借り上げ仮設住宅に求められるコミュニティの視点-熊本地震を機にコミュニティを育む賃貸住宅の普及を:研究員の眼

地震活動の収束見通しが立たない現状では、応急仮設住宅建設のための安全な場所を見出すことさえ困難だと思われる。

熊本県熊本地方を震源にした熊本地震は、発生以降震度5弱を超える地震が頻発し、震源域も阿蘇地方や大分県中部地方へと拡大したことから、被害も広域に及んでいる。

消防庁の発表(*1)では、熊本、大分、福岡、宮崎の4県合計で、住家の全壊952棟、半壊1,279棟、一部破損1,089棟に至っている。また、報道機関の調べ(*2)によると、避難者の数は12万8,000人に及んでいるということである。

こうした状況から、ライフラインの復旧と共に、一刻も早く安全な場所での住まいの確保が必要とされる。しかし、地震活動の収束見通しが立たない現状では、応急仮設住宅建設のための安全な場所を見出すことさえ困難だと思われる。

したがって、このような状況が長期化すれば、被災地を一時的に離れることも選択肢の一つになってくるのではないか。

そこで活用が期待されるのが、借り上げ仮設住宅である。都道府県などが民間賃貸住宅などを借り上げ、応急仮設住宅に準じるものとして被災者に提供する制度で、都道府県を越えて避難した場合でも適用できる。

東日本大震災において応急仮設住宅建設用地の確保が難航する中で対策が進められ、今も被災者の避難生活を支えている。

ただし、問題点もいくつか指摘されており、その一つに入居者の孤立がある。住み慣れた地域を個別に離れ、なじみのない土地で避難生活を送ることから、周囲の人々と交流する機会も限られ、孤立感を深めるというものだ。

もともとアパート、マンション形式の民間賃貸住宅は、入居者同士の交流を促すような造りになっていないのが一般的である。よほど親しい知り合いでなければ、入居者同士敷地内で顔を合わせても会釈する程度で、それ以上の交流が生じることはまれである。

若い人や頼れる親族がいる場合はよいが、ひとりのみ世帯、高齢者のみ世帯などでは、避難先で孤立するという望ましくないケースが想定される。

そうした状況を避けるためには、被災者を地域コミュニティで受け入れる視点が重要である。単に賃貸住宅オーナーが借り上げに応じるだけでなく、オーナーと地域が連携して、入居する被災者と地域住民が交流する機会を設けるといった地域ぐるみの取り組みが必要だ。

また、コミュニティ型の賃貸住宅を積極的に借り上げることも重要であろう。入居者同士日頃からゆるやかに交流していて、かつ外に開かれたコミュニティであれば、被災者も溶け込みやすいはずだ。

しかし、現状でコミュニティ型賃貸住宅の数は多くはない。現在のような一刻を争う状況では困難だが、今後、借り上げ仮設住宅の対象になる民間賃貸住宅を、コミュニティ型に変えていくことに力を入れていくべきであろう。

東日本大震災では、新規整備されたプレハブ型の応急仮設住宅において、コミュニティを育む取り組みが様々に試みられ、入居する被災者同士の交流を生み出した。阪神・淡路大震災で、応急仮設住宅入居者の孤独死が多発した教訓を生かしたものだ。

今回の熊本地震を機に、東日本大震災での経験を生かし、借り上げ仮設住宅として活用される民間賃貸住宅にも、さらに幅広くコミュニティを育む仕組みが取り入れられていくことを切に望みたい。

関連レポート

(*1) 2016年4月19日6時45分発表

(*2) 2016年4月19日午前6時現在のNHKのまとめ

(2016年4月19日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

社会研究部 准主任研究員

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