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2018年07月05日 04時18分 JST | 更新 2018年07月05日 14時04分 JST

BBCドキュメンタリー「日本の秘められた恥」で世界に晒された日本社会の構造的な恥

変えるも変えないも、私たち一人一人の日々の行動と選択にかかっています。

6月28日イギリス時間21時から「日本の秘められた恥」というドキュメンタリー番組がBBC Twoで放映されました。丁度ワールドカップの予選試合でイングランドが負けた直後からの放映だったので、「お口直し」として何となくチャンネルを回して見たイギリス人もいたようです。放送が終わり次第、地元の友人だけでなく地球の裏側からも私のところにコメントが飛んで来ました。 

「日本の現状はこんなにヒドイのか!?」、「今まで先進国だと思っていたけど、日本女性がこんなに虐げられているなんて驚愕だ!」、「日本の性犯罪対策がここまでなってないって本当なのか?!」などが代表的な反応でした。世界における反応の一部は、Twitterで#JapansSecretShameというハッシュタグを辿っていくと見ることもできます。

イギリス人の友人からの反応は、この番組のきっかけとなった伊藤詩織氏に関する個別事件についてではなく、日本における性犯罪対策や女性蔑視に関してがほとんどでした。また当該個別事件の刑事訴訟については一定の司法的判断が下り、現在は民事訴訟が係属中との理解ですので、このブログは(個別事件についてではなく)日本における性犯罪対策政策と女性蔑視の一般的問題に絞って議論したいと思います。

番組内では、

・日本の警察官のうち女性は8%

・日本でレイプ被害を訴えると、通常は複数の男性警官の前で等身大の人形を使ってレイプを再現させられる

・日本の半数程度しか人口がいない英国で、政府が性犯罪被害者対策にかける国家予算は日本の40倍

・日本ではまだ性犯罪被害者支援センターが各都道府県に1カ所以上設置されていないが、世界基準で言えば最低でも全国に635カ所あるべき

・昨年まで、強姦罪(現:強制性交等罪)は、強盗罪よりも軽い刑となる可能性があった

など、日本における性犯罪対策が極めて後進的であることを示す具体的なデータが紹介されました。最後の点など、まるで日本では女性の尊厳はモノよりも軽視されているかのようです。

在英邦人の私としては「何とか日本を擁護したい」との立場から、何か間違いや誇張、誤訳などが無いか番組を集中して見ていたのですが、残念ながら番組内で紹介された上記のデータや友人達からの反応に対して、有効的に反証できるだけの客観的なデータとエビデンスが私には一切ありませんでした。

残念なことに、日本における男尊女卑・女性蔑視の酷さは、ネットで簡単に検索できる国際的データにも如実に現れてしまっています。例えば世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダーギャップ報告書」2017年で、144ヵ国中日本は114位という例年通り低いランキングで、(韓国を除けば)日本より下位にはいわゆる途上国かイスラム教国しかありません。とりわけ日本の女性の政治参加は、先進国としてはあり得ないほど低い世界123位。時々これらの指標や方法論を批判する意見を目にしますが、それらに代替する枠組みとして世界各国が納得できる指標や方法論を提示できないのであれば、単なる「負け犬の遠吠え」でしかありません。

このような客観的なデータとエビデンスがある限り、BBCドキュメンタリーを見て驚愕した世界各地の視聴者も「あらあら、こんなデータがあるんじゃね、さもありなん」と益々納得して終わってしまうだけです。逆に読者の方々の中で、(基礎教育レベルでの就学率・識字率と平均余命以外の分野で)日本が男女平等の面で国際的に比較して秀でているというデータやエビデンスをご存知の方は、出典と指標と方法論を併せてぜひコメント欄で教えて頂けませんか?日本の名誉挽回を目指して、世界に向けて英語で発信させて頂きたいです!

