健康保険を使えないことがあるの?自由診療、混合診療って?-健康保険がカバーする領域 混合診療:基礎研レター

どんな時に使えないのか見てみましょう。
japanese doctor explaining senior patient
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Nikada via Getty Images

知っているようで実はよく知らない健康保険の知識。健康保険は保険証を提示することで、だいたいの病院での治療や処方箋薬に使えますが、中には使えない場合もあります。どんな時に使えないのか見てみましょう。

1――まず健康保険がどのような場合に使えるのか軽くまとめておきます

身体に異常があれば原則としていつでも、健康保険を使って負担を軽くしながら、以下に記載してある医療等を受けることができます。

6歳~69歳の場合で見て、健康保険が支払ってくれる割合は原則7割(患者の自己負担割合は3割)ですが、入院中の食事については1食360円等(2018年3月中、4月からは460円)の患者自己負担とされていますので、健康保険からの支払いが占める割合は小さくなります。

・医師の診察 ・必要な検査 ・治療に必要な薬、材料 ・注射、処置、手術、放射線療法等

・入院 ・医師による訪問診療(医師が認めた場合) ・訪問看護ステーションの看護師による訪問看護

さらに、ご加入の健康保険が「健康保険組合」である場合には、その健康保険組合だけで使用できるものがある場合がありますので、今一度ご確認ください。

2――しかし、以下に掲げる場合には、健康保険を使うことができません

1|そもそも病気やケガの治療と認められない場合には健康保険は使えません

健康保険は病気やケガをしたときの治療に対して使うものとされているので、単なる疲労や肩こりのような、病気やケガとは認められない場合には健康保険は使えません。

ただし同じような疲労や肩こりを対象とするものであっても、身体の異常が疑われ、治療が必要とされる場合には健康保険が使えます。ちょっとややこしいですが、以下に、代表的な健康保険が使えない場合と、それに似ているが健康保険が使える場合などをまとめておきます。

①見た目の向上などを目的とする、整形手術、歯の矯正、近視の手術(レーシック)など

ただし社会通念上治療の必要ありと認められる場合、たとえばケガや火傷の処置のための整形手術、斜視などで労務に支障をきたす場合の矯正手術、視力に異常があって医師の診察を受けたときの診察・検査・めがねの処方箋、口唇裂や他人に著しい不快感を与えるワキガの手術などについては健康保険が使えます。

②予防注射、予防内服など

ただし、ハシカ、破傷風、百日咳、狂犬病の場合に限り、感染の恐れがある時には、健康保険が使えます。

③健康診断、成人病検査、人間ドック等

ただし診断の結果、治療の必要が認められるものについては、健康保険が使えます。

④正常な妊娠・出産

正常な状態での妊娠・出産は、病気とみなされないため、健康保険を使えませんが、別途、健康保険から費用の補助として出産育児一時金の支給を受けることができます。請求を忘れないようにしてください。

また、妊娠中毒症等の異常分娩で、治療を必要とする場合には健康保険を使うことができます。

⑤経済的な理由による人工妊娠中絶

ただし、母体に危険が迫った場合に母体を保護するための人工妊娠中絶は健康保険を使えます。

⑥柔道整復師(整骨院・接骨院)の施術

医師の指示によらない肩こり、腰痛、(スポーツ等による)筋肉疲労等に対する施術には健康保険が使えません。ただし、医師の指示がある骨折、脱臼に対する施術は健康保険が使えます。

2|病気やケガに対する治療であっても、健康保険の制度上、あらかじめ認められた範囲を超える治療、処置、手術等には健康保険は使えません

たとえば、

  • 医学界でまだ有効・適切と認められていない特殊な治療方法や薬の使用などには健康保険は使えません。
  • 厚生労働省が定める『薬価基準』に載っていない薬には健康保険が使えません。
  • 認められた材料ではない材料を使う歯科治療にも健康保険が使えません。
  • 入院時に、一般室ではなく個室等を希望する場合の一般室との室料の差額(差額ベッド代)にも健康保険は使えません。

健康保険は、広く国民全体が公平・平等に利用できるものとする観点から、平均的な処置、治療を前提に制度が組まれています。程度を超えた治療は、贅沢と考えられるということでしょうか。

