました。もちろん同僚たちは、お肉大好きな人がほとんどですから、一般のレストランにベジ対応をお願いするわけですが、そこで出てくるものはサラダや煮物、蒸し野菜といったようなものになります。お腹を満たす食事についてはパスタからベーコンを抜いたりと"お肉やお魚を除く"ことで対応するお店がほとんどです。

そんな食事を見たお肉が好きな人たちから「肉や魚が無いなんて、食べ物じゃない」という声をよく耳にします。それに対していつも「いや、それは違う。ベジタリアン食ってもっといろんな種類があるし、楽しいし美味しいものなんだ」と思っていました。だからこそもっと多くの人に知っていただきたいし、ベジを普及させたいという思いがあります。一般へのベジの普及は十分実現できることだと思っていますから。

烏山:もしイタリアンやフレンチのシェフたちがベジタリアン食を作ったら、面白いメニューがたくさん生まれるのでは?という期待もあります。その思いから「東京にあるレストランにベジの選択肢を加えていただくようプロモーションしてはどうか?」というアイデアが生まれました。

深澤:そうやって私たちが集まり、"Tokyo Smile Veggies"という名前を決めたのが、今年の5月初めでしたね。

千葉:実際に、外国人でベジタリアンという人は多いんです。私の会社で海外からのゲストを迎えてのパーティーがあった際、ベジタリアンの料理を別にお願いする必要があったほど。しかしお店側からは「作り方が分からない」と言われ、私がメニューを作り、それをお店に渡すこともありました。

日本は外国人観光客を、現在の2倍に増やす方針を発表しています。でも先に申し上げたような状態で、果たして彼らを受け入れられるのだろうか・・・本当の意味での"おもてなし"をするのなら、食については今から動いていかなくてはならない - そのような思いから、私たちはTSVを立ち上げました。

■ 昔はみんなジャンクだった

千葉:私はベジタリアン歴10年です。それまでは、太りたくなかったのでお米を食べずにおかずとお菓子でカロリーの帳尻合わせをし、仕事が忙しい時はハンバーガーでお昼を済ませたりしていました。乳製品についても、通勤時間にキャラメル一箱とか(笑)市販のチョコレートも毎日のように買ったりと、ものすごい量を食べていました。

そんな食生活を送っていた当時は疲れがひどく、肩こりに悩まされ、おまけにすごい冷え性で、すぐに風邪をひく。そして気持ちもネガティブになるという悪循環に陥りました。

ある日受けた検診で、私は乳がんの一歩手前と診断されました。その時に、マクロビオティックを日々の生活に取り入れている友人に勧められてマクロビオティックを学びはじめ、食生活の大切さを思い知りました。ヨガをかなり以前からやっており、その理論がマクロビに通じていて興味深く、料理も好きだったので、動物性のものを抜いておいしいものを作ることがどんどん楽しくなっていきました。

仕事をしながらTSVを立ち上げるなんて、以前の私には考えられなかったと思います。

深澤:私は10年間、精進料理を習ってきました。『鬼平犯科帳』が大好きで、作中に出てくるご飯がすごくおいしそうだったんです。「どうやったらこういう料理が食べられるんだろう?」と思っていた矢先、何と"鬼平犯科帳が愛した料理を創る"という講座を見つけました。でも月に1回習うだけで、家庭では台所に一切立ったことがありませんでした。召使いさんがいるお家に嫁ぎたいと思ったほどです(笑)でも講師のお話が面白くて、それを聞くために通っていました。その講座が終わった後も、同じ講師が精進料理を教えてくれるというので、精進料理そのものは興味は無かったのですが(笑)先生のお話を聞くためだけに講座に通いました。だから精進料理の知識だけは身に付きましたね。

でも普段の食生活は酷かったです。お昼ご飯を市販の板チョコと"割けるチーズ"で済ませていたことも(笑)元々胃弱で、特に毎年春と秋の季節の変わり目はそのようなものしか受け付けなかったという事情もあります。チョコは少量でおなかが満たされるから、食欲が無いときに打ってつけでした。栄養バランスよりは"一日の総カロリー"だけを計算して、そんな食事をしていたんです(笑)