実を言うと、これらの一般的なデータや事実だけでなく、私自身が日本で又は日本人男性から受けてきた経験に基づいても、番組の内容に有効的に反論する材料が全くありませんでした。

私は22歳まで日本の私立の女子校で教育を受けましたが、ロリコン男性が好むような「カワイイ」制服だったことと、片道1時間半以上かけて満員電車で通学していたので、ほぼ毎日ずっと痴漢行為を受けていました。あまりに日常的に起きるので、満員電車に乗る際には大きめの安全ピンを手に用意することが当たり前になり、電車のどの位置に立ってカバンをどういう風に持つと痴漢されにくいのかをマスターしてしまうほどでした。

大人になった今、特に国際社会の常識を踏まえて振り返ってみれば、そのようなサバイバル術の習得を少女に強いる日本社会は完全に異常としか言いようがありません。

社会人になってからも、日本人の男性先輩職員から仕事関連を口実あるいは脅迫に近い形で性的に迫られたことも幾度としてあります。このブログを読んで下さっている女性のほとんどが少なくとも一度はこのような経験をしたことがあるはずですが、これらの痴漢行為や性的脅迫について、報復への恐怖や世間体から今まで黙っていた私自身についても、番組を見て反省させられました。

日本語では殆ど目にしませんが、英語では「不正義が行われいる時に黙っていたり中立を保とうとするのは、不正義に加担しているのと同罪」という名言がよく引用されます。 

「沈黙は金」ではなく「沈黙は悪」なのです。

その一方で、極めて残念ながら完全に間違った方法、日本の国際的評判を更に貶めるような方向で「沈黙を破っている」人達がいます。

番組内でとりわけ印象に残ったのが杉田水脈議員の発言です。まだ司法府において民事訴訟係属中の個別案件の原告について、立法府の議員が公共の場で具体的かつ否定的なコメントを述べたばかりでなく、何ら国際比較指標に基づかないまま「日本の警察は世界で一番優秀です!」と主張する様子は、一言一句、番組制作側の思う壺、完全なオウンゴールでした。杉田議員によれば「発言が部分的に切り取られた」そうですが、この手のドキュメンタリー番組で制作側がインタビュー中の発言を全て流さないのはいわば当然。(私自身もメディアには度々インタビューを受けていますが)杉田議員ご自身のロジックに則れば、発言のどこの部分を切り取られても問題ないように発言するのが「公人としてスキルの一つ」でしょう。

せっかく日本における非常に数少ない女性国会議員が世界トップレベルのメディアに登場し、日本の性犯罪対策や男女平等政策の素晴らしさについて世界に向けて宣伝する絶好の機会だったのに、全く逆の効果しかもたらせなかったのは、「日本の国益の推進」という観点から私自身非常に悔しく感じました。

更に墓穴を掘っているのが、番組放映後の一部の反応です。上で紹介した#JapansSecretShameというハッシュタグやBBC Japanのtwitterアカウントにぶら下がっているコメント欄を見ると明らかなのですが、このドキュメンタリーを紹介するツイート、それを支持するツイートに対して、一部の日本人とみられるアカウントから「フェイクニュースだ!」とか「日本に対する侮辱だ」とか「名誉棄損で訴える!」とか、番組制作者を個人的に攻撃するような感情的で非論理的な反応が多数送られているのです。

このBBCドキュメンタリーに対する唯一の有効な反論は、番組内で紹介された日本の性被害犯罪対策や男女平等が立ち遅れていることを示すデータが間違っていること、あるいはそれが急激に改善されていることを証明する数値とエビデンスを示すことです。感情的な反応は「あらあら、こんな酷いコメントがあるんじゃね、さもありなん」と、かえってBBC番組制作側の意図するドツボにはまっていくだけ。もっと言えば、そのような反応をしている人自身が知性も教養も品位もないということを自己証明するだけです。

日本にとって「恥の上塗り」でしかありません。

今回のBBCドキュメンタリーは、日本の性犯罪対策が著しく立ち遅れていることだけでなく、もっと根本的で構造的な「日本の恥」を鋭く指摘し暴露したように思います。

日本のジャーナリストには、このような筋骨あるドキュメンタリーを作る能力も気力も無いのでしょうか?

日本は「ガイアツ」が無いと自律的には何も変われないのでしょうか?

日本人男性は、女性に対する蔑視・差別・抑圧の上に胡坐をかき続けないと自分達の立場を守れないのでしょうか?

日本社会は、強者におもねり、弱者を虐げることが当たり前なのでしょうか?

日本はいつまでこのような構造的な恥を世界に晒し続けるのでしょう?

変えるも変えないも、私たち一人一人の日々の行動と選択にかかっています。