まずは「良妻賢母」好きを、やめてみる。

グローバルなマーケティングリサーチ会社IPSOSが9月に発表した世界調査Global Trend 2014(*1)において、女性の社会進出へのアンチ意識が世界平均に比べると日本は極めて強い、というデータが発表された。

「女性活用」と「少子化対策」、どうしたらいいの?

【諸外国と比べても、女性の社会進出アンチ社会な日本】

グローバルなマーケティングリサーチ会社IPSOSが9月に発表した世界調査Global Trend 2014(*1)において、女性の社会進出へのアンチ意識が世界平均に比べると日本は極めて強い、というデータが発表された。

残念ながら日本は、女性の社会進出に対する意識に関連する「女性の社会的役割は良き母、良き妻であることだ」「政治やビジネスの世界でより多くの女性が責任ある地位につけば事態は好転する」「女性は男性と同等の権利と力を持つべきだ」といった質問に対し、対象20カ国の平均よりもどれも「進出アンチ」に傾く結果となっている。

【日本の人口は、もはや絶滅の危機。打開策は?】

人口学的に1.5を出生率が下回る状態を「超低出生率」(Lowest Low Fertility:LLF)という。この超低出生率を続ける日本の人口問題は深刻であり、この状況が続くならば、50年後の日本の人口は確実に1/3まで減少する。

また長期のLLFに陥った国でいまだ出生率が回復した国がない、という歴史的な「超低出生率のワナ」からわが国も逃れられないとするならば、日本の人口は、既に待ったなしの「絶滅の危機」に瀕しているのである。

日本の人口を増やそうと思っても、そう簡単には増やせない。既に妊娠適齢期の女性が高齢化構造となっており、かりに結婚・出産奨励策をとったとしても、人口置換水準(今の人口を維持する出産数)の2.07人を生める女性がそもそも日本にはもう多くないのである。

また、もしも移民に頼るとすると、高齢化による社会の負担を増加させない潜在扶養指数維持(*2)には、なんと年間1047万人(*3)もの大移民が毎年必要なほど、日本の少子化は深刻なのである。

内閣府から先進国諸国において「女性の労働力率」と「出生率」が正の相関関係になっているという相関図が発表されているが、これは日本においても47都道府県の女性労働力率と出生率をグラフにするとはっきりとした正の相関が示されることがわかっている。先進国においては女性を労働市場に出すことが出生率の上昇につながる、とする説がわが国だけでなく、諸外国においても有力である(*4)。

しかし、最初に述べたようにわが国の女性の労働市場への進出、いわゆる「女性活躍」に関する意識は世界的にみてアンチの傾向が強い。

そのような中でも今回のIPSOS調査の中に、女性であり母でもある筆者にも耳がいたい結果がある。

【良妻賢母好きと出生率】

以下は先述のIPSOSの国際意識調査とWHO世界統計を用いて、「良妻賢母好きではない率」(「女性の社会的役割は良き母、良き妻であることだ」不支持率)と出生率の関係をみたものである。

今回のIPSOS調査対象国において日本と同じ経済条件(OECD加盟かつ世界銀行基準において高所得国)の国において出生率が1.5を下回る超低出生率国は日本、ドイツ、ポーランド、韓国であるが、ドイツを除いていずれも各国平均に比べ「良妻賢母好き」国であることがわかる。

例外的なドイツも、ぎりぎり各国平均を上回る程度にとどまっている。経済成長を遂げた国においては「伝統的な家族観」が女性の出産意欲を妨げるというこれまでの意見や研究結果をやはり支持する結果となっている。

筆者が上表を見て残念に思うのは、日本において、男性のみならず女性も、世界的にみればいまだ「良妻賢母」志向が強いことである。かく言う筆者も「良妻賢母」という響きには「そう思わない」と言い切るまでのイメージがない。

しかし、高い出生率に転じた先進国スウェーデンなどをみると「良き母良き妻」が社会的役割と考える女性はわずかに4%である。この結果には筆者も驚いた。ほぼ「そんなのありえないわよ」といわんばかりの結果である。出生率が2.0を誇るフランス女性も、良妻賢母支持派は14%に過ぎない。

今年、かつて一世を風靡した「ハリーポッター」でハーマイオニーを演じた女優エマ・ワトソンが国連女性親善大使に就任した際に絶賛された演説ではないが、男性VS女性的なフェミニズムは終焉を迎えつつあり、これからは男女が足並みをそろえて次世代をはぐくむ社会を考える時代である。

わが国の異常な長時間労働を前提とする労働市場が極端に男性向きであることの是正は勿論であるが、まずは日本の男性のみならず日本の女性も、「良妻賢母好き」をやめてみる。

こんなキャッチフレーズが調査結果をみて浮かんだのは、決して私だけではないのではないだろうか。

*1 オンライン調査。対象20カ国(アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、イギリス、インド、イタリア、日本、ポーランド、ロシア、南アフリカ、韓国、スペイン、スウェーデン、トルコ、アメリカ)、サンプル数1万6039人、調査時期2013年9月、対象年齢16歳から64歳(アメリカとカナダは18歳から64歳)。

*2 高齢者を支える生産年齢人口の水準を現在の状態で維持可能な人口構造

*3 津谷典子「出生率と結婚の動向」(2014)平成26年度社会保障・人口問題基礎講座資料。

2000年-2050年の平均で、総人口維持には年間34.3万人、生産年齢人口維持には64.7万人、そして潜在不要指数維持(1人のお年寄りを支える若者の数の維持、といえばわかりやすい)にはなんと1047.1万人の移民が必要であるとする。

*4 因果関係については、イギリス最近の驚異的な出生率の上昇があげられる。子どもの貧困対策として強化された女性の社会進出支援によって、カップルの収入が向上し、その結果として子作りを考えるカップルが増加した、という社会現象が注目されている。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

(2014年11月4日「研究員の眼」より転載)

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