「世界難民の日」によせて

世界難民の日に合わせて発行された「世界における強制移住の傾向2016年版」を読み解きます。

6月20日は「世界難民の日」。これにあわせて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から「世界における強制移住の傾向2016年版」という報告書が発出されました。

この報告書は、世界の難民・避難民問題に関して私が毎年最も注目している報告書の一つですので、気付いたことをいくつか共有してみたいと思います。

1.世界における「強制移住者」の大多数は難民ではなく国内避難民

2016年末における世界の「強制移住者」数は6560万人で、去年と比べて30万人増。また2016年中に新たに家を追われた人は1030万人。

その理由は、シリアだけでなくイラクやイエメン、また南スーダンなどのアフリカ諸国での国情によるもの。

UNHCRが言う「強制移住者」には、迫害や(深刻な)人権侵害のために国外に逃れた難民条約上の「難民」だけでなく、紛争や暴力を逃れた人、また現在「庇護申請中」で難民かどうかの判断を待っている人も含まれ、うち大多数は(国外に逃れた難民ではなく)国内で避難生活を送っている国内避難民(4030万人)。

UNHCR報告に含まれない国内避難民も多数いることにも要注意。

2.いわゆる「難民」の数は?

UNHCRの任務下にある難民が1720万人で、パレスチナ難民が530万人。このうち2016年中に新たに難民に「なった」人の数は140万人。

この増加率は過去3年間で最低だけれど、これは「良かった」ことなのか、あるいは難民が国外に逃れることがより難しくなっているだけなのか、注意しないといけない。

1720万人には「補完的保護」を受けている人も含まれていて、うち約65万人は「難民に似た状況にある人」なので、必ずしも難民条約上の「難民」ではない。

また難民の数には、例えばドイツやスウェーデンなどで政府によって難民認定された人の数も含まれるので、いわゆる「かわいそうな人」が140万人増えたというわけでもない。

また、UNHCR任務下の難民の84%は発展途上国がホストしているので、「難民がヨーロッパなどの先進国に怒涛の如く押し寄せている!」というのも単なる勘違い。

最も多数の難民を抱えている国は多い方から順に、トルコ、パキスタン、レバノン、イラン、ウガンダ、エチオピア、ヨルダン、ドイツ、コンゴ(民)、ケニア。

また、受け入れている難民の数が人口1000人に占める割合が最も高いのは上から順に、レバノン、ヨルダン、トルコ、チャド、スウェーデン、ウガンダ、南スーダン、ジブチ、マルタ、モーリタニア。

難民受け入れの状況を例えば対GDP比とかで見ても結果は常にほぼ同様で、圧倒的大多数の難民が発展途上国によって受け入れられている事実は不変。

いわゆる先進国の中で「難民受け入れ」の面で際立った貢献があるのはドイツとスウェーデン。

3.新規庇護申請者数は200万人

2016年末時点で庇護申請中(難民かどうかの判断を待っている)人の数は280万人で、前年より40万人減。新規庇護申請者数は200万人で、うち72万人以上がドイツで庇護申請をしたとのこと(2位はアメリカで26万人、3位はイタリアで12万人)。

世界で2016年の間に個別の庇護申請手続きを経て難民認定された人の数は564,400人。(ちなみに日本の法務省によると、2016年中に日本において新たに庇護を申請した人の数は10,901人で、同年に難民認定された人の数は28人)。

4.第三国定住できた難民は189,300人

途上国がホストしている難民のうち約19万人の難民を(主に)先進国が負担分担として受け入れ、うち約半数はアメリカが迎え入れた。

例年、この「第三国定住制度」を通じて受け入れられる難民の数は10万人前後なので、19万人というのは近年で明らかに最多、個人的には嬉しい数字です。

2016年の間に第三国定住制度で難民を受け入れた国は日本を含め37カ国。

ただし少し気になるのが、世界的に見て最も長期に避難状態にあるわけではないシリア難民が第三国定住対象難民として「人気」があること。そこには受け入れ側の思惑が透けて見える。

5.長期化難民の悪化

2016年末現在で、5年以上継続して(解決策の見えない)避難生活状態にある人々は1160万人、うち410万人は20年以上も避難状態にある。

これは特に難民を多く抱えている途上国の経済発展にとっては重荷。と同時に、どこにも帰属しない形で多くの人々が長年宙ぶらりんでいるのは、人材としてもったいないし、希望や目標が持てない若者が長期に避難状態にいると、テロ組織とかの格好の餌食になりかねない。

世界の平和と安全保障につながる問題。

6.日本は・・・

この報告書には最後に国別統計資料が付いていて、日本の欄を見ると、日本で庇護申請中の人の数が18,801人、UNHCR任務下で「無国籍状態になっている」人の数が626人、また日本を出身国として海外で庇護申請中の人が81人、日本を逃れて難民となっている人の数が59人となっている。大変興味深い。

こうしてまとめてしまうと、あたかも難民が「数」や「統計」の問題のように見えるかもしれませんが、報告書には多くの写真やプチエピソードがちりばめられています。

英語に抵抗のない方はぜひ原文にあたってみてください。

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