楽しく快い記憶を思い出すことで、うつ病の症状を軽減できないだろうか。
利根川進(理研-MIT神経回路遺伝学研究センター)たちは今回、マウスで快・中立・不快の体験とそれぞれ関連する特定の海馬記憶エングラム(記憶痕跡)を光遺伝学的に標識することにより、この疑問に取り組んだ。これらの記憶は、形成後に対応するエングラムに光を当てることで人為的に想起させることができた。快記憶エングラムを短時間活性化すると、慢性的なストレスにさらされたマウスのうつ様行動が抑制され、この効果は海馬-扁桃体-側坐核経路を介することが分かった。重要なことに、快記憶エングラムを慢性的に再活性化すると、ストレスを受けたマウスでのうつ様行動の抑制は、再活性化が終わっても続いた。このことは、快記憶の抗うつ効果が、エングラムのリアルタイムでの人為的活性化に依存しないことを示している。著者たちは、海馬歯状回の快記憶に関連するエングラム細胞群の直接的な活性化が、うつ病関連行動の一部を軽減する治療法となる可能性があると示唆している。ただし、今回の知見をどのようにヒトに適用できるかは現時点では明らかでない。
マウス海馬の断面図。赤色に光っている部分が快記憶に関連する細胞群。
Credit: Steve Ramirez
Nature 522, 7556
2015年6月18日
原文: Activating positive memory engrams suppresses depression-like behaviour doi: 10.1038/nature14514
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