そして遂に体が悲鳴を上げました。四六時中、顔に痒みをおぼえるようになったのです。それまでに一生分のチョコレートを食べ切ったからかもしれません(笑)そこで精進料理の講師のアドバイスに従い、卵・チョコを含む一切の乳製品や白砂糖を止めました。今は時々いただくこともありますけどね。

烏山:私はベジタリアン歴2年です。それまでは全く食に気を遣っていませんでした。昔から市販のチョコレートが好きだったし、卵は一日2個食べていた時もあります。牛乳やチーズなどの乳製品、白砂糖も好きでした。だからか、当時の私の顔には常にニキビがたくさんありました。

ちょっと前まで私はIT企業で働いていました。お昼ご飯がいつ食べられるか分からないし、朝から夕方まで働き詰めだったから、きちんとした食事をする時間がとれずにチョコやバランス栄養食などを食べてしのぐような日々でした。甘いものは毎日必ず食べていましたね。食事に気を遣っているヒマが無く、仕事帰りの深夜の時間帯ではコンビニ食以外に選択肢がありませんでした。勤務時間も不規則でしたし、食事を味わうというよりは、エネルギーを摂取するために食べるという感じでしたね。

そんな生活を続けていたある日、突然具合が悪くなり始めました。毎日じんましんと発熱が続き、免疫力が落ちて風邪やものもらい、口唇ヘルペス、膀胱炎に罹り、果ては膠原病との診断が下りました。「根本治療はできない」という医師の言葉がとてもショックでした。

だから「自分で自分の体は守らなければならないのだ」と感じ、体質改善法についていろいろ試しました。その中で食事療法としてのマクロビオティックに辿り着きました。

それを機に、自分できちんと料理するようになりました。お菓子も、今は自分で作っています。牛乳の代わりに豆乳を、バターの代わりにオリーブオイルや植物性バターを使うなど、工夫しています。今ではすっかりアレルギー症状がなくなり、病気をすることもなくなりました。ニキビもなく、高価な美容液やエステは必要なくなりましたね(笑)

病気に罹ったのは、もちろん食だけが原因ではなく、仕事のストレスもあったでしょう。でも食は大きな要因だと思います。

森田:私は今でもそれほど厳格なベジタリアンではないし、体を壊してベジタリアンになったというわけでもありません。食への興味からマクロビオティックの世界に入りました。アンチエイジングに関心があり、マドンナが、50代でも変わらないセクシーさを保っていた秘訣がマクロビだと知ったのがきっかけです。

私は昔から美味しいものを作ることが好きでした。なので仕事をしながら洋菓子の教室に通ったり、和食の学校に行っていましたが、次はマドンナに倣ってマクロビを始めてみようと思いました。2012年1月のことです。当時の私は「動物性の素材を使わないで、一体どんな料理が作れるんだろう?」と思っていたほどでした。

それまでの私は、美味しいものを作るだけでなく、食べるのも好きでした。会社でボーナスが出るたびに高級なお店にも行っていましたし、京都に行った時は4500円で旅館に素泊まりしながら2万円の料亭に食べに行きました(笑)その他にもフレンチやイタリアン、エスニック、焼き肉などのレストランも回りました。その一方で1杯250円のうどんを食べに香川県まで行ったこともあります。食べたことがないものは挑戦してみたいと思っていて、マクロビはその一環だったんです。

最初は興味本位で始めましたが、マクロビだと美味しいものをたくさん食べても痩せられる。しかも私は、マクロビを始めてからも食べたいものを我慢したことはありませんでした。例えばクリーミーなお料理は、動物性食品を使わなくても作れます。お餅と白味噌と酸味と豆乳を合わせたらチーズグラタン風のお料理が作れるし、動物性食品が無くてもトンカツや焼き肉に似たものが作れる。その面白さにハマりました。

千葉:ベジタリアン食だと、動物性抜きで様々なものを作ることができます。例えば卵も豆腐や湯葉、雑穀で作ったりします。しかもゆで卵風にも生卵風にも作れます。消化も早くローカロリーですし、アレルギーの人にも安心です。

誤解しないでいただきたいのですが、私たちは動物性を完全に拒否して100%ベジタリアンになったということではありません。クリスマスや誕生日、結婚式、お付き合いの席などでご提供いただいたお食事は、ありがたくいただきます。そしてそのたびに「この味や食感をベジでどうやって再現しようか?」と考えています。

■ 押し付けない、否定しない

千葉:ここ日本では、ベジタリアンや菜食主義者という言葉には、ストイックで禁欲的なイメージが付いて回っている気がします。

深澤:葉っぱしか食べていないと思われていますしね。

森田:あとベジタリアンは、すごくオーガニックでナチュラルなものにこだわっていて、それを周りにうるさく押し付けるようなイメージを持たれています。そういう風に言われるのが面倒くさいと思っている人は多いかもしれません。

深澤:実際にそのような方がいるからだと思いますね。

烏山:「オーガニックではない安価な食事がこの世から無くなればいい」なんて決して思っていません。それが必要な場面もありますから。

深澤:それが無くなったら、有事や災害の時は大変なことになります。

烏山:そういうものの存在も受け入れられるプロジェクトでありたいですね。

深澤:「ベジも皆さんのお食事の選択肢に加えてね」という感じです。

千葉:ストイックになるよりは"ミーハー"であった方が、ベジに取っつきやすいと思います。「いっぱい食べて、キレイになって、痩せられる」なんて、女子にとっては最高に嬉しいし(笑)

■ ベジで日本の食を見直そう

千葉:もし普通のレストランで、メニューに一般のお食事とベジタリアン食があったら、日々の生活の中でベジタリアン食を人々にもっと身近に感じてもらえるのでは、と思います。「昨日飲み過ぎたから、今日はベジにしてみるか」みたいになれば健康改善にも役立つし、ベジタリアンもノンベジタリアンもお互い遠慮せずに、それぞれの食事を楽しめるようになると思います。海外では宗教上の理由からベジタリアンが存在しますが、彼らはノンベジタリアンとも共存していますし、お互いが認め合っています。レストランにはいずれの選択肢もありますしね。

深澤:今私たちがいるハンバーガー屋さんには、普通のお肉のハンバーガーとは別に、豆で作ったお肉をはさんだ"ビーンズバーガー"があります。そのような選択肢が、このお店にはあるんですよね。

千葉:ラーメンでも"ベジラーメン"が出て来ています。それは出汁から植物性のものを使います。

森田:新横浜の"ラーメン博物館"にも、ベジラーメンがあるくらいです。

烏山:でも見た目は全然普通のラーメンと変わらないんですよ。

千葉:やはり、ベジタリアン食を皆さんにも召し上がっていただきたいと思いますね。これまでも、召し上がった人たちは誰もが喜んでいましたから。

森田:ただ、だからといってベジタリアンになる必要はありません。私たちの活動は、ベジタリアンを増やすことが目的ではないですし。

烏山:それでも、もし普通のレストランにベジタリアン食があれば、いろんな人を連れて来やすい。そうなれば、その人たちと一緒にご飯を食べてコミュニケーションを取る機会が増えますよね。

千葉:ベジタリアンは海外から来た概念ではありますが、日本も元々は肉食の文化では無かったはずです。おむすびや日の丸弁当でもみんな体力がありましたし、昔から受け継がれている伝統の食事が日本にはあります。それにマクロビは元々は日本で生まれたものです。

日本にはその土地ごとに、素晴らしい食材があります。それらの食材やお野菜や旬のものを活用したお料理を地域で提供することによって、日本全国に訪日外国人観光客が訪れるようになればいいですね。そのためにも、海外の人たちに日本食の良さを知っていただけたらと思います。

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来る11月16日(日)16時より、私たちMETがTSVさんとイベントを開催します。「ベジー、ちょいベジ、ノンベジ、みんな集まれベジトーーーーク!」をテーマに、バラエティ豊かなベジフードをいただきながら、彼女たちとの座談会や、ハフィントンポストでも大きな反響を呼んだ"ヘルシー弁当を肥満大国アメリカで販売し世界の飢餓を救う内科医"こと関由佳さんをゲストにお招きしてのトークセッションを行います。詳細や参加お申し込みについてはこちらをご覧下さい。

【関連リンク】

Tokyo Smile Veggies:http://tokyosmileveggies.com/