74の分類群に属する多様な恐竜について、骨の解剖学的特徴を細かく調べた研究から、主要な系統群の間に新たな類縁関係が浮かび上がった。恐竜の分類に関する長年の定説を根本から覆す今回の新説で、「教科書の書き換え」が必要になるかもしれない。
今回の研究で姉妹群である可能性が示された、獣脚類のティラノサウルス・レックス(右)と鳥盤類のトリケラトプス(左)。
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『恐竜は、骨盤が鳥類に似た「鳥盤類」と骨盤が爬虫類に似た「竜盤類」の2群に分類される』。この、130年間にわたって広く認められてきた分類法が、もはや意味をなさなくなる可能性が出てきた。見慣れた恐竜の進化系統樹を根本から書き換えるような新説が、Nature 2017年3月23日号501ページで発表されたのである(参考文献1)。
この論文では、現在の系統樹に対する数々の修正が提案されているが、中でも特に大きな変更は、これまでの枠組みでは同じ「竜盤類」に分類されていた、「竜脚類(ブラキオサウルスなどの巨大種に代表される長い首と尾を持つ植物食恐竜)」と「獣脚類(ティラノサウルス・レックスなどの二足歩行をする肉食恐竜)」が、類縁関係が遠く離れた別々の分類群へと割り振られたことだろう。
「これは教科書の書き換えにつながる成果です。この説が広く認められるようになれば、の話ですが」。そう称賛するのは、メリーランド大学カレッジパーク校(米国)の古脊椎動物学者Thomas Holtzだ。「1つの研究チームによる分析結果にすぎませんが、徹底した分析で、評価に値します」。
今回の研究を率いたケンブリッジ大学(英国)の古脊椎動物学者Matthew Baronによると、この研究では、系統樹全体にまたがる多様な恐竜74種の類縁関係を、450を超す解剖学的特徴を比較して類似性や相違点を調べることで評価したという。
分類の見直し
今回の研究で分析された種の多くは、約1億8000万年間にわたって続いた恐竜時代の最初の1億年間に存在していたものだ。既知の最古の恐竜は、約2億4300万年前の化石から明らかになっており、その後長く繁栄を遂げた恐竜は、約6600万年前に小惑星が現在のメキシコ・ユカタン半島の北の海域に衝突したことで、そのほとんどの種が他の多くの生物とともに絶滅した。この大量絶滅事象の後に、恐竜の子孫として残ったのが鳥類である。
Baronらが提案する新たな恐竜系統樹では、これまで竜盤類の枝の一部を構成していた獣脚類系統が、ステゴサウルスやトリケラトプスなどの鳥盤類恐竜全てを含む枝へ、丸ごと「接ぎ木」されている。
分析の結果、これら2つの主要分類群を構成する種には、上顎の特徴的な隆起から足根骨の一部と中足骨との融合まで、全身にわたり21もの共通する解剖学的特徴(共有派生形質)が見られることが明らかになったのだ。こうして新たに姉妹群である可能性が示された獣脚類と鳥盤類には、これら2群をまとめた名称として「Ornithoscelida」が当てられた。
ギリシャ語で「鳥の後肢」を意味するこの名称は、1870年に英国の生物学者トーマス・ハクスリーによって鳥類様の後肢を有する全ての恐竜を含む分類群名として提案されながら、その後支持が得られず使われていなかったもので、今回のBaronらの提案によって復活を遂げることになるかもしれない。
今回の研究の注目すべき成果は、それだけではない。Baronらの新たな分類の枠組みで描かれた系統樹では、根の近くに位置する恐竜やそれらに近縁な恐竜形類の多くが北半球で発見されていることから、最初の恐竜がローラシア大陸(超大陸パンゲアの北半分;現在のユーラシアおよび北米)で出現した可能性が示唆されたのである。
これは、恐竜の初期進化がゴンドワナ大陸(パンゲアの南半分;現在のアフリカおよび南米など)で起こったとする、数十年にわたり支持されてきた説とはまさに対照的だ。また、恐竜が出現した年代も、これまでの推測よりわずかに古い約2億4700万年前であると示唆された。
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恐竜の進化系統樹
a 従来の系統樹では、恐竜は骨盤の形状に基づいて「鳥盤類(ステゴサウルスやトリケラトプスなど)」と「竜盤類」の2群に分類されており、竜盤類はさらに「竜脚類(ブラキオサウルスなど)」と「獣脚類(ティラノサウルス・レックスなど)」に分けられていた。
b 今回Baronら(参考文献1)によって提唱された新たな系統樹では、これまで位置付けが定まっていなかったヘレラサウルス類と竜脚類で1つの枝が形成され(これを「竜盤類」として再定義している)、獣脚類と鳥盤類からなる新たな枝には「Ornithoscelida」という分類群名が当てられている。
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挑発的な再評価
論文と同時に掲載された解説記事「News & Views」2の中で、カリフォルニア大学バークレー校(米国)の古脊椎動物学者Kevin Padianは、Baronらの今回の研究を「恐竜の起源と類縁関係に関する独創的で挑発的な再評価」と表現している。
彼はまた、Baronらが用いた手法は、独自の新たなものではなく、共有派生形質を手掛かりに系統関係を調べるという分岐分類学の標準的な解析方法であるため、その結果を異見や単なる憶測として簡単に切り捨てることはできないと指摘する。これまでと異なる結果が導き出されたのは、従来の研究では分析されたことのない分類群の恐竜を含めたり、取り上げられたことのない形質についても考慮されたからなのだ。
こうした状況を受け、Padianは「研究者たちは、原点に立ち戻って考え直す必要があるでしょう」と語る。
スミソニアン国立自然史博物館(米国ワシントンD.C.)の古脊椎動物学者Hans-Dieter Suesは、今回の研究が議論を巻き起こすことになるだろうと予想する。「だからといって、恐竜の系統樹を直ちに書き換えるべきではないでしょう」と彼は続ける。古生物学者が行う系統分類学の解析の結果は、どの種を検討の対象にするか、そしてどの解剖学的特徴をどのように分析に盛り込むかに大きく左右されるからだ。
今後、新種の恐竜や既知の恐竜のより完全な標本が発見された際に、それらを含めた分析の結果、現在受け入れられている系統樹に近いものへと押し戻される可能性もある、とSuesは指摘する。近年、南米では新たな恐竜の化石が相次いで発見されている。また、Suesによれば、南米では恐竜時代の最初期に相当する地層が徹底的に調べられているが、この時代に対応する北米の堆積層では、まだそれほど調査が進んでいないという。
「世界には、まだまだ我々の知らない化石記録がたくさん眠っているのです」とSuesは語る。
Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170502
原文:Nature (2017-03-22) | doi: 10.1038/nature.2017.21681 | Dinosaur family tree poised for colossal shake-up
Sid Perkins
参考文献
- Baron, M. G., Norman, D. B. & Barrett, P. M. Nature543, 501-506 (2017).
- Padian, K. Nature543, 494-495 (2017).
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