難民流入はいつまで続くのだろうか

9月12日、一万人を超す大量の難民が到着したミュンヘンでは難民の宿泊する施設の手配がつかず、とうとう複数の難民が中央駅の床にマットをしいて野宿することになった。一体、このまま難民の流入が止まらなければどうなるのだろうか。

ミュンヘン中央駅に到着し、うれしそうに手を振る難民の子供(筆者撮影)

終わらない難民流入

「ユーロ危機では銀行救済のためにすばやく動きました。難民救済でも迅速に動けたことを誇りに思います」メルケル首相は増え続ける難民を受け入れることに関してこう述べた。

難民対応のための予算を60 億ユーロ(8400億円・1ユーロ=140円換算)増額することを決めた連邦政府の対応は迅速だった。しかも増税なしで充分に対処できるとされている。経済が好調であるからこそできることかもしれないが、それだけではない。

ミュンヘン中央駅では警備が強化されている

9月12日、一万人を超す大量の難民が到着したミュンヘンでは難民の宿泊する施設の手配がつかず、とうとう複数の難民が中央駅の床にマットをしいて野宿することになった。

「ミュンヘン中央駅のわき道に800人分の寝袋、毛布、マットを寄付してください!羽根布団は不可」というメッセージを友人がソーシャル・メデイアに書き込んでいることに気がついたのは土曜の深夜。瞬く間にマット類が集まった。

普段からドイツ人のボランティア精神には目をみはるものがある。先々週は友人があるボランティア団体で難民のために寄付された品々の分類をするボランティアをするというので筆者も手をあげようとした。旅行中であったため、自宅に帰ってから申し込もうと思い、二日後にサイトをみると、ボランティアの定員がとっくに埋まっていた。ちなみにそのボランティア団体のホームページには「寄付は一時的に受けられません!」という「寄付ストップ」のお願いが表示されていた。というのは、大量に寄付されたものを保管する場所がなくなったということだった。

大量の寄付の山を片づけるボランティアたち

全国数十万人ともいわれるボランティアの助力がなければ難民の対応はさらに混乱をきたしていただろう。しかし、ミュンヘン市長は「もう限界だ。ハンガリーやオーストリアからの電車がすべてミュンヘンに到着していては対応しきれない。ミュンヘンを通過して、難民を直接、別の州へのふりわけることを検討してほしい」と述べた。この日にミュンヘンに到着した難民の数は1万3千人と、難民の流入が始まって以来、1日の到着者の数では最高となった。

雲行きが変わってきた難民受け入れ態勢

「メルケル首相が難民たちに招待状を送ったようなものだ」と、先週、ミュンヘン郊外で行われたCSU(キリスト教社会同盟)の難民に関する座談会で前に座っていた女性が口角泡を飛ばしながらいきまいた。

事実、メルケル首相が難民支援を強化すると発表して以来、難民たちが目指す国は主にドイツとスエーデンとなり、危険を伴う南からの海のルートは激減し、東からの陸ルートを選ぶ難民が急増している。

今年、ドイツを目指す難民の数は80万人といわれているが、このまま増え続けると、100万人になるかもしれないと予想が上方修正された。とめどなく来る難民のために、与党の姉妹党であるCSU関係者は、上限をもうけ、一時的に不適用となっているダブリン協定(第三国を経由してくる場合、ドイツでの難民申請はできないという協定)を再び導入すべきであるとしている。中には、問題の根本となっている難民を不法に移動させている人間運搬業者、そしてシリアに対しても軍事的措置に踏み切るべきであるという意見もある。

一体、このまま難民の流入が止まらなければどうなるのだろうか。

ジグマー・ガブリエル副首相(SPD、社会民主党)は、「増税なしにあと50万人の難民を受け入れることが出来る」としながらも、「来年もこのような数の難民を受け入れることは不可能だ」と述べた。強まる市民の不安の声に、メルケル首相も「ドイツ社会にとけこまない難民は国外退去となります」と言わざるを得ない。

そうはいっても、歯止めが利かない難民の受け入れについては「人間としての尊厳を保ち、厚くもてなすこと」という呼びかけに、今のところ市民たちは驚くほど団結している。ただし、難民受け入れに対して反論している州もあり、難民施設への襲撃は、今年1月から7月だけでも200件以上みられた。難民受け入れ人数は、州ごとの税収と人口密度で決められているが、難民が最も少ない州のひとつ、ザクセン州では地元市民の激しい抵抗がみられる。

