データで見る47都道府県「児童虐待」防衛の姿-もう1つの少子化対策-授かりし命を守りぬくために:研究員の眼

客観的なオープンデータによって日本における児童虐待の姿を俯瞰することとしたい。
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【はじめに】

2018年3月に東京都目黒区で発生した児童虐待事件。

わずか5歳の少女の壮絶な最後に涙を禁じえない。

子を持つ親でもある筆者としては、様々な感情が日々錯綜するが、その感情は一旦脇において、客観的なオープンデータによって日本における児童虐待の姿を俯瞰することとしたい。

本事件は、香川県と東京都という2つのエリアをまたいで虐待が継続され、被虐待児童が死に至ったケースとなっている。本稿では47都道府県の児童相談状況を比較して俯瞰することで、指摘できることがないかを検証してみたい。

【最新データでみる47都道府県の児童相談受付件数】

まず、47都道府県において、それぞれどの程度の規模の児童相談が受付されているのかを見てみよう(図表1)。

図表からは各エリアで子どもに関する問題(障がい相談、養護相談など虐待事案に限らない)が一体、どれくらいの規模で発生しているのかを見ることが出来る。

最新オープンデータである2016年の児童相談受付件数は、全国計で45万5千件である。

相談件数の多いベスト3エリアは大阪府、神奈川県、東京都で、いずれも年間3万件を超えている。全国での相談件数の8%から11%を占める児童相談に関してのメジャーエリアとなっている。

年間相談数が3万件未満で1万件を超える都道府県は、埼玉県、千葉県、愛知県、兵庫県、北海道、福岡県、兵庫県、京都府、宮城県、群馬県、静岡県、広島県の11エリアである。

1万件を超える児童相談メジャーエリアは、大都市圏ならびに、第2次世界大戦後、人口増加の一途をたどる首都・東京都をとりまく関東エリアが目立つ。

児童相談所への年間45万5千件の相談のうち、児童虐待相談は12万3千件であり、27%であるが、児童相談総数に占める児童虐待相談割合、件数の実数、ともに年々増加してきている。

件数実数ベースでは、2012年から2016年の5年間で約2倍(1.8倍)へと増加を見せている(図表2)。

【47都道府県 対15歳未満人口・児童相談受付発生割合】

直感的には、そのエリアに暮らす子どもの数が多ければ、それにしたがって相談も多くなるだろうと思われる。図表1は、あくまで児童相談受付の実数規模を示すものであり、エリアの「子どもに関する相談の発生割合」を表しているわけではない。

そこで、次に47都道府県における「児童相談の発生割合」を確認してみたい(図表3)。

児童相談は18歳の子に関してまでがカウント対象となっているが、特に児童虐待に関してはその8割が「0歳から12歳までの児童における相談」であることも鑑み、人口推計でよく用いられる0歳から14歳の人口(15歳未満人口)に対する発生割合で算出している。

相談の多さでみると大都市、ならびに首都圏エリアが目立つ存在であったが、15歳未満人口に対する相談受付件数割合でみると上位の姿がかなり変化することがみてとれる。19エリアが全国平均以上の相談割合率のエリアである。同じ大都市でも首都圏エリアがランクダウンし、関西圏エリアが上位に来る傾向が見られる。

ここで、15歳未満の子どもの数に対しての相談受付件数割合率について、何が指摘出来そうであろうか。

児童相談受付発生率が他県よりも高いエリアにおいては、以下の5つの可能性が指摘出来るだろう。

1)他のエリアより児童相談所の存在が周知されていることにより、持ち込まれる相談が多い(周知度)

2)児童相談所への管轄エリア住民の信頼度が高く、持ち込まれる相談が多い(信頼度)

3)児童相談所が混雑しすぎていないので、相談しやすい(相談アクセシビリティ)

4)エリアにおける住人同士の互いの関心度が高く、異変に気がつきやすい(地域交流度)

5)そのエリアにおける児童問題の発生率が高い(問題発生度)

