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2018年05月02日 15時20分 JST | 更新 2018年05月02日 15時20分 JST

昔のメディアはどうだった? カメラマンが語るフィルム・デジタル過渡期の撮影事情

デジカメ全盛の今も残る、フィルムの良さとは?

カメラの進化により、誰でも簡単にきれいな写真が撮れる時代になりました。そのためウェブメディアを中心に、最近は編集者やライターが撮影まですべて手がけるケースも珍しくありません。しかし、フィルムカメラで撮影していた頃は、撮影はプロのカメラマンだけに任される仕事でした。現場の様子は、一体どのように変わったのでしょうか。

そこで今回は、フィルム時代をよく知るカメラマンの岡村智明さんと矢野寿明さんに、当時と今の違いやそれぞれの良さについて話を聞きました。

取材・文/友清 哲

編集/ノオト

仕事の手離れが良かったフィルム時代

主に情報誌や広告をフィールドに、人物やグルメなどの撮影を得意とする岡村さん。編集プロダクション、出版社勤務を経て、1999年からフリーランスのカメラマンに

「本格的にデジタル一眼レフカメラ(以下、デジカメ)を使い始めたのは、2000年前後だったと記憶しています。当時よく仕事をもらっていた出版社が、全面的にデジタルに切り替えたのをきっかけに、僕も機材をそろえました。カメラを買い替えたりパソコン環境を整えたり、何かと物入りで大変だったのを覚えています」

そう振り返るのは、フリーカメラマンの岡村智明さん。もともとは編集者として働いていたものの、写真好きが高じて1999年にカメラマンに転向。現在は、情報誌や広告を中心に活躍しています。

「フィルムで撮影していた頃と今を比べると、カメラを設定してシャッターを押すのは同じでも、その後の作業内容がだいぶ変わりました。例えば、以前は現場での撮影が済めばその日の仕事は終わりでしたが、現在はデータのバックアップを取ったり、写真のレタッチをしたりと、撮影後の仕事が増えています。逆に、ネットを介して写真を納品できるようになり、あがったフィルムを編集部まで持っていく必要がなくなったのは、デジタルの利点ですね」

当時使っていたという中判カメラ用の120フィルム

ポラロイドカメラがプレビュー代わり

その場で画像を見られる今と違い、フィルムカメラの時代は撮影を終えたフィルムを現像所に持っていく必要がありました。フィルムは現像されると、サムネイル状に写し出された状態であがってきます。

「フィルムがあがってきたらライトボックスに乗せ、ルーペを使って細部のピントをチェックします。当時はその場で仕上がりが確認できないので、同じカットでも露出設定をプラスやマイナスに段階的に変えて、何枚も撮るのが当たり前でした。そしてフィルムに文字が書けるマーカーを使って、適正なカットに印を入れるところまでが1セットの作業です」

デジカメの場合は、ピントの甘いものや露出が適正でないものは削除して納品しますが、フィルム時代はすべてのカットがひとつづりなので、プロの目である程度のセレクトをして納品するわけです。

現像するまで写真が見られないのは、デジタル時代との大きな違い。本当に狙った通りのカットが撮れているのか、「特に駆け出しの頃は、気が気ではなかったですね」と岡村さんは語ります。

「当時は、実際に撮影をする前に、ポラロイドカメラで試し撮りをするのが一般的でした。その場で見られるポラロイド写真で、露出のめどをつけるためです。ちなみに、テレビ誌で芸能人の撮影をしていた頃は、そのポラロイド写真にサインを入れてもらい、読者プレゼントにするケースも多かったですね」

カメラマンの中でも、比較的早い時期にデジタルに対応したという岡村さん。フィルムからデジタルへの移行期間は、依頼の受け方も今とは少し違っていたのだそう。

「編集者から仕事をいただく際、デジタルで撮るのかフィルムで撮るのかを確認しなければならない時期がありました。あるいは、『大きなカットはフィルムで、小さなカットはデジタルで』と、カメラの使い分けを指示されることも珍しくなかったですね。フィルムはどうしても管材費(フィルム代や現像代)がかかるので、小さな解像度で足りるものについては、デジカメを使って節約していたわけです」

当時は、表紙や扉ページ用の大カットのみフィルムを用い、その他のカットはデジカメで撮る現場も多かったそう。これも過渡期ならではのエピソードですね。

デジカメ全盛の今も残る、フィルムの良さとは?

デジカメに移行したことで負担が大幅に軽減された一方で、フィルム時代ゆえの良さもあると岡村さんは語ります。

「デジカメになってからはポラロイドカメラを使うことはありませんし、機材は格段に少なくなりました。撮影にかかる時間も、およそ半減しているのではないでしょうか。その反面、フィルム時代は毎回、直接納品に行く必要があったため、定期的に編集者と顔を合わせる機会があり、それがコミュニケーションの機会になっていました。最近は発注から納品まで、メールのやりとりだけで完結するクライアントも多く、ちょっと寂しいですね」

なお、今でも1件だけ、フィルムで撮影する定期案件を抱えているという岡村さん。デジタル全盛のこの時代に、フィルムを使う理由は何でしょうか?

