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2018年05月07日 11時24分 JST | 更新 2018年05月07日 11時24分 JST

【Yahoo!ニュース×時事通信】「ふいに死がやってくる」――戦後71年、空襲の被害データが語る“戦争の本質”

空襲を体験された方々の証言映像や、都道府県別の空襲被害データをまとめたコンテンツです。

ヤフーは今夏、戦争の記録と記憶を伝える100年間のプロジェクト「未来に残す 戦争の記憶」で、2年目の新企画「空襲の記憶と記録」を公開しました。空襲を体験された方々の証言映像や、都道府県別の空襲被害データをまとめたコンテンツです。

映像はYahoo!ニュースが取材したもののほかに、ケーブルテレビ局から提供を受けたものがあります。また空襲被害データは時事通信から提供を受けるなど、コンテンツパートナーの皆さんの協力を得て完成しました。時事通信 編集委員の武部隆さんは「ふいに死がやってくる」空襲の恐ろしさを、データから感じ取ってほしいと語ります。

ケーブルテレビ局から提供を受けた映像

今年で終戦から71年。戦争の記憶と記録を伝えるためにインターネットはどんな役割を担えるのでしょうか。この企画を担当したYahoo!ニュースの宮本聖二と、データ面でご協力いただいた時事通信の武部さんにプロジェクトへの思いを聞きました。

※この記事は2016年9月6日に配信された記事です。

なぜ今「空襲」なのか

――昨年、戦後70年の節目に始まったYahoo! JAPANの「未来に残す 戦争の記憶」ですが、2年目の今年は「空襲」がテーマになっています。なぜ「空襲」だったのでしょうか。

宮本(Yahoo!ニュース) 私は前職のNHKで入社3年目から足掛け30年ほど、戦争に関する番組を手がけてきました。一昨年までの6年間は同局で「戦争証言プロジェクト」を率いて、日本人の証言を体系的に集め、番組を月1本作りました。兵隊は当時だいたい20歳以上だったので、今は90歳を超えています。戦場体験を集めるのが難しくなったことを感じていました。

ヤフーへ転職し「未来に残す 戦争の記憶」の企画で戦争体験を集めることを考えたとき、今の時点で話を聞けるとなると、当時10代くらいで、ある程度戦争体験の記憶もしっかりしていてお元気で話したいと意欲のある方。となると「空襲」かなと。勤労動員、疎開などほかにもテーマは考えられますが、人間の生き死に関わる話となると空襲ですよね。

Yahoo!ニュースの宮本聖二

――足掛け30年、まさに宮本さんのライフワークですね。

宮本 30年前は軍の指導的立場だった方の話が聞ける時代でした。私も少将だったという人に取材したことがあります。ただ当時は「記憶を残さなくては」という危機感を感じていなかったので、網羅的に話を聞くことはできていません。今思うとそういうことをやればよかったと思います。

空襲データを残す「ギリギリのタイミング」

――今回、空襲の被害データは時事通信から提供を受けました。もともとデータは時事通信社内にあったのですか?

武部(時事通信) 手持ちのものはありませんでしたのでゼロから始めました。

時事通信 編集委員の武部隆さん

空襲の公的な記録を集めるために、まずは被害を受けた市町村をピックアップして取材することにしました。200市町村くらいかと思っていましたが、300近くになりました。地域によって担当者の熱意に差があり、答えていただけない自治体もありましたが、9割方は公的記録をもっていて、取材に応じてくださり、それなりの数が集まりました。

一番困ったのは東京都です。東京空襲があったので、都が公的データを持っているだろうと思ったら、ないと。東京空襲を記録する民間の組織があるので、東京都としてやる必要がなかったのか、手を引いてしまったのか分からないのですが、持ってないとのことだったので、23区に問い合わせました。

区はデータを持っていましたが、ところがベースになっているのは1953年に東京都が作った「東京都戦災誌」なのです。

古い資料というのは(1)混乱した時代に作られたため必ずしも正確な記録ではない、(2)過去70年にわたって調べ直していない――という2つの問題があります。戦後80年、90年と時が過ぎたら、記憶もあいまいになって、空襲データは復元できなくなる。現段階でもギリギリのタイミングなんだということを感じました。

――空襲データがこんなに"バラバラ"の状態とは思いませんでした。

武部 市町村合併の影響も大きいです。大きな市が周辺を合併したとして、戦争被害が大きかった地域が吸収合併された側だったりすると、そこの記録を一生懸命残す人は限られてしまいます。地域のアイデンティティーが崩れ、地域の歴史を残す熱意がバラバラになってしまっているのです。

