生涯未婚率と「持ち家」の関係性-少子化社会データ再考:「家」がもたらす意外な効果:研究員の眼

都道府県別の持ち家比率と男女別の生涯未婚率との関係性の強さをもとめるため、相関分析を行った。

【はじめに】

6月の研究員の眼では、日本において生涯未婚率 が着々と上昇している、というデータを示した。

2010年の国の調査においては、男性の5人に1人、女性の10人に1人が生涯未婚のままである可能性が高い、というデータである。

婚外