日本は何位?「アジア諸国の国際競争力」-世界経済フォーラムの直近ランキングより:研究員の眼

アジア各国の国際競争力では、シンガポール(2位)、日本(8位)、香港(9位)が、世界の上位10位以内に入っています。

世界各国・地域の国際競争力のランキングについては、世界経済フォーラム(World Economic Forum: WEF)による「国際競争力指数」(Global Competitiveness Index : GCI)と、国際経営開発研究所(International Institute for Management Development: IMD)の「世界競争力年鑑」(World Competiveness Year Book: WCY)によるものの二つが著名であるが、本稿では、2016年9月28日に公表されたWEFの2016-2017年版の国際競争力指数を踏まえて、アジア諸国・地域の競争力の現況等についてその要点等を紹介する(IMDの直近ランキングは2016年5月30日に公表されている)。

1.WEFによる国際競争力(指数・ランキング)の概要

WEFが、毎年1回、対象国・地域(今回は138)について、「基礎的要件」、「効率性強化」、「イノベーションと洗練性」の3つを大項目とし、その要素たる12の中項目(「制度」、「インフラ」から「イノベーション」等)、100以上の小項目について調査・評価を行っている。

それに併せて、各国の著名機関・識者へのインタビューも実施し、その結果を「国際競争力指数」(Global Competitiveness Index)としてまとめ、各国・地域のスコア(評点)やランキングを公表している。

以下、WEFの直近の公表レポートである「The Global Competitiveness Report 2016-2017」に沿って、アジア地域(東アジア・アセアン(東南アジア諸国連合)加盟国、インドを対象とする)に焦点を絞ってその要点を述べることとする。

2.アジア各国の国際競争力の動向について

(1)アジア地域に関する概況

図表-1の「総合ランキング」をみると、アジア地域では、シンガポール(2位)、日本(8位)、香港(9位)が、世界の上位10位以内に入っており、それ以下では、台湾・マレーシア・韓国・中国が10-20位台、タイ・インドが30位台、インドネシア・フィリピン・ブルネイ・ベトナムが40-60位と対象国138の上位半数以上に位置づけられている、

アセアンの後発加盟国であるカンボジア・ラオスは89位、92位と未だ低いポジションにある(ミャンマーは入手できるデータが未だ不十分なため、ランキングの公表対象国にはなっていない由である)。

このように、アジア地域においては、世界の最上位クラス(シンガポール2位)から下位(ラオス93位)までの大きな多様性がある。上位のポジションにある先進的な国・地域は、世界経済をリードする立場から重要である。

一方、中国を代表とする域内の新興国は、世界経済の発展に大きく貢献している。

2015年における経済成長(名目(GDP(国内総生産)ベース)の増分の約4割を占め、その他地域の新興国の寄与度の2倍以上となっている等、世界経済におけるプレゼンスが拡大しており、その競争力の動向が注目される。

アジア地域における特徴点として以下が挙げられている。

・先進国・地域:シンガポールは6年連続で世界2位のポジションを維持、日本は8位(前年より2ランクダウン)、香港が9位(同2ランクダウン)、台湾は14位(1ランク上昇)となっている。

これら諸国では、イノベーション能力のさらなる発展が必要と指摘されている。

日本とシンガポールがこの分野で上位にあり、韓国と台湾がそれに次ぐ位置づけにあるが、2007年との対比では、いずれも、その相対的な優位性は失われる傾向にあると指摘されている。

・新興国:マレーシアは25位、中国が3年連続で28位である。この地域のほとんどの国が、2007年のデータとの比較で(ランキングのベースとなる)スコアを上昇させている。

特に、近年では、カンボジア・中国・フィリピンのスコアの上昇が目立っている。多くの国で、基礎的要件の改善が進み、汚職問題への取り組みなどガバナンス面の改善、交通インフラの改善が進展している。

各国に共通して見られる改善のトレンドは健康と初等教育の分野である。マクロ経済面では、多くの国でインフレ率の低下、財政の相対的な健全化傾向が見られる。

中国については、高等教育、イノベーション、ビジネスの洗練度等の改善が見られる一方で、技術適応力の弱さ、外国企業の市場参入の困難による競争の少なさ、起業手続きに多くの時間を要すること、金融セクターの非効率と安定度の低さなどが課題として指摘されている。

インドは、前年の55位から39位へと、対象国中最高となる16ランクの改善と大きく上昇した。財市場の効率性、ビジネスの洗練度、イノベーション等幅広い分野で改善が見られた。

G20諸国の中で最も高い経済成長率の達成や近年の諸改革への努力、外資への市場開放や金融システムの透明性向上への取り組み等が評価された。

一方で未だ改善すべき課題は数多く、労働市場に関する問題、付加価値税の各州で異なる水準での課税、経済効率を阻害する大規模な公企業のあり方、脆弱なインフラと情報通信の活用の遅れなどが指摘されている。