このような観点と、上位にきているエリアにいわゆる大都市を含まないエリアも多いことを鑑みると、3)相談アクセシビリティ、4)地域交流度、の2つが発生割合の高低の背景にあるかもしれないようにも思える。

【 15歳未満人口に対する児童相談所・設置件数 】

厚生労働省の「平成29年度全国児童相談所一覧」によると全国には201の児童相談所が設置されている。

そこで、47都道府県別に、一体、1つの児童相談所が何人の15歳未満人口を担当する計算になるのか(平成28年15歳未満人口数/児童相談所数)を算出してみたい(図表4)。

全国平均では1相談所あたり約8万人の15歳未満児童を担当している、という結果である。

しかし、計算上担当児童数の多い上位9エリアは、実に10万人を超える児童数となる。

また、上位3エリアの神奈川県、福岡県、大阪府では、およそ20万人の児童を担当することが想定される計算となった。事件が発生した東京都は、1相談所あたりの管轄人口が多い順の4位であり、実に14万人の児童を1相談所がみる計算である。

1相談所あたり児童に関われる関係者数が、香川県の2.3倍はいないと、東京都においては香川県なみの児童相談ケアはできない、という計算結果となっている。

全国平均では1相談所あたり約8万人の児童を管轄する計算となる。この全国平均以上の管轄人口となるエリアとしては、やはり大都市をもつエリアが上位に来ている

大都会ほど1施設あたりの管轄人口が多くなる傾向がみてとれるが、その一方で持ち込まれる相談の発生率が大都会エリアでは高くない、ということからは、上記の3)相談アクセシビリティが関与している可能性が示唆される。

「相談しにくい混雑状況であるので、諦めている」という潜在事案が、大都会エリアはより多い可能性も考えておきたいところである。

【47都道府県別 児童福祉司の管轄人口状況】

最後に、国の児童相談所のあり方を検討する資料から、47都道府県別の児童相談に対応する児童福祉司(*1)の管轄人口状況を見てみたい(図表5)。児童相談に関する「人的アクセシビリティ」の指標となるものといえるのだろう。

資料からは、平成27年(2015年)の状況では、児童福祉司あたり管轄人口(総人口)が6万人を超えるエリアが3エリア存在する。

富山県、東京都、奈良県、である。

この3エリアに関しては全国平均が4万3千人であることから、児童相談に関する少なくとも「人的アクセシビリティ」は良好とはいえないと指摘できるだろう。

5万人を超えるエリアも山形県、福島県、茨城県、群馬県、福井県、長野県、岐阜県、長崎県、鹿児島県と9エリア存在している。

虐待に苦しんでいる子どもたちと、それを救済しようとする社会との間に立ちはだかる、様々な障壁との「子どもの命を巡る攻防戦」。

人口減少が叫ばれる中、授かった命の健やかな継承を様々な角度から検証する必要があるだろう。

(*1) 児童福祉法 第13条2項 「都道府県は、児童相談所に、事務吏員又は技術吏員であつて次の各号のいずれかに該当するものの中から任用した児童の福祉に関する事務をつかさどるもの(以下「児童福祉司」という。)を置かなければならない。」

1.厚生労働大臣の指定する児童福祉司若しくは児童福祉施設の職員を養成する学校その他の施設を卒業し、又は厚生労働大臣の指定する講習会の課程を修了した者

2.学校教育法(昭和22年法律第26号)に基づく大学又は旧大学令(大正7年勅令第388号)に基づく大学において、心理・教育・社会学に関する学部・学科を卒業した者であって、厚生労働省令で定める施設において1年以上児童その他の者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行う業務に従事した者

※「大学・短大で、心理学概論、教育学概論、社会学概論の3科目の単位を修得した」というだけでは該当しない。

3.医師

3の2.社会福祉士、精神保健福祉士

4.社会福祉主事として、2年以上児童福祉に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行う業務に従事した者

5.前各号に掲げる者と同等以上の能力を有すると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの

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(2018年7月2日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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