CEOの内部昇進:研究員の眼

米国企業では、CEOを内部から輩出できる人的資源の厚みがないようでは競争に勝てないという考え方が支配的だという。

「世界のCEOベスト100」というある雑誌の特集によれば、世界的企業のCEO 100人のうち84人が内部昇進であるという(*1)。全体の率にして84%だが、100社のうち国別で最も多い43社を占める米国企業だけを取り出すと91%にまで高まる。

この内部昇進者の定義は「会社内部からCEOに昇進した者」であるため(*2)、CEO昇進の直前に上級執行役員(シニアエグゼクティブ)として入社していた場合まで含まれるから、ほとんどの社長・CEOが新卒入社から昇進する日本とは単純に比較はできない。

ただ、雇用流動性を含めた社会構造の違いはあっても、米国の内部昇進率は思ったより高いという印象を受けるのではないだろうか。

一般に社長・CEOを内部昇進ではなく社外招聘するのは、不景気のときや会社が窮地に立った場合が多い。実際、米国でもここ50年でみると波はあっても相当程度が内部昇格とされ、その割合は足元で高まりつつあるようだ(*3)。

確かにアメリカにはMBA資格を有すプロ経営者のマーケットがあるため、企業は外部招聘という選択肢がある。代わりはいるということが現CEOへの規律付けともなっている面はあるだろう。

しかし、米国企業としてはCEOを内部から輩出できる人的資源の厚みがないようでは競争に勝てないという考え方が支配的であるという。

また、社内者の中から有能なCEO候補者を押さえられていなかったら、取締役が責任を果たせていない恥ずべきことでもあるとされる(*4)。

企業統治改革を進めようとしている日本では、これまで「新卒採用された従業員が社内で職業経験を積み、内部昇格により取締役になる」ことが多く、今は「どうしても社内で蓄積された経験に頼って経営を行う」という課題意識がある(*5)。

しかし、問題は内か外かではない。米国のGEやP&Gといった世界展開するリーディングカンパニーであっても、CEOはエントリーレベルで入社した内部昇進者である。

重要なのは、長期に亘る教育・トレーニングを含めた社長・CEO選出のプロセスが高いレベルで機能しているか否かということだろう。

日本の企業文化や、プロ経営者市場の現状などに即して、社長・CEOは内部昇進を基本としながらも、その選出には外部の知見も取り入れながら、客観性、適時性、透明性のある仕組みにすること、さらに、その仕組みを不断にレベルアップしていくことが求められる。

(*1) "THE BEST-PERFORMING CEOS IN THE WORLD, 2016"Harvard Business Review (November 2016), 「【2016年版】長期主義と短期主義の葛藤 世界のCEOベスト100」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2017年2月号(日本語版)

ランキングは、CEO就任期間の株価パフォーマンスとESGスコアをそれぞれ7:3でウェイト付して算出したもの。日本企業では、永守重信氏(日本電産42位)、柳井正氏(ファーストリテーリング46位)、孫正義氏(ソフトバンク73位)、内藤晴夫氏(エーザイ87位)の4氏がランクインしている。

(*2) 定義については"the insider means promoted from within the company"(米ハーバード・ビジネス・レビュー編集チームへの照会に対する回答)。

(*3) 米国の人材サービス会社、スペンサー・スチュワートがS&P500社を対象として実施した調査によれば、CEOの内部昇進率は2004~2007年は63%であったものが、2012~2015年には74%に上昇している。

(*4) Harvard Business Review「コーポレート・ガバナンス」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2001) P.191

(*5) 経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」平成29年3月31日 P.19

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(2017年4月28日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 主任研究員

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