「ある飲食店のメニュー撮影の仕事なのですが、これはフィルムの発色が今でも好みというオーナーのこだわりによるリクエストです。当然、コストはかさみますが、フィルムならではの奥深さとダイレクトな色表現が忘れられないという人は、今でも少なくないですね」

デジカメが登場してしばらくは、「まだまだフィルムの精度には至っていない」という声も多かったものの、最近は技術の向上により、そうした不満の声もほとんど聞かれなくなりました。あえてフィルムで撮影するというのは、デジタル時代における、ちょっとしたぜいたくなのかもしれません。

残量管理や二重露光など、フィルム時代ならではの気遣いも

一方、1985年からスポーツカメラマンとして活躍している矢野寿明さんは、九州産業大学の芸術学部写真学科在籍中にデビューし、球技から格闘技まで幅広くスポーツ写真を手掛けてきました。試合会場に合わせて全国を飛び回り、「日本列島はもう、4周くらいしています(笑)」という大ベテランです。

「フィルムを使っていた当時は、主に『週刊プロレス』という雑誌を担当していました。プロレスの興行は日曜夜に催されることが多いのですが、翌日である月曜の午前中には写真を入稿しなければならないため、毎週てんやわんやでした。そもそも日曜は現像所が休みですから、事前に無理を言って開けておいてもらわなければなりません。撮影後に大急ぎでフィルムを持っていき、現像されたものを深夜3時頃に受け取って、朝イチの飛行機や新幹線に乗って編集部に持ち帰る。毎週その繰り返しでした」

大学時代からスポーツやアスリートを中心に撮影を続けている矢野さん。以前は、人気プロレス団体のオフィシャルカメラマンも務めた

それでも週刊誌の現場はまだいいほうで、スポーツ新聞など翌日の朝刊に間に合わせなければならない場合は、カメラマン自ら現像をすることも。現像に使う薬品で服にシミができるのを避けるため、宿泊先のホテルの浴室で裸になって作業をする人もいたのだとか。また、フィルム時代にはこんな苦労も......。

「デジタルと違って、撮影済みの写真をパソコンに移すことができないので、手持ちのフィルムを使い切ってしまうと何も撮れなくなってしまいます。36枚撮りフィルムを20本持って行っても、たいていギリギリになってしまうので、残数の管理にはかなり気を使っていましたね。これが新聞社のカメラマンであればなおさらで、帰路に何があるかわからないため、必ず数カット分の余裕をもたせなければなりませんでした」

当時、取材前に大量のフィルムを箱から出す作業中の矢野さん。現場ですぐに撮影を行うための重要な作業でした

大容量のメモリカードさえ入れておけば、1万枚でも撮影し続けられるデジカメと違い、フィルムではそうはいきません。こうしたフィルム時代特有のリスクは他にもあります。

「撮影途中のアクシデントなどで裏蓋を開いてしまうと、フィルムが感光してすべての写真がダメになってしまいます。あるいは、撮影済みのフィルムを誤ってもう一度入れると、二重写しで絵が重なり、やはり使えなくなります。いろんな意味で、フィルムの取り扱いには注意が必要でしたね」

1987年に香港の会場で撮影された、7人制ラグビーの大会「香港セブンズ」のカット

ただし、カメラ自体のトラブルは、フィルム時代のほうが少なかったというのが矢野さんの実感。

「高度な精密機器となった今のデジカメに比べれば、フィルムカメラは設定を合わせてシャッターを押すだけのシンプルな構造です。少々の不具合であれば、器用な人なら自分でカメラを直すことができました。それに対してデジカメは、電源が入らなくなったりボタンが利かなくなったりしたら、もうお手上げでまったく操作できなくなります」

フィルムで撮った写真の魅力は、瞬間の深み

そんな矢野さんがデジカメを本格的に使い始めたのは2002年のこと。スポーツ専門の出版社の社員から、フリーランスに転向した頃でした。

「仕事の依頼を受けていた会社がデジカメへ完全に移行することになったのがきっかけでした。この時に会社が購入したのは、ニコンのD1というモデルで、画素数は266万画素。今使っているカメラが2082万画素であることを考えると、性能に雲泥の差があるのがわかります。当時撮影したデジタル写真とフィルム写真を見比べてみると、まだまだ発色や画像の細かさなどが明確に違います」

なお、会社がデジタルカメラ導入を決めた理由は、コストの問題だったそう。フィルム代と現像代が発生するため、複数のカメラマンが1カ月に何十本ものフィルムを使うと多額のコストがかかっていました。一方、デジカメはフィルムも現像も不要。デジタルへの移行が急務であったのも大いに納得できます。

プロレスやプロ野球のナイターのような光量の少ない会場で、動きの早いスポーツをデジカメで撮るのは、「当初は大きなハンデを感じた」と振り返る矢野さん。それでも、デジカメは日進月歩で発達し、今ではカメラメーカーの開発者の努力によってフィルムカメラ以上の精度に向上したと言います。

その上で、フィルム写真への思い入れを、矢野さんは次のように語ります。

「デジカメで撮った写真というのは、あくまで"画像データ"だと思うのです。だからこそ、撮り残ったカットをその場で消せたり、レタッチできたりする利点があります。しかし、実際にこうして昔のフィルムを眺めてみると、ミスショットやタイミングを逃したカットを含めたすべてが残っている。やはりフィルム写真にはその場その場の瞬間でしか写すことのできない深みを感じますね」

デジカメ全盛の現在ですが、その根底を支えているのは、フィルム時代から脈々と育まれてきた撮影技術です。今後も技術とツールの進化が、メディアの現場にさらなる利便性をもたらすことになるでしょう。