都道府県ごとに空襲被害データがまとまっている

「ふいに死がやってくる」データが語るもの

――今回集めたデータは、来襲機の種別、被災地域、被害状況、焼失面積、死傷者数......と大変細かいです。特にどこに注目すれば良いでしょうか。

武部 まずは亡くなった人の数ですね。戦争は計画通りにいくわけではないので、たくさん爆撃機が来たからといってたくさん人が死ぬわけではありません。逆にパラパラっと落とした焼夷弾が木造住宅に落ちて、燃え広がるというようなこともあります。ふいに死がやってくることがデータから分かるんです。そういうところに注目してほしいです。

東京に関しては区ごとのデータを見たのですが、当時は23区以上あって、焼失面積97%という"丸焼き"の区もあります。記録によると、それでも住人はいて、防空壕で暮らしていました。米軍機は燃え残りの3%を狙って執拗に爆撃しています。緊迫した状況がデータを見るだけで伝わってきます。

80歳代の私の母が今でも言うのは、爆撃機が飛んでくるブーンという音です。何千メートルも上空を飛んでるのに音が聞こえる理由は大量に飛んでくるからです。殷々と腹に響くような音で、死を運んできます。そういう恐怖体験を若い人にどのように伝えていくか、メディアに責任があるという思いを今回強くしました。

来襲機、被災地域、死傷者数などのデータを確認できる

――サイトを見た方からは「自分の地元でこんなことが起こったことを知らなかった」といったコメントが寄せられました。被災地域の情報を見て、私も「実家の近くでこんなことが」というような驚きがありました。

武部 そこは、あえて地番まで書くようにしました。

――宮本さんはデータのどのあたりに注目しましたか。

宮本 空襲の回数も死者数も、焼失面積にしても大変な数字ですよね。戦争は総力戦。国の生産力や技術力をこんなにも破壊や殺りくに使ったのかということを、データで突きつけられました。戦争は相手の息の根を止めるということ。それを徹底的にやるのが戦争なんだなあと。

データでは来襲した米軍機の種類まで挙げていただいています。B29もあれば、ある時期からは艦載機グラマンが来ています。つまりサイパンやグアムを飛び立ったのではなくて空母で日本の近くまで来ているんですね。当時の戦況がよく分かります。

――特に若い世代に注目してもらいたいポイントはありますか。

宮本 世界のいろんなところで今も空襲があるというところに想像力を働かせてほしいです。70年たっても同じことが起きているんだと思いをはせ、結びつけて考えてほしい。世界の紛争の話題を自分ごと化するのはすごく難しいけれど、距離と時間を超えて感じてもらいたいです。メディアの仕事ってまさにそういうこと。

武部 空襲データからは戦争の本質が分かります。けんかの勝った負けたが決まるのは、一方が戦意を失ったときですが、国同士の戦争も全く同じです。アメリカは日本の戦意を喪失させるためにこれだけのお金をかけて、人を殺しました。

いま世界で戦争がなくならないのは、やられているほうが戦意を失っていないからです。それは日本がやられたように、息の根を止めるような攻撃をやればいいのかもしれませんが、それができないから戦争は終わっていません。じゃあその戦意自体がなくなるにはどうしたらいいのか、これから考えなくてはいけないと、私は思います。

空襲の証言映像、平均視聴時間は6分

――今回はケーブルテレビ局から映像を提供していただきました。平均視聴時間は6分と大変長くなっています。

Yahoo!ニュースが制作した映像も

宮本 ケーブルテレビ局の映像は、大部分が戦後70年に向けて作られた渾身の名作だったので、それだけ見てもらえる力のある番組だったのかなと思います。コンテンツパートナーの優れた番組を見つけて紹介することが、Yahoo!ニュースにとっても大事な役割だと思いました。データも映像も増やしていきたいですね。

――ヤフーは「未来に残す 戦争の記憶」を100年後の世代に残していくことを宣言しています。企画を継続するために必要なことはなんでしょうか。

武部 自分でやって分かったのは、データを整理して一般の人達が分かる形で見える化するまでマンパワーが必要ということです。

空襲というピンポイントでデータを集めたので、3人でやりましたが、こうした全国を股にかけるような企画であれば普通は10数人くらいのチームでやります。でもなかなかそうはいきません。資金をどうするかという課題もあります。

宮本 今回ご協力いただいた時事通信やケーブル局のように、地域を記録する人たちと組むなど、アイデアはいろいろ考えられます。

デジタルアーカイブは、単なるリンクだけじゃなくて、メタデータやAPIでいろんなところとつながることができます。「未来に残す 戦争の記憶」のデータを自治体が使うということがあってもいいですよね。どんどん使ってもらいたいです。