人手不足が変える日本経済~働き方の変革が必要に:エコノミストの眼

働き手減少の中でこれまで以上成果をあげるために、職場で働き方の抜本的な改革が必要になるだろう。

売り手市場の新卒採用

近年の日本経済は、これまでの経験からは予想できない動きをするようになった。例えば、景気が悪くなれば求人が減って失業者が増え、雇用問題が悪化するのが、普通の経済の動きだ。

しかし2012年の春頃から年末にかけて景気は悪化したが、失業率の低下傾向と有効求人倍率の上昇傾向が続き、雇用の面ではむしろ人手不足の様相を強めていった。

このような日本経済の反応には、人口構造が変わってきたことで引き起こされたと考えられるものがいくつかある。

景気悪化でも失業者が増えたりしないのは、団塊の世代が65歳となって年金生活に入り、代わりに若い世代が働き始めたことで、働く世代の人口が急速に減っているからだ。

日本企業の伝統的な人員調整のやり方は、定年退職者に対してどれくらい新卒者を採用するかという比率を調整することだった。

1990年代末頃からは日本企業も希望退職を募るなど、より機動的な雇用調整を行うようになったが、それでもいまだに定年退職と新卒採用は主要な調整方法だ。

バブル崩壊後に企業が過剰雇用に苦しむようになると、大学・高校の卒業者が就職先を見つけることが難しくなった。「就職氷河期」とまで言われたのはついこの間のことだったが、昨今の新卒採用は著しい売り手市場である。

円安で増えない輸出

日本経済は貿易面でも予想外の展開を見せた。2012年末にアベノミクスが始動し、第一の矢によって大胆な金融緩和へと舵が切られたことで、為替レートはそれまでの1ドル70円台から2015年8月には125円近くにまで下落した。

過去の円安局面では円安が起こってから少し時間がたつと、日本の輸出は大きく増加するのが通例だった。しかし今回は、輸出数量はほとんど横ばいで推移している。

もしも円安にならなかったとすれば、生産拠点の海外移転が進み、もっと輸出数量は減少していただろうから、円安に輸出を押し上げる効果があったのは確実だ。

しかし、これほど大幅な円安が起こったにもかかわらず輸出数量が横ばいにとどまっていることは、筆者も含めて多くのエコノミストにとって予想外だった。

日本の企業経営は、売上高を重視するものから利益額や利益率を重視するものに変わってきたと言われている(*1)。

輸出企業の戦略は、円安を利用して現地価格を引き下げ、販売数量を増やすという行動から、現地の販売価格を据え置いて為替差益を享受するというものに大きく変わっている。

こうした企業経営の変化には、海外投資家の株式保有比率の上昇など様々な要因が働いているが、日本の人口構造の変化も一つの要因だと考えられる。

求められる働き方の変革

高度成長期を通じて、日本企業は農村から都市部へと流入する豊富な労働力を使って、大量生産をすることで成長した。

しかし、生産年齢人口は1995年頃から減少に転じている。これまでは日本経済の低迷のために、働き手の減少という問題が顕在化しなかっただけだ。

これからも国内の生産年齢人口は減少し続けることを考えれば、企業の戦略も大きな転換を求められる。安くて豊富な労働力を使った薄利多売という戦略は難しくなっていくということが、先ほどの円安にも関わらず輸出が伸びなかったことの背景になっているだろう。

あらゆるところで細部にこだわるのは日本企業の特徴で、それが強みである。しかし、人手不足が深刻になれば今までと同じようなやり方では、こだわりを維持すること自体が難しくなる。どうしても譲れないこだわりを守るためには、あきらめる部分を決断することが必要になる。

2020年のオリンピック・パラリンピックを控えて、「おもてなし」が日本のサービス業のキーワードの一つになっている。豊富な労働力があれば、一人一人の従業員が細やかな心配りをすることで優れたおもてなしができた。

労働力不足の経済では、海外からの観光客の満足度を左右する部分に焦点を当てるなどの取捨選択を迫られることになる。

もっと少ない人数でこれまで以上の成果をあげるために、個々の職場で働き方の抜本的な改革が必要になるだろう。

(*1)森川 正之(2012)「日本企業の構造変化:経営戦略・内部組織・企業行動」RIETI Discussion Paper Series 12-J-017

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(2015年9月30日「エコノミストの眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 専務理事

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