「自分の理想」がまだ見つかっていない人にすすめたい、文学者・小林秀雄の言葉

《本屋さんの「推し本」 未来屋書店・宮田直樹の場合》

「本との出会いは運命だ。今買わなきゃ、その本を読むことは一生ないかもしれない。」

書店で働いていると、

「あれ、これ面白そうだな」と一冊の本が光輝いて見えることがある。

『学生との対話 小林秀雄講義』(新潮文庫)

本書との出会いは、まさにそれだった。

小林秀雄は昭和36年から52年にかけて、雲仙、阿蘇など九州各地で5回に渡り全国から集った学生たちに講義を行った。講義終了後には1時間ほど学生たちと熱い質疑応答を交わしたという。この本は、この伝説的な講義と質疑応答を収録した。小林の優しく熱いまなざしが印象的な一冊だ。
小林秀雄は昭和36年から52年にかけて、雲仙、阿蘇など九州各地で5回に渡り全国から集った学生たちに講義を行った。講義終了後には1時間ほど学生たちと熱い質疑応答を交わしたという。この本は、この伝説的な講義と質疑応答を収録した。小林の優しく熱いまなざしが印象的な一冊だ。

小林秀雄との出会いは、書店員になりたての頃に買った、小林秀雄と岡潔の対談集『人間の建設』(新潮文庫)だったが、これは30ページも読まずに何処かへいってしまった。

『学生との対話 小林秀雄講義』は、小林秀雄が学生や青年と交わした対話の記録だ。

主なトピックは、文学の雑感、ベルグソン哲学、本居宣長。

小林秀雄の哲学はベルグソン、本居宣長の哲学が影響しているが、読みこんでいくうちに私もかなり影響されてしまった。

私はこの本で理想のありかたについて考えさせられた。

今の若者たちは、やりたいことが見つからない人、つまり理想を持っていない人が少なくない。

「君の理想はこれだ!」と教えてくれる人なんていないし、そもそも理想なんて人から教えてもらうようなものではない。

本書を読んでもそれはわからないかもしれない。

わからないのだけれど、わからないこそ人生は面白いのだと思う。

私の理想は、一人でも多くの人に、人生を変える本と出会ってもらうためのきっかけをつくることだ。

この理想は書店で働きはじめたときから抱いていたものではなく、多くの人と接していくうちに、自然と火が灯っていったのだ。

この世界には、面白い本がたくさんある。

しかし、人生を変える本に出会えることはあまりない。

本との出会いは運命なのだ。

いつ出会うか、何に出会うか。

そのきっかけをつくることが、私の理想なのだ。

本書を、自分の理想というものをまだ持っていない人に勧めたい。

君の理想に火をつけるのは、君だから。

連載コラム:本屋さんの「推し本」

本屋さんが好き。

便利なネット書店もいいけれど、本がズラリと並ぶ、あの空間が大好き。

そんな人のために、本好きによる、本好きのための、連載をはじめました。

誰よりも本を熟知している本屋さんが、こっそり胸の内に温めている「コレ!」という一冊を紹介してもらう連載です。

あなたも「#推し本」「#推し本を言いたい」でオススメの本を教えてください。

推し本を紹介するコラムもお待ちしています!宛先:book@huffingtonpost.jp

今週紹介した本

小林秀雄『学生との対話 小林秀雄講義』(新潮文庫)

今週の「本屋さん」

宮田直樹(みやた・なおき)さん/未来屋書店レイクタウン店(埼玉県越谷市)

どんな本屋さん?

未来屋書店イオンレイクタウン店は、国内最大級のショッピングモール、越谷レイクタウンの専門店街にある本屋さんです。広い店内と見やすいレイアウトで、いつも老若男女のお客さまで賑わっています。見どころは、今回原稿を寄せてくれた新書文庫担当・宮田さんの、思い切った仕掛けの数々。その時々で、おすすめの商品が多面展開されていて、きっと何か面白い本に出会うことができます。

未来屋書店
未来屋書店

(企画協力:ディスカヴァー・トゥエンティワン 編集:ハフポスト日本版)

注目記事