データが示す「ニッポンの母の就業の現状」とその問題点-「働く母」の活躍の道はどのように開かれるのか:研究員の眼

日本において20代で母親になる、ということは「2人に1人が仕事をもっていない」という状況を編み出すのか...

【はじめに】

6月2日に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において「三本の矢」とされる中心となる政策の柱の2本目である「夢をつむぐ子育て支援」。

子どもをもつかどうかは全く個人の自由である。そうではあるものの、子をもつことを希望する人々が、安心して夢を叶えることが可能な社会の実現を目指す政策は必要であり、この「夢をつむぐ子育て支援」は、子を持つ夢が叶った結果としての「希望出生率1.8」を達成しようというものである。

「夢をつむぐ子育て支援」の具体的な取り組みの一つに「女性活躍」が掲げられている。

仕事に専念したい女性は言うまでもなく、妊娠・出産・子育てとともに仕事を続けたいとする女性の夢を叶える女性活躍政策は、一個人のミクロの利益と企業利益や国益というマクロの利益をつなぐ、重要な政策となる。

そしてこの女性活躍には、子を持ちたいと願う男女に「次世代育成か仕事か」の二者択一を迫るような社会からの脱却が必要不可欠となっている。

「次世代育成か仕事か」二者択一社会からの脱却は、当然ながらこれから結婚を考える男女にとっても「一馬力に頼らない二馬力家庭」への移行や意識改革を促すものであり、結婚に伴う経済的な問題への不安に希望を与え、結婚支援策ともなる重要施策である。

本稿では、次世代育成と仕事の二者択一を迫るこれまでの日本の状況のうち、特に女性にかかる部分に焦点をあてる。

「子どもを持つ」という選択をした女性が、日本において一体どのような就業、または不就業状況にあるのかを国のデータによって示し、そこから浮かび上がる課題について指摘したい。

【そもそもニッポンの母は仕事を有しているのだろうか】

日本の2015年における平均第1子出産年齢が30.8歳であるため、子育ての中心世代と推定される30代女性。この労働力率が大きく低下する女性労働力率のM字カーブをいまだ維持し続けている日本。先進国では珍しい労働力率状況をいまだ維持している。

そこでまずは18歳未満の子を持つ女性、「お母さんの仕事の有無」について、国のデータから確認しておきたい。

調査対象となった子どもを持つ女性約1万2千人のうち、仕事を有している女性は68%であった(図表1)。この数値だけからは、「日本のお母さんは7割働いているのか」という感想を一般的には持つかもしれない。

しかしこれを年齢階層別にみてゆくと、データから受ける印象は随分と異なってくる。

母親が20代後半の場合、仕事を有している割合は約5割にまで急落する。平均から16ポイントもの下落である。20代前半以下の年齢ではさらに仕事を有している割合が減少する。

つまり、ニッポンの母は7割働いているが、

「母親が20代の場合、約半分の女性が仕事を有していない」状況が浮き彫りになる。

総数として約7割の母親が就業しているという状況は、主に子を持つ35歳以降の女性からの状況であることに注意が必要である。

このことから、本人の意思であるのか、社会環境であるのかは別として、日本において20代で母親になる、ということは「2人に1人が仕事をもっていない」という状況とセットとなっていることを確認しておきたい。

このように若くして母になった女性の方が仕事についていない状況は、残念ながら20代の女性、その夫またはその恋人に

「結婚して子どもができたら(彼女は)仕事をやめなければならないのか」

「ならば結婚はもう少し先延ばしにしてお金をためよう・キャリアを磨こう」

「子どもをもつのはもう少し先にしよう」

などと考えざるをえない状況を生み出しているともいえるであろう。

【ニッポンの母の仕事は、安定した仕事といえるのだろうか】

次に、日本の子をもつ女性が果たして安定した仕事を持つことができているのか、についてデータを確認しておきたい。

総数でみると、約4割の母親が正規の仕事を有している一方で、半数を超える約6割の女性が非正規の仕事を有しているという状況である。

図表2からも明らかなように、母の年齢が上がるほど非正規の割合が上昇してゆく。45歳を超えると約7割が非正規の仕事に従事しているという状況になる。

子の食費や教育費は一般的には年齢とともに上がっていくと考えられるため、このような状況は少なくとも母だけの経済力から考えれば、あまり望ましくない状況であるといえる。女性活躍の観点からも問題であると思われる。

以上、結論として、

「ニッポンの母は若くして母になるほど仕事をもちにくく、またその仕事上の地位は大半が安定したものとは言えない」

という状況である。

【いわゆる「パート主婦」のあり方の見直しが「子を持つ女性活躍」の第一歩】

非正規の仕事といってもその就業形態はいくつか存在する。では、ニッポンの母は一体どのような形態の非正規の仕事に従事しているのだろうか。

図表3を見ると、非正規の仕事に従事している母の実に79%がパートタイムの仕事である。俗に言う「パート主婦」が主流となっている。「パートのお母さんが多い」という感覚は正解である。

つまり、子を持つ女性の就業希望者の就業継続(女性活躍)問題は2つあることになる。

①「仕事をしたいがパートタイムも育児のために難しい」状況からの脱却

②「育児中は働き方があわず、正規社員の仕事が選びにくい」状況からの脱却、である。

①②いずれにしても、母以外の育児担当者がいない限り、達成することは難しい。そのため、保育拡充、男性の働き方の見直しが重要な意味を持っている。

しかしこれだけでは、①の状態にある女性が仕事をもてる状況へ移行することは可能になっても、②のような短時間・短日(週3日など)といった時間制限的勤務と育児を両立させたい女性が勤続年数による給与の上昇が見込めない、すなわち「経済的に頭打ちの地位のまま」であることにはかわりがない、ことに注意したい。

以上から、子を持つ女性の活躍のためには、保育拡充・男性の働き方の見直しとともに、「パート主婦」の地位の是正が望まれるのである。

EU諸国に見られるパートタイムとフルタイムは単純な「時間の長短差」であり、フルタイムとパートタイムの選択に雇用不安的な要素が絡まない仕組みとなっている。ちなみに、日本でも北欧家具のイケアなどがこの「単純な時間差」の労働制度を採用している。

子も持つ女性の活躍推進は、その女性が受け持つ子育てそのものと同じく、決して金太郎飴的なものとなってはならない。

「多様な子育て」への支援が、女性の子育てインセンティブ向上には必要となってくる。そのためにはやはり、多くの母が「パート主婦」という経済的に不利な地位にいまだあるという現状の解消は喫緊の課題である、と痛感させられるデータといえよう。

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(2016年10月17日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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