人間の直感の不確実性-数学的な正しさと乖離している場合があることを知っていますか:研究員の眼

時として、その直感が誤ったものとなっていることがある。

はじめに

人間の直感が非常に役に立つことは理解されるが、時として、この直感が数学的には正しくないことがあることは有名な話である。今回は、そうしたケースを2つ紹介したい。

誕生日のパラドックス

一番有名なのは、「誕生日のパラドックス」と呼ばれているものである。具体的には、「現在1つの部屋にn人の人がいるとする。この時に、誕生日が同じ人がいる確率はいくらか。」という問題である。

あるいは「何人の人がいれば、その中で誕生日が同じ人がいる確率が50%以上になるのか。」という問題である。

これに対する答えについては、一般的に多くの人は、直感的に、相当多くの人数を想定してしまう。極端なことを言えば、365日の1/2の183人が必要だと思う人もかなりいると思われる。

ところが、この答えは23人ということになる。23人の人がいれば、少なくとも誕生日が同じ一組が存在する確率が50%を超えることになる。これは、数学的に極めて簡単に証明できる。

n人の誕生日が全て異なる確率を p(n) とする。

2人目が1人目と異なる誕生日である確率は、364/365。3人目が1人目及び2人目と異なる誕生日である確率は 363/365。同様に4人目は 362/365、...、n人目は (365-n+1)/365 となる。従って、n人の誕生日が全て異なる確率は、以下の通りとなる。

よって、n人の中で同じ誕生日の人が少なくとも2人いる確率 q(n) は、

となり、n=23の場合に、この数値は 0.507 となって、50%を超えることになる。

同じ考え方により、41人の人がいれば、90%以上の確率で、70人の人がいれば、99.9%以上の確率で、誕生日が同じ人がいることになる。これは、直感的には驚くべきことのように思われるのではないか。

いずれにしても、これが「パラドックス」と呼ばれるのは、論理的な矛盾がある、という意味ではなく、あくまでも、一般的な直感に反している、という意味で、このように称されている。

一方で、この数値を100%にするには、当然のことながら、366人(うるう年も考慮すれば、367人)必要ということになる。

これから、わかることは、100%を追求することは極めて難しいということ、わずか0.1%のために5倍以上の人が必要になることになる。似たような例は他でもあると思われる。100%を追求するのはよいことだが、効率性も考慮した対応が、往々にして求められることになる。

誕生日問題

これまでは、部屋の中の誰でもよいので、少なくとも2人の誕生日が一致している確率を述べてきた。これが特定の人が誰か他の人と誕生日が一致している確率となると、極めて低いものになる。

23人の場合にはわずか6%であり、50%を超えるためには、253人いなければならなくなる。さらに、99%以上の確率となるためには、1,679人、99.9%以上の確率となるためには2,518人いなければならない。

即ち、先ほどの、n人の部屋に特定の人と同じ誕生日の人がいる確率 r(n) は、

となる。

実は、この誕生日のパラドックスは情報科学において様々に応用されており、代表的なものでは、ハッシュテーブルというデータ構造におけるテーブルの大きさを決めるのに、誕生日のパラドックスの結果が利用されている。

具体例

因みに、小中学校のクラス(学級)を想定した場合の人数で、誕生日が一致する確率を見てみると、以下の通りとなる。

昔で言えば、40人や50人のクラスも多かったと思うが、この場合には、クラスで同じ誕生日の人が一組はいる確率が9割程度あった。今や平均人数は30人を切っており、20人のクラスではその確率は40%程度になってしまう。

2つのサイコロの目

もう一つ、人間の直感と数学的な正しさが異なってくる簡単な例を紹介する。

サイコロの6つの面に、○が3つ、△が2つ、×が1つ描かれているとする。このサイコロを2つ用意して、同時に転がしたときに、どの2つの印の組み合わせが最も高い確率で現われるのか、という問題である。

直感的には、多くの人が、○の面が一番多いのだから、「○と○」という組み合わせが最も高い確率で現われるのではないか、と考えると思われる。ところが、この直感は間違っている。

非常に簡単なことだが、6×6の全ての36通りの組み合わせを書き出してみると、以下の通りとなる。よって、「○と△」という組み合わせが12通りあって、確率が最も高いことがわかる。「○と○」の組み合わせは9通りとなっている。

もちろん、これは算式でも簡単に示すことができる。「○と○」となる確率は1/4(=3/6×3/6)であり、「○と△」となる確率は1/3(=3/6×2/6+2/6×3/6)となる。

直感力を養うことの重要性

このように、人間の直感は、結構当てにならないことがわかる。

物事を進めていく上で、過去の経験等に基づいた直感を働かせることはもちろん重要なことであるが、時として、その直感が誤ったものとなっていることがある。

こうした直感は、経験を積むことを通じて、感度を高め、磨きをかけていくことが可能だと思われる。

その意味では、いろいろなケースを学ぶことを通じて、知識を充実させていくことが、いざという時に役立つ、適切な直感力を発揮する上でも、重要なことであると、改めて感じさせられる。

【関連レポート】

(2016年9月6日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

取締役 保険研究部 研究理事

注目記事