寄付されたものの中から品定めのために難民たちに与えられている時間は15分

先が見えない難民流入の数

二週間前から難民の電車が到着するミュンヘン中央駅の北側は封鎖され、テントなどが張られていたが、この週末から、外から見えていた到着場所は幕が張られ、一般市民に見えなくなった。週末にネオ・ナチが集まるといううわさもあったが、一週間後に始まるドイツ最大のビール祭、オクトーバー・フェスト気分も高まり、警察は警備を強化している。警察は至急、3千人の警官を新たに募集。オクトーバー・フェストでは、600万人に訪問客が予想され、ミュンヘンの人口がただでさえ4倍になるというのに、これでは難民と酔漢の対応で、警察はてんてこまいとなりそうだ。

二週間前からミュンヘン中央駅の北側は難民たちのために封鎖されている

今週から、難民たちが到着しても見えないように幕が張られた

ともかく、難民たちはミュンヘン中央駅に到着すると、とりあえず水などの飲み物と簡単な食料品を与えられ、バスにて周辺の臨時宿泊所に向う。見本市会場、体育館、各種の大ホールなど。ちょうどパン職人の見本市があった会場では、新鮮なパンが無料で配られ、難民たちはさぞ喜んだことだろう。

駅についた難民たちには確かに安堵の表情がみられる。しかし、今後、どのような運命が待ち受けているのだろうか。

難民が最初に収容されるミュンヘンの北部、旧バイエルン兵舎を訪れてみた。広大な土地には、1936年に建設されたナチス時代からの兵舎も並び、予算縮小のため連邦軍が撤退してから2年ほど前から難民収容施設となっている。

バイエルン兵舎へ近づくにつれ、住宅地はなくなり、ゴミ箱をあさる人、野宿している人などを通りすぎ、雰囲気が変わってくる。身分証明書を提出して中に入ると、別の場所に移動するのか、トランクを転がして忙しそうに歩く人、とりあえずなにもすることがないのか、ベンチに座ってたむろする人々がみかけられる。

実は、ドイツに来る難民は、シリア人が多数ではない。国別にはシリアに次いでアフガニスタン、イラク、エリトリアなどだが、ニュルンベルクのドイツ連邦移住難民局(BAMF)によれば、コソボやアルバニアなどのバルカン半島六カ国のからの難民が46%を占めている。彼らは紛争や戦争によって生命の危険が認められない「経済難民」である。彼らの多くが自国で1日1ユーロ20セント(約162円)ほどの生活費しかなく、一ヶ月の月給にも相当するほどのお小遣いをめあてに、自国にいても50%から70%という高失業率のためにドイツにやってくる。現在、ドイツは難民の審査に一人あたり5ヶ月近くを費やしているため、5ヶ月、ドイツに滞在しているだけでも待遇が良いというわけだ。また、ドイツは難民を簡単に国外退去にできない。たとえ国外退去となっても再び来るということで、中には国外退去を4回経験しても、ドイツにやってきたという例もあるという。

つまり、大量難民の流入で便乗してくる「経済難民」をどうやって分類するべきか、難民への現金支給を減らし、コソボ難民を強制送還し、さし迫った生命への危険がある紛争地帯からの難民を優先することなど、難民を受け入れる側の課題は山積している。難民審査の期間を早めることも早急に求められる。ドイツ連邦移住難民局では現在、550人がこれまでの27万件の亡命申請を審査中でてんてこまいの状態であるという。あらたに採用された617人の職業訓練には少なくとも2ヶ月が必要で、さらに千人の人員募集をしている。

今後も当分、難民問題は続きそうだ。保守党のある党員は、「ISが仕組んだ人間による"襲撃"かもしれない」と、難民を送り込んでいる人間輸送の組織がISに関与している可能性さえ示唆している。ヨーロッパでテロをもくろむ「スリーパー」がまぎれこんでいるかもしれない。

本稿を書いているあいだにも「応急措置」が発表された。バイエルン州に大量に入ってくる難民の流入を止めるため、ミュンヘンヘ向うオーストリアからの電車が日曜日(9月13日)の午後5時から、止められた。

今週からミュンヘンのバイエルン州では、新しい学期が始まる。学齢期に達している難民の子供たち、10万6千人をどう学校にふりわけるのか、ドイツ語の特別授業のための教師も大量募集されている。難民の7割以上が30歳以下というが、エンジニア、手工業、介護職などの分野では慢性人手不足が指摘されるドイツで、将来の労働力を育てるためにも難民を今からドイツ社会へ統合すべき努力が必要だ。

時間が経つにつれてメルケル首相への風あたりは強まるかもしれない

(写真はすべて筆者撮影)

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