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2018年02月14日 12時00分 JST | 更新 2018年02月14日 12時00分 JST

地方創生のビジネスマッチング-自分で動く「地元」創生(3):基礎研レター

東京からできることは何か。

JTB Photo via Getty Images
Japan, Yamaguchi Prefecture, Mine, View of rice field and private house (Photo by: JTB Photo/UIG via Getty Images)

1――これまでの取組みと顛末

本稿は、東京在住の地方出身者が地元の創生に参画を試みることを通じて、地方創生の考え方やモデルの創出を模索するものである。

これまで、まず地方創生を目的としたクラウドファンディングを縁として地元・山口県下関市の地酒蔵に接触し、稲作農業にもつながる地域課題を展望した。この地酒蔵「下関酒造株式会社」の経営課題は、酒造好適米・山田錦の調達を地元下関市で維持拡大していくことだ。

東京在住者でもできることは、地元の地縁を活用して休耕田を山田錦の栽培に転用するアレンジであったが、簡単には進まなかった(拙稿「東京から試みる地元の地方創生―自分で動く「地元」創生(1)」(*1)。

その後も地縁を辿って農家に対する地道な勧誘を継続しているが、そもそも農業継続を逡巡する農家が多いなか、敢えて栽培の難しい山田錦にチャレンジしようという人を見つけるには現時点では至っていない。

ただ、農家には農業の収入増と安定も見込めるこの選択肢を懐に入れてもらっておくことが重要だと考えている。地方創生では当事者の利害が簡単には一致しないことが一つの見えづらいネックである。だからこそ、手を打ってじっくり待つことも現実的な一つの方策である。


(*1) http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54112?site=nli

2――東京からできる次の一手

山田錦栽培農家の確保に長期戦で臨む間、東京からできることは何か。思いついたのが、栽培の最適化をデータとして見える化して支援する農業ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)である。

これを使えば、栽培の難しい山田錦に取組むハードルを下げることができ、農家を勧誘する有効なツールとなり得るのではないか。早速、筆者が健康経営の研究でお世話になっている富士通株式会社の人脈から、富士通本店(川崎市)の農業ICTチームの紹介を得た。

同チームは、世界に知られる山口県の有名日本酒メーカーに対し、山田錦栽培支援の導入実績もあり、現地山口県の山田錦を巡る状況にも明るい。同社の山口県における山田錦対応の責任者から、地元酒米の現状と課題、農業ICTに出来ることと出来ないことを含めて、幅広くレクチャーを受けることができた。

農業ICTは、山田錦栽培への新規参入を容易にするだけでなく、既存の栽培家支援に使えば山田錦の質向上にも活用できるのである。このような情報だけでも、地元企業には大きな価値がある。

折を見て、下関酒造と富士通との面談をセッティングし、情報の共有化とともに今後の進め方を協議した。

まずは、栽培農家、JA、酒造メーカー、富士通が一堂に会して、地域の日本酒バリューチェーンとして目指す方向やそれぞれの思いを共有化することとなった。

逆にいえば、これまでそのような場はなかったということである。各関係者に対して個別に丁寧な説明をして、半年がかりで勉強会の開催に漕ぎ着けた。

下関酒造と富士通とのビジネスマッチングが一つの契機となって、バリューチェーンに亘る、顔の見える信頼関係が始まった。そして、純下関産の日本酒を安定的に生み出すという一つの目標に向けて、新たな動きを作り出せたことは感慨深い。

今回、筆者が調整役として痛感したのは、各々の地域では思った以上に情報がなく、また当事者のネットワークも希薄であるという現実だ。

一方で、ネットワーク作り一つとっても、地域に根付く当事者それぞれの事情やしがらみがあって、一当事者の都合だけで容易に物事は進まない。だからこそ、ただ自分の地元を何とかしたいというだけの、利害関係のない調整役には耳を貸してくれる場合があるのかもしれない。

ビジネスマッチングは、各地方では地方銀行が主な担い手だが、情報など東京だからこそ容易に調達できる資源があるのも事実だろう。このように、微力ながら東京から仕掛ける地方創生であっても、情報やネットワーク作りという点では、あながち無益でもないと示すことができた。

3――地域におけるビジネスマッチングの考察

ビジネスマッチングは、2016年10月に金融庁が、「金融仲介のベンチマーク」55項目の1つとして、地銀に取組みと開示を迫って以降、ますます地銀に期待される機能である。ビジネスマッチングには、個別に事業者をマッチングするやり方や、売りたい側の事業者を集めた商談会形式のイベントなど、実態は様々あるようだ。

企業側の期待は、当然、本業支援に直結した販売先の紹介である。売りたい先に対して、買いたい先を見つけてマッチングするには、双方の事業内容、商品・サービス、ニーズをよく分かっておく必要がある。

そういう意味では、商談会形式のイベントは、買いたい先もイメージしてよほど周到に準備して来てもらわないと成果はあがらないのではないだろうか。売り先だけ集めて、あとは皆さん頑張ってくださいでは、取引先の信頼は高まらないだろう。

ビジネスマッチングを本気でやる場合、直接にマッチングできる候補を検討するにとどまらず、ひょっとしたらこれが使えるかもしれないという幅まで、候補を検討することが望ましい。

そのためには、初めに経営者から会社の経営課題をじっくり聞くことが必要である。経営課題に対し、仲介という違った立場から解決を考えるということである。

例えば、下関酒造の場合、山田錦栽培農家の開拓、さらには山田錦の品質向上といった経営課題を踏まえ、まずニーズを直接満たすべく栽培農家の開拓に動いたが、前述のとおり紹介には至らなかった。

そこで、次には、農家に検討のハードルを下げてもらうための手立てとして、農業ICTを仲介したというようなケースだ。

マッチングの対象には、販売先を紹介する場合と、調達先を紹介する場合の二つがある。販売先は、売りたい先でも既に営業部隊を構えるなどして、開拓に余念が無いだろう。それを超えて、部外者が販売先を見つけてくるのは容易ではなかろう。

逆に、企業規模が小さくなるほど、調達面での改善が後回しになっている可能性がある。企業の方でも、現実に経営資源として何が不足しているのか、という方がニーズとして明確であり、調達ニーズ発の方がマッチングし易いと思われる。

これを地銀のように地域内で完結させることができれば、マッチングが成功する。逆から見れば、売りたい先に販売先を紹介したことになっているわけである。

地方創生においては、調達ニーズに合わせて調達先をある企業に紹介した場合、たとえすぐに商談が成立しなくとも、その後に亘って、近しい品揃えやサービスの提供、更なる紹介などが期待できる。すなわち、その企業にとってサポートチームの一員になってくれることも期待できるのである。

東京では当たり前に交わされている情報であっても、ネットワークが希薄な地方では知られていないこともある。ビジネスマッチングは、取引先の紹介という面だけでなく、情報や人の新結合を促すため、地方でこそ期待と効果が大きいだろう。

地方に比べて情報量などに勝る東京から、地方出身者がわずかでもビジネスマッチングに手を貸すことができれば、地方創生の大きな起爆剤になり得る。今後は、このようなモデルの創出を視野に入れた実践的研究を行いたい。

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(2018年1月31日「基礎研レター」より転載)
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