企業型DC運用改善に向けて:研究員の眼

加入者数が増加する企業型DCでは、元本確保型商品のみで運用している加入者が依然として多いという問題点を抱えている。

税制適格年金、厚生年金基金、確定給付企業年金(以下、DB)の3つの確定給付型企業年金の加入者数は年々減少する一方で、企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)の加入者数は増加基調を辿っている。

確定給付型加入者数の減少は、2012年3月に税制適格年金が廃止されたことや、2014年度に厚生年金基金の廃止を促す改正法が施行されたことの影響が大きい。

とは言え、税制適格年金や厚生年金基金から、受け皿として期待されたDBへの移行が進んでいれば、加入者数がここまで減少することはなかった筈だ。

残念ながら、DBに移行する動きは限られ、どちらかと言えば企業型DCへの移行が選好されたこともあり、確定給付型と企業型DCの加入者数に対照的な推移が見られる。

こうした状況で問題となるのは、加入者数が増加する企業型DCでは、元本確保型商品のみで運用している加入者が依然として多いという点である。企業年金連合会の「2015年度決算 確定拠出年金実態調査結果(概要)」によれば、元本確保型商品に100%投資するDC加入者は全体の4割強にも達する。

加入者の積極的な選択行動の結果であれば特段問題はないが、運用商品を自ら進んで選んでいない、あるいは、選べない加入者が少なくなく、効果的にDC制度が活用されているとは言い難いところに極めて深刻な問題がある。

超低金利の現在の環境下において、ほとんど利息を生まない元本確保型商品のみでの運用を継続すれば、リスクをとって運用するDC加入者ばかりか、一定の運用利回りが保証されるDB加入者との間で、将来の給付額に大きな格差が生じる可能性がある。

また、日本経済が長らく続いたデフレ環境から脱し、物価が持続的に上昇する環境が訪れても、物価上昇に見合う運用収益を上げられない可能性も懸念される。

これが顕在化すれば、加入者の意思と関係なく元本確保型商品で運用する企業型DC加入者は、老後の生活資金確保という点でDB加入者に見劣りするばかりか、物やサービスに対する資産の価値すら維持できないことになる。こうした事態を回避するには、運用リスクをある程度とることを促す必要もあろう。

現在、DBの平均的な資産構成における内外株式の割合は、2割強である。不動産やプライベート・エクイティなど、相対的にリスクの高い資産を加えると3割程度である。内外株式に2~3割程度投資することで、DB加入者と同レベルの給付額を将来見込めることになる。

また、政府・日銀は2%の物価目標に向けて、様々な政策を打ち出している。2%という物価上昇率が安定的に実現されるとの見方は多くはないが、例えば年1%の物価上昇を想定することは、将来への備えという点で無駄ではないだろう。

国内株式と外国株式に半々ずつ投資した場合の過去30年間のリターンは、年率で4.5%であり、過去のトレンドが今後も長期的に実現されると考えるならば、物価上昇に見合う年1%のリターンを達成するのに必要な内外株式の投資割合は2割強(=1%÷4.5%)と計算される。

緩やかながらも長期的に世界経済が成長するとの前提付きではあるが、少なくとも資産の2割程度は内外株式に投資することも必要のように思われる。

この割合は、資産構成を一定に維持するバランス型商品のうち、最もリスクの低い商品の内外株式の構成割合よりも低い。元本確保型商品に100%投資する加入者であっても比較的受け入れられやすいリスク水準だろう。

もっとも、加入者の置かれた状況や考え方によって、適切な運用のあり方は異なる。内外株式への2割程度の投資が、すべての加入者に共通の唯一の解とは限らない。

ただ加入者それぞれに相応しい運用が実践されるためには、何よりも加入者自身によって運用商品が選択される必要がある。

運用商品ラインナップを絞り込んだり、運用商品をカテゴリー毎に分けて提示したりするなど、商品選択の難易度を下げることも必要だが、商品選択にあたって考慮すべき視点の共有化も欠かせない。

購買力維持を含む運用にあたって考慮すべき様々な視点や運用のアイディアを提供しながら、DC制度が加入者によって効果的に活用される状況を創出することの重要性は、企業年金における企業型DCの存在感が高まるなか、益々高まっていると言える。

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(2017年6月30日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 企業年金調査室長

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