2014年も株価上昇は続き、3年連続での上昇となった。前年の大幅上昇の反動で下落する場面もあったものの、結果的には、円安による企業業績の改善などからTOPIXは年間で+8.1%上昇した。J-REITも例外ではなく、東証REIT指数の2014年の上昇率は、TOPIXを上回る+25.3%であった。
J-REITの価格上昇を牽引した投資主体をみると、買い入れを増額した日本銀行の他、大幅に買い越した投資信託が目立った。実際、J-REIT型投信の運用残高は拡大の一途をたどっており(*1)、超低金利の下、他の金融商品よりも高い分配金利回りに注目した個人が、預金の一部をJ-REIT型投信に移して価格上昇に一役買ったものと推測される。
2012年には、J-REITの分配金利回りは平均で6%を上回り、高利回り商品と呼ぶにふさわしいものであったが、投資口価格上昇の結果、現在の分配金利回りは約3%(*2)にまで低下している。実物不動産の価格も、東証住宅価格指数や投資家アンケートによる期待利回りなどの動きから、大幅に上昇したことが確認される。
不動産に限らず、超低金利下であらゆる資産価格が上昇する中、高利回りで安定した投資先をみつけることが難しくなっている。
世界的にも同様で、アジアの主要都市でも、株式や不動産の価格が高値圏にあり、投資利回りは低水準で推移している。香港、シンガポール、台北などでは、実物不動産投資の人気が高く、特にコンドミニアムは高額となっており、超低金利下の東京よりも低い投資利回りで取引されている。
東京の不動産価格も大きく上昇したものの、香港、シンガポール、台北などの投資家は、現地の不動産と比べた割安感から、東京での不動産取得を拡大している。
一方、興味深いことに、香港とシンガポールのH-REITとS-REITをみると、直近の平均分配金利回りがそれぞれ約5%(*3)、6%(*4)と比較的高い数値となっている。物流施設や商業モールの他、海外不動産も積極的に組み入れるなど、高利回り資産の比率が高いことなどが理由であるが、それらを踏まえても、過熱感漂う実物不動産投資との温度差は大きい。
おそらく、多くの投資家が個別に物件の魅力を確認できるコンドミニアム投資に熱心で、間接投資のREITへの関心が薄く、また、これまでの不動産価格の上昇からキャピタルゲイン期待が大きく、利回りを重視したREIT投資という視点があまり浸透していないことも要因と思われる。
株式市場においても、他セクターに高配当の株式銘柄が比較的多いため、REITは日本のJ-REITほど特別な高配当セクターではなく、J-REIT型投信のような特化型投信は目立たない。
実際、H-REITとS-REITの投資家構成をみると、政府系を含むスポンサー企業の持分比率の高さや、年金基金などの機関投資家が株式ポートフォリオの一部として大口保有するケースが目立ち、個人投資家などが積極的とはいえない。
超低金利下の日本では、多くの投資家が利回りを重視してJ-REITへの投資を始めたとみられるが、それらの投資家にとって、H-REITとS-REITが大半を占めるアジアREIT市場は魅力的に映るのではないだろうか。
また、H-REITとS-REITは、利回りの高さに加え、賃料上昇や資産の拡大・グレードアップによって継続的に一口あたり分配金の成長を実現してきたというJ-REITにはない魅力もある。
為替リスクなど、単純にJ-REITと比較できない点は少なくないが、今後とも、日本の投資家ならではの視点でアジアREIT市場に注目していきたい。
*1 投資信託協会によると、J-REIT型投信の残高は2010年末約0.7兆円、13年末約2.3兆円、14年11月末約3.1兆円。
*2 東証REIT指数の分配金利回りは2.9%(2015/1/5時点)。
*3 FTSE EPRA/NAREIT Developed REIT Hong Kong Indexは4.6%(2015/1/2時点)。
*4 FTSE EPRA/NAREIT Developed REIT Singapore Indexは6.2%、 FTSE ST REIT Indexは5.6%(2015/1/2時点)。
関連レポート
(2015年1月8日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 准主任研究員