(2)世界で上位10位以内にランクされるアジアの3国・地域に関する要点・トピックス

a.シンガポール:6年連続で総合第2位。ほとんどの指標(中項目)で上位10位以内にある。その内、高等教育・研修と財市場の効率性が世界首位、その他5項目で世界第2位となっている(公的制度の透明性、インフラなど)。

さらに、マクロ経済の安定性や財政の健全性が高評価であるが、スイス等世界で最も強い競争力を有する最上位の諸国との相対比較では、ビジネスの洗練性やイノベーションの面で劣後している。

b.日本:総合8位(前年度より2ランク下降)。マクロ経済環境(104位)が競争力の大きな阻害要因となっている。

労働市場の効率性も課題である(雇用・解雇の自由度、女性労働者比率、高度外国人雇用の問題が挙げられている)。加えて、市場参入と起業への障壁といった国内市場における競争の少なさと閉鎖性が指摘されている。

他方、強みとして、優れたインフラ、および、製品・生産プロセスや国際分業などの面で洗練された企業や、イノベーション環境に寄与する調査・研究面の充実、などが挙げられている(ただし、イノベーションについては、2007-2015年には上位5位以内にあったが、直近では8位となり相対的な優位性は低下傾向にある)。

なお、参考情報として、日本について、WEFの総合ランキングにおける10年間の推移をみると下表のようになっており、2012-2013年の10位から改善傾向を示し、2014-2015年、2015-2016年には6位まで上昇したが、今回(2016-2017年度)は8位となっている。

c.香港:総合9位(前年度より2ランクのダウン)。強固で安定したパフォーマンスがあり、全指標(中項目)の中で最も低いランキングが33位で、7項目で世界の上位10位以内に入っている。

特にインフラは世界首位であり、金融セクターの発展度・洗練度・信頼度・安定度も4位と高く評価されている。

さらに市場や労働市場の効率性、インターネットの活用や携帯電話の浸透度でも高評価である。一方、最大の課題はイノベーションの面とされている。

3.おわりに

アジア地域の諸国・地域の国際競争力について、WEFの直近ランキングをベースに概観した。

経済規模は小さいが世界トップ水準にランクされるシンガポール・香港、中進国としての今後の先進国入りを展望しつつ模索するマレーシア・タイ、経済大国である中国・インド・インドネシア、さらに、アセアンの後発加盟国として将来が期待されるカンボジア・ラオスなど多様な経済状況・発展度の国・地域が存在し、それぞれの立場で諸課題への取り組みや、改善努力が行われている。

この点に関して、例えば、シンガポール、香港においては、スイスや米国などとの対比で、ビジネスの洗練性やイノベーションという、より高次元の分野で一層の取り組みが必要とされるなど、各水準や段階の国々にとって、競合する諸国との相対的な優位性という観点が重要となっている。

わが国は、市場規模、インフラ、イノベーション等これまでの蓄積や取り組みが考慮され第8位という高評価となっているが、イノベーションにおける相対的な優位性の低下傾向が指摘されている。

このような状況を考えると、マクロ経済の改善、諸改革の推進の必要性と同時にイノベーション分野の一層の強化の重要性が改めて認識されるといえる。

本ランキングは、各国・地域の競争力に関する、一つの見方との位置ではあるが、その中には、各国・地域が、注力すべき分野の状況や競合との相対的なポジションの把握・分析に有用な情報を数多く含んでいるといえよう。

【参考】WEFとIMDの国際競争力ランキングの比較

WEFのランキングとIMDのWCYのランキングを比較すると、対象国・地域数(WEFが138、IMDが61)の他、評価項目・手法に違いが見られ、その結果としてのランキングにも相当な違いがある。

WEFの評価は「国の生産力や収益力のレベルを決定する諸要素に焦点」を当てており、他方、IMDの評価は「グローバル企業にとっての企業の力を保つ環境を創出・維持する環境が整っているか」の視点で評価している(竹村、2014)などと分析される。

事実、両機関による日本についての直近のランキングをみても、WEFでは8位、IMDは26位と大きな違いがある(両者の上位10カ国・地域のランキングを示したものが図表-3である)。

また両者の評価基準・手法等の内容や比較は、各機関の公表資料や、竹村(2014)、小針(2013)などの分析が参考になる。

小針泰介(2013)「国際競争力ランキングから見た我が国と主要国の強みと弱み」 国立国会図書館調査及び立法考査局『レファレンス』平成25年1月号。

竹村敏彦(2014)「日本の国際競争力強化に向けた戦略と課題」 総務省情報通信政策研究所『情報通信政策レビュー』第 8 号。

World Economic Forum (WEF) (2016), The Global Competitiveness Report 2016-2017および各年版。

International Institute for Management Development (IMD) (2016), World Competitiveness Yearbook 2016.

関連レポート

(2016年12月5日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 アジア部長

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