「留職」というグローカル人材育成:研究員の眼

留職とは、企業の社員が、会社を一旦離れて新興国のNPOなどで一定期間働くことであり、本業で培ったスキルを活かして現地の社会的課題の解決に取り組むものである。
Omar Havana via Getty Images

新興国NPOでの社会的課題解決の体験から何を学ぶか?

留学ならぬ「留職」が日本の大企業で静かな話題となっているようだ。留職とは、簡単に言えば、企業の社員が、グローバルセンスを養うために、会社を一旦離れて新興国のNPOなどで一定期間働くことであり、本業で培ったスキルを活かして現地の社会的課題の解決に取り組むものである。

この留職プログラムを日本で初めて立ち上げたのが、2011年設立のNPO法人「クロスフィールズ」である。彼らのミッションは、社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ることである。そのために、企業・行政・NPOの枠を超えて、新興国において社会的課題の解決に挑戦する「原体験」の機会を提供する。

2012年度の採用企業は1社だけ(電機P社)であったが、現在ではその数も増え、今年2月時点での派遣実績はアジア8カ国、57名になったという。取組分野も多様である。

一見、企業の社会貢献活動のようにもみえるが、派遣経験者が異口同音に語るのは、日本とは異なる文化や価値観の中で様々な困難を克服することで、自らがリーダーシップを学びつつ成長できることである。また、現地の人々の考え方や必要とするものを肌感覚で理解できることの効果も指摘する。

これは、"上から目線"ではなく、現地と同じ目線で考えることを意味し、"日本の常識"を相対化することでもある。日本では当たり前のことが、そのまま通じることは少ないからである。

派遣元の企業からみれば、社員を新興国のNPOに派遣することは、グローバル人材の育成や新興市場の調査・開拓につながる。国内市場の成熟や縮小を背景に、日本企業のアジア新興市場への期待が膨らむ一方で、それに対応できる人材育成が追い着いていないのが実情ではないだろうか。

しかも、"育てる現場"がなかなか見つからない。とは言え、当面の国内市場を手薄にすることもできず、限られた人材をどう配置するかは経営課題となってきた。そこに留職プログラムの存在意義がある。

「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず」とは、孫子の言葉である。グローバル人材に求められる資質や能力はどのようなものであろうか。語学力や自社商品の理解は当然ながら、交渉力や現地人脈も必要条件であるが、それだけで十分とは言えない。

多様な価値観(ダイバーシティ)を受容し、当地ローカルだけでなくグローバルな社会的課題(ニーズ)に対する感受性が不可欠である。

留職によって培われたグローバルセンスは、翻って「課題先進国」とも言われる日本にも適用できる。その意味で、イノベーティブなグロール人材の育成が期待される。

関連レポート

(2015年3月31日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 上席研究員

注目記事