雇用の「量」の創出から「質」の改善への転換を
衆院選は与党圧勝で幕を閉じた。
今回の選挙は経済政策が前面に出た戦いであり、与党は、雇用者100万人増や22年ぶり高水準の有効求人倍率などを実績としてあげる一方、野党は、増えたのは非正規雇用者であり、物価上昇は実質所得の減少を招き家計負担を増していること、アベノミクスの恩恵を受けているのは一部大企業や正規雇用者であり、現在の経済政策を更に進めれば、大企業・中小企業、正規・非正規雇用者間の格差を拡大しかねないことなどを指摘した。
解散直前には、女性閣僚の政治と金の問題、解散タイミングへの疑念の声もあり、内閣支持率は低下し、はじめて不支持率が支持率を上回るという調査結果も出た。
しかし野党は、与党の進める経済政策の対案や、不満を募らせる市民も多い原発再稼動や集団的自衛権等の経済政策以外の課題についても有権者をひきつけるような代案を提示できず、与党に対する不満の受け皿とは成り得なかった。
雇用関連の統計を見れば、過去2年間のアベノミクス第一幕では、雇用の「量」の創出という意味では一定の評価ができるだろう。失業率は3.5%の完全雇用と言われる水準まで低下し、労働者全体に職が行き渡る状態を生み出した。
一方、増えたのは非正規雇用者という野党の指摘も正しい。2013年1月から2014年10月にかけて、雇用者数は+127万人増えているが、内訳を見ると、役員を除く正規雇用者は▲38万人減少する一方、非正規雇用者は+157万人増加している。
現在のところ、正規雇用者と非正規雇用者では賃金をはじめ雇用環境に格差が存在することは自明の事実であり、非正規雇用者を増やすことは雇用の「量」を生んでも「質」の向上にはなりにくい。
よって、アベノミクス第二幕に期待したいことは、雇用の「量」の創出から、「質」の改善への転換だ。
特に、非正規雇用者の割合は将来を担う若年層で高く、15~24歳の約半数を占める。若年層における雇用形態の違いは、恋愛や結婚・出産という家族形成にも影響を与える。
1年以内に結婚を考えた場合の最大の障壁は経済的な問題であり、将来を担う若年層における雇用の安定化は、少子化が進行する中で家族形成に向かう層を自立的に生み出す可能性がある。
現在、非正規雇用者が増加している状況は過渡期の現象で、今後は若年層をはじめ、「質」の改善へと転換されるのであれば、人口減少に歯止めをかけることにもつながるのではないだろうか。
関連レポート
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 准主任研究員
(2014年12月15日「研究員の眼」より転載)