日本の原発、再稼働

福島第一原発事故を受けて全ての原発が停止していた日本で、初めて川内原発が再稼働した。

福島第一原発事故を受けて全ての原発が停止していた日本で、初めて川内原発が再稼働した。原子力発電を再開して火力発電への依存度を下げれば二酸化炭素の排出量は抑えられるが、気候変動を食い止められるほどの削減量ではない。

2011年5月に定期点検に入ってから4年以上停止していた九州電力川内原子力発電所(鹿児島県)1号機が、8月11日に再稼働した。2011年3月の東京電力福島第一原発事故を受け、安全面への不安から日本国内の原発が順次停止し、2013年9月に全ての原発が停止して以来初の再稼働である。

再稼働前に重大事故を想定した訓練を行う川内原発の職員。川内原発の再稼働により、2年にわたる日本の原発ゼロ状態は終了した。

ASAHI SHIMBU/GETTY

原発の再稼働は、世界3位の経済大国である日本が二酸化炭素の排出量を削減するのに役立つだろう。けれどもアナリストたちは、「産業革命前と比べて世界の気温上昇を2℃未満に抑える」ことを達成するためには、原発再稼働を含む日本政府のエネルギー政策は十分な貢献にならないと考えている。

日本政府は、基本的には石炭火力と原子力を主力とする福島第一原発事故以前の電源構成(エネルギーミックス)に戻すことを計画している。太陽光発電については、従来に比べてその割合を大幅に増やそうとしているものの、総発電電力量に占める割合はまだまだ小さい。NPO法人 環境エネルギー政策研究所(東京都中野区)所長の飯田哲也は、「政府と重工業界の考え方は変わっていません。これからも原子力発電と石炭火力発電を続けていきたいのです」と説明する。

2011年に原発事故が発生するまで、日本は電力の半分を原子力発電で賄うことを目標としていた。しかし、福島第一原発でメルトダウンが発生すると、当時政権を握っていた民主党の野田内閣(2011年9月2日〜2012年12月26日)は原子力発電から決別し(Nature486,15; 2012)、不足する電力を再生可能エネルギーと化石燃料で補おうとした。

これに対して、2012年に政権を奪回して今日に至る自民党の安倍内閣は、日本の電源構成に原子力発電を再び盛り込み、できるだけ多くの原子炉を再稼働させようと計画している(Nature507,16-17; 2014)。2015年末にパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)を前に、日本政府は2015年7月に温室効果ガス削減に関する約束草案を国連に提出した。約束草案には、2030年までに日本の電力需要の20~22%程度を原子力発電で賄うという目標が明記されている。再生可能エネルギーの割合は22~24%で、水力発電と太陽光発電がその大半を占めることになる。

日本国内の原発が停止している間、電力会社は石炭、石油、そして何より液化天然ガス(LNG)により不足分の電力を補っていたため、二酸化炭素排出量は以前に比べて増加していた。今回の約束草案が実現すれば、二酸化炭素排出量を減らすことができるが、2030年になってもまだ日本の総発電電力量の半分以上が化石燃料で賄われることになる。原子力と再生可能エネルギーの活用により二酸化炭素排出量を抑制できるといっても、全体の排出量は1990年の水準から18%しか減らすことができない。これに対して欧州連合(EU)は、1990年の水準から40%も削減するという約束草案を提出している。国立環境研究所地球環境研究センター(茨城県つくば市)気候変動リスク評価研究室・室長の江守正多は、「日本政府は、気候変動の抑制という目標の重要性を十分に理解した上で、それを可能にするような約束草案を策定しようとしたのですが、電力コストを下げるなどの産業界・経済界の判断基準が優先されてしまったのです」と言い、2030年の排出量削減目標は「気候変動を食い止めるにはまったく不十分だと思います」と批判する。

日本政府が考える風力発電の役割は非常に小さく、今回の約束草案でも2030年の総発電電力量に占める割合はわずか1.7%である(ちなみにドイツでは、すでに総発電電力量の8~9%を風力発電が占めている)。飯田によると、日本のエネルギー産業には風力発電に対する「不合理な偏見」が深く根付いているという。

さらに、日本のエネルギー市場は事実上の地域独占状態にあるため、すでに確立している原子力発電や化石燃料発電に有利で、風力発電には不利になっている。自然エネルギー財団(東京)の代表理事・理事長を務めるTomas Kåbergerはその理由について「一般電気事業者(いわゆる電力会社)が送電網と発電所の両方を支配しているからです」と説明する。新エネルギー市場の民間調査会社であるブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスの日本部長Ali Izadi-Najafabadiは、風力発電は電力会社の既存の発電所からシェアを奪う存在だが、電力会社は風力発電会社が送電網に接続するのを拒否することができる、と指摘する。そのような拒絶に当たり、電力会社は「技術的理由」を明らかにしなければならないが、「独立の送電網事業者がないため、彼らが主張する『技術的理由』が正当なものかどうかを判断するのは困難です」と彼は言う。

川内原発の再稼働に当たっては、規制当局の厳格な新基準に基づく安全審査を受けるだけでなく、再稼働差し止め仮処分申請につき司法判断も受けなければならなかった。2011年の原発事故を受けて日本政府は原発政策を徹底的に見直し、原子力インフラを再調査して、独立の原子力規制委員会を設立した。Izadi-Najafabadiは原子力規制委員会による審査基準の厳格化について、「電力会社に老朽化した原子炉を廃炉にする決断をさせ、実効性ある規制ができることを示した」と評価している。これに対して原発反対派は、原子力規制委員会による改革は地震や火山のリスクの評価や避難計画の面で不十分であり、委員会そのものも審査のスピードアップを求める政治的圧力に屈してしまったと批判する。

エネルギー問題のシンクタンクであるロッキーマウンテン研究所(米国コロラド州スノーマス)の共同設立者Amory Lovinsは、福島第一原発事故以降、原子力安全文化は進歩していると言う。「けれどもまだ、あらゆる点で透明性が不足しているのは困ったことです」。

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151109

原文: Nature (2015-08-13) | doi: 10.1038/524143a | Japan's nuclear revival won't lower carbon emissions enough

Davide Castelvecchi

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