3|健康保険の目的からはずれるような行動の結果、病気やケガをしたときは、健康保険制度の健全な運営を阻害することになるので、健康保険の使用ができなかったり、使用が制限されたりします

たとえば、

  • 故意に事故(病気・ケガ・死亡など)を起こしたとき
  • ケンカ、酒酔いなどで病気やケガをしたとき
  • 詐欺その他で不正に健康保険を使おうとしたとき
  • 正当な理由もないのに医師(病院)の指示に従わなかったとき
  • 健康保険実施主体の指示する質問や診断を拒んだとき
  • 少年院や刑事施設・留置場などにいるとき

4|そもそも健康保険ではなく、他の制度が使われることになっている場合もあります

(1)業務上の原因による病気やケガ、通勤途中に被った災害などが原因の病気やケガの場合

原則として労災保険が使われますので健康保険は使えません。勤務先に連絡し労災保険の手続きを取ってください。

(2)交通事故、傷害事件、他人の飼い犬に手を噛まれた等、第三者により損害を与えられた場合の治療費は、本来、加害者(第三者)側が負担すべきとされていますので、まずはすみやかに健康保険の実施主体に連絡をとってください

このような場合でも、被害者は健康保険の実施主体に「第三者の行為による傷病届」等を提出することにより、健康保険を使った治療を受けることができます。これにより治療に必要な医療費を立て替えた形になる健康保険の実施主体は、その後、加害者側に損害賠償の請求を行います。

3――自由診療、混合診療、保険外併用療養費制度って何?

以上、健康保険が使えない場合について見てきましたが、あえて健康保険の使用が認められない高度な治療や材料を使うことを選ぶ人もいますよね。健康保険ではまだ認められていない最先端の治療を受けたいという時もあるかもしれません。

先に説明した内容と少し重複しますが、ここでは、1つの病気やケガについて、健康保険が使える診療と健康保険が使えない診療をあわせて受ける場合という切り口から、整理してみたいと思います。

1|自由診療

健康保険を使わない診療を自由診療と言います。自由診療では、健康保険の対象となっていない新薬や最先端の治療を受けることができますが、診療費は全額、患者が自己負担しなければなりません。

2|混合診療の禁止

健康保険が使えない最先端の治療と健康保険が使える一般的な治療をあわせて受けたいこともあるかもしれません。これは混合診療と言いますが、健康保険制度では、健康保険を使用する診療と、自由診療を、あわせて受けることは認められていません。

一部にでも自由診療を含むと、医療処置全体が健康保険を使えないこととなって、患者が医療費を全額自己負担しなくてはならないのが原則です。

3|保険外併用療養費制度

ただし混合診療の禁止の例外として、保険外併用療養費制度が設けられています。

これは、健康保険が使えない診療であっても、「評価療養」、「患者申出療養」、「選定療養」として厚生労働大臣の定めるものについては、①通常なら健康保険が使える基礎的な診療部分(診察・検査・投薬・入院料等)には健康保険を使い、②健康保険が使えない部分については患者が全額自己負担することを認めるものです。

保険外併用療養費制度の対象としては以下のようなものがあります。

【評価療養】 将来、健康保険の対象とすることの是非の評価を行うもの

先進医療(高度医療を含む)

医薬品や医療機器の治験に係る診療

薬事法承認後で健康保険の使用が認められる前の医薬品や医療機器の使用

健康保険の対象である医薬品や医療機器の適応外使用

【患者申出療養】 将来、健康保険の対象とすることの是非の評価を行うもの

患者が未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいとの申出を行い認められたもの。

【選定療養】 将来にわたって健康保険使用の対象とはならないもの

特別の療養環境(差額ベッド) 歯科の金合金、金属床総義歯等

一定の基準を満たす予約診療についての予約料 一定の要件に該当する時間外診療の診療費

紹介状なしで特定の大病院を受診する場合の初診・再診時の定額負担

小児の虫歯の指導管理 180日以上の入院 制限回数を超える医療行為

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(2018年3月1日「基礎研レター」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

保険研究部 主任研究員

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