"暮らし"支える物流システム 災害時の「ドローン」活用:研究員の眼

近年では不在者が多いために再配達の比率が上昇、いかに効率的な配送を実現するのかが喫緊の課題だ。

近年、われわれの暮らしにおけるネット通販の利用が拡大している。

日本通信販売協会によると、2014年度の通販売上高は、前年度比4.9%増の6兆1,500億円と百貨店売上高とほぼ同規模だった。また、同年度の宅配便取扱個数は36億1,379万個で、トラック運送が全体の98.8%を占めている。

ネット通販が拡大している背景には、宅配便の配送時間指定や宅配ボックス、コンビニ、鉄道駅での受け取りなど、今日のライフスタイルに合った利便性の高い物流システムの確立があるだろう。

今ではオフィス街や住宅街など街のあちこちで宅配トラックを見かける。エンドユーザーに荷物を届ける膨大な数のトラックが市街地を走り、配送員が駆け回っている。

近年では不在者が多いために再配達の比率が上昇、いかに効率的な配送を実現するのかが喫緊の課題だ。また、道路渋滞の緩和や排気ガスの削減、ドライバーなど配送員の確保も大きな課題だ。

そこで近未来の物流システムとして、千葉市幕張新都心の国家戦略特区では、ドローンを使った宅配の実証実験が始まっている。

ドローンの宅配には日常の配送だけでなく、非常時の物流の役割も期待できるのではないだろうか。

4月14日に発生した熊本地震では大きな余震が相次ぎ、1週間経った時点で9万人以上の人が避難所に身を寄せていたが、広い範囲で道路や鉄道などの物流網が寸断され、水や食料をはじめとする救援物資が避難所に十分届かない状態が続いていた。

また、救援物資の集積所の人手不足や避難所ごとの必要なモノに関する情報不足もあり、的確に被災者に救援物資が行き渡らなかったのである。

5年前の東日本大震災の時も、宅配便が被災地へ救援物資を届け、コンビニがその集積拠点として大いに活躍したが、物流経路の遮断が大きな障害になった。

ドローンの物流システムが実現すれば、発災直後に被災者の個別ニーズに合わせて救援物資をタイムリーに届けることができるのではないか。

また、熊本地震でドローンが危険な災害現場の状況把握に役立ったように、物流用ドローンを使って被災地の映像と情報収集を行い、災害状況マップを自動作成することができないだろうか。

日本は人口減少時代を迎え労働力不足が懸念されており、できる限り省人化を図ることが必要だ。

自動運転車による物流センター間の輸送やドローンによる宅配・集荷など、将来の物流システムは一層進化する可能性がある。地震の発生は避けられないものの、被害の最小化を図り、被災者支援の初動対応の強化が重要だ。

実用化にはまだ多くの課題が山積するドローン宅配だが、われわれの日常生活ばかりではなく、災害時の暮らしを支える物流システムとして大いに発展することを期待したい。

関連レポート

(2016年4月26日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 主任研究員

注目記事