2,000万人目の眼~今さら「レリゴー」でもないでしょうが・・・~

最近流れたニュースによると、3月から日本で公開されていたディズニー映画「アナと雪の女王」の観客動員数が8月25日、ついに2,000万人を超えたそうです。
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最近流れたニュースによると、3月から日本で公開されていたディズニー映画「アナと雪の女王」の観客動員数が8月25日、ついに2,000万人を超えたそうです。遅ればせながら迎えた夏休みを使って、数少ない上映中のシアターに足を運んだ筆者は2,000万人目の観客であったかも知れません。

そもそも公開から5ヶ月以上も経ってなぜこの映画を観に行ったのか、それには少し説明が必要でしょう。

きっかけは数日前の職場での会話です。この映画の主題歌となっている「Let it go」が話題に上ったとき、同僚の一人が「映画のシーンと日本語歌詞があわない。英語のニュアンスと何か違う。」と口にしました。

これまでテレビやラジオで松たか子さんやMay.Jさんの歌を何気なく聞いていた身には「何のことやら?」という思いが残ったわけです。そこで早速上映している場所を見つけ出し、25日朝9時半の閑散とした映画館に足を運びました。人気沸騰した映画とは言え、身近な場所で上映している時間帯はこの朝一番の枠しかありませんでした。

既にご存知の方々が多いのでストーリーの細かい説明は省きますが、問題の主題歌が流れるのは、主人公エルサがノースマウンテンに一人で登るシーンです。そこで流れる曲調は出だしこそ哀愁がありますが、途中から「ありのままの姿見せるのよ」と元気一杯なものに変わります。

画面の主人公も自由を心から楽しんでいるように見え、朝の光を浴びた主人公はこれ以上ない「前向き」な印象です。しかし、この間にもエルサを女王として戴いていた国の人々は寒さに震えている訳ですから、何か変だという同僚の指摘には一理あります。

そこで今度はネットで英語版を探して聞いてみました。すると確かに吹き替え版とは様子が異なるように感じます。

例えば吹き替え版で「二度と涙は流さないわ」と歌うシーンです。主人公は強く氷の床を踏みしめます。このときの英語は「Here I stand and here I'll stay. Let the storm rage on.」となっています。このstandとstayの二語にアクセントがあることでstorm(雪の嵐と心の葛藤の意味)の中にあえて一人身を置く気持ちが強く表現されています。

不思議なことに英語版でみるこのシーンのエルサは決して前向きではなく、悲哀すら感じさせます。人間の受け止め方はこうも簡単に変わってしまうのでしょうか。

こうした違いをめぐる議論はインターネット上でも熱心にかわされているようです。筆者が見ただけでもそのやり取りは延々と続き、「Let it go」の吹き替え歌詞批判派と擁護派が平行線を辿ります。

ちなみに筆者が見たスレッドには270のレス(コメント)がありました。これだけあると読むだけで一時間近くかかります。批判派は吹き替え歌詞のニュアンスが英語と正反対になっていると主張し、擁護派は限られた文字数の枠の中で画面の動きに完璧に合わせた高度な翻訳技術だと主張しています。こうした熱心な議論を生み出すのも人気の表れであり、作品の製作関係者の努力には敬意を表します。

このような受け止め方の違いは、他方で気になる現象を生み出しているようにも思えます。

海外メディアにはこの主題歌が「抑圧された人」(米国ではこの中にはLGBTなどの社会的少数者を含む)の解放の歌であるという意見が見られます。これは英語版にみられるニュアンスから想像ができなくもありません。それと同じような視点でこの映画と主題歌が日本で大ヒットしたことについて海外メディアが分析をしています。

例えば、ある新聞はこの6月に起きた東京都議会でのヤジ事件と結びつけて、日本の閉鎖性を批判するような論調を展開しています。まさに抑圧された人(=日本の女性)の解放というテーマで捉えているわけです。筆者はその分析には疑問を持っています。

もし記者が前向きな日本語歌詞を理解していたら、こうした記事の材料にはならなかったと思います。もちろん、都議会での出来事は恥ずべきものですが、日本で活躍している女性が多数いるのも事実です。我々はもっとそうした女性の活躍例を海外に紹介するべきだと思います。

さて、2,000万という大台に乗せた観客数ですが、興行収入の方はどうなのでしょうか。

冒頭紹介したニュースによれば、累計の興行収入は254億3,451万5,160円(やけに細かいのが気になりますが)だそうです。史上二番目の興行収入を記録した「タイタニック」は262億円ですから、その差は8億円弱です。しかしこの8億円を埋めることが決して簡単ではないそうです。

その理由は二つ。一つめは後続映画(マレフィセント)との入れ替えによる上映館の減少、二つめはMovie NEX(いわゆるDVDの類)の順調な販売です。先週一週間の興行収入は約1,100万円強だそうです。このままでは「タイタニック」に追いつくことは難しいかもしれません。「アナと雪の女王」ファンのみなさん、夏休み最後の週末、もう一度映画館でエルサの歌声を聴いてみてはどうですか。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

常務取締役 金融研究部長

(2014年8月29日「研究員の眼」より転載)

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