ハワイに根付く盆ダンスとは?―「ハワイと日本、人々の歴史」第13回

皆様、「盆ダンス」とは何かご存知でしょうか? 字面から「盆踊り」のことであると容易に想像できるとは思いますが、実のところハワイの盆ダンスは日本の盆踊りと大きく様相が異なります。と、いうよりも、ハワイの地で、日本の古典的な盆踊りの姿が、脈々と受け継がれているといったほうが正しいかもしれません。

アロハ、Myハワイ編集長明子です。「ハワイと日本、人々の歴史」シリーズでは、観光地としてのハワイから一歩踏み込み、ハワイと日本をつなぐ人々やもの、出来事に焦点をあて、その歴史を掘り下げて紹介しています。皆様、「盆ダンス」とは何かご存知でしょうか? 字面から「盆踊り」のことであると容易に想像できるとは思いますが、実のところハワイの盆ダンスは日本の盆踊りと大きく様相が異なります。と、いうよりも、ハワイの地で、日本の古典的な盆踊りの姿が、脈々と受け継がれているといったほうが正しいかもしれません。

筆者は以前、5年間ほどハワイの盆ダンスクラブ「ヤング・オキナワンズ・オブ・ハワイ(YOH)」に加入していたことがあります。沖縄出身ではありませんが、オキナワン(沖縄系)4世の友人に誘われ参加したのです。

「盆ダンスクラブ?」と不思議に思われる方も多いでしょう。ハワイにはさまざまな盆ダンスクラブがあり、それぞれのクラブごとに得意の演目があります。ハワイの盆ダンスシーズンは6月~9月初旬まで。この時期は週末ごとに、ハワイ諸島の各寺院や公園(約80ヵ所ほど)で盆ダンスが行われます。ハワイの日刊紙「ホノルル・スター・アドバタイザー」や、日本語新聞の「ハワイ報知」、「ハワイ・パシフィック・プレス」などには、盆ダンスカレンダーが掲載され、ファンはカレンダーを見ながら、参加する日を選びます。それぞれの盆ダンスごとに、出場する盆ダンスクラブが異なり、それぞれの持ち時間が定められます。私がYOHのメンバーだったときは、5月から毎週練習をはじめ、毎年3、4ヵ所の盆ダンスに呼ばれて出かけていました。

ハワイの盆ダンスクラブは、先に述べたように沖縄系のクラブ、福島盆ダンスクラブ、岩国盆ダンスクラブなど、祖先の出身地によって組織されたものが多く、それぞれのクラブごとに衣装をそろえ、演目、振り付けも違います。YOHの場合は沖縄の伝統に乗ったエイサーの衣装および法被(ハッピーコートと呼ばれます)を、メンバーがすべて手作りで揃えたものです。メンバーで集まって衣装を縫ったり、会場の子どもたちにプレゼントするパーランクーと呼ばれる太鼓を手作りしたり、毎週の練習のあとにポットラック(持寄りパーティー)を開いたりと、ソーシャル(交流)の部分に重きを置いた活動に参加しているうちに、ふと「村落共同体」という言葉が浮かびました。

ハワイの盆ダンスは、19世紀、ハワイのプランテーション農場で始まりました。以前にも述べましたが、ハワイのプランテーション農場は、移民の人々がそれぞれの出身地ごとにかたまって住んでいたため、村落共同体としての助け合いの精神が行きわたっていました。そのような環境の中、お盆のシーズンには出身地の民謡に合わせて仏教寺院で盆踊りを行い、ご先祖様を供養したのでしょう。ハワイの盆ダンスには、その当時の伝統がまだ色濃く残っているようです。

ハワイの盆ダンスには、さまざまな定番とも言える曲がありますが、その中でも良く知られたものに「岩国音頭」があります。山口県岩国出身の移民たちによって受け継がれた岩国音頭は、長詩型の物語(クドキ)を歌い手が順繰りに歌い継ぎ、太鼓をたたきながら盛り上げていきます。クドキにはいくつかのパターンがあり、その都度違う演目が演じられます。戦争に関する歌詞が多く、日露戦争の英雄や特攻隊員に関するもの、ハワイオリジナルの「ああ442部隊」などのレパートリーもあります。普段は日本語を話すことはほとんどないと思われる日系3世、4世の人々が流暢に謡うクドキの数々、その中に込められた思いが会場を埋め尽くす盆ダンスファンに通じているかどうかはわかりませんが、日本を遠く離れハワイの空の下で盆ダンスを楽しむ私のような日本出身者にとっては、心を直撃して余りあるものなのです。

YOHなど、沖縄系のクラブはエイサーを披露します。太鼓をたたきながら指笛を吹き鳴らしつつ勇壮に舞い踊るエイサーの数々は、オキナワンの若者たちにとても人気があります。鮮やかでキリリと格好良い衣装も人気の理由のひとつでしょう。ハワイには沖縄系の人口が多く、盆ダンスのときには、沖縄伝統の獅子舞も登場します。また、盆ダンス会場ではアンダギー(沖縄のドーナツ、サーターアンダーギー)も配られることが多く、ハワイの地域社会のなかに大きく影響を与えている沖縄文化の片鱗を見ることができます。

ハワイの盆ダンス会場には、熱心なファンが多数詰め掛けてきます。年配者や子どもだけではありません。また日系の人々だけでもありません。老若男女、民族背景を問わず、多数の人々がハッピーコートや浴衣に身を包み、軽やかに舞い踊ります。各盆ダンスクラブの振り付けを完璧に覚え、華麗に踊る人々を見ていると、私たち日本人が失いつつある盆ダンス本来の意味、「先祖を供養する」ということが強く意識されるようです。ぜひ一度、ハワイの盆ダンスに参加してみませんか?

(2014年3月更新)

(2014年3月14日「Myハワイ」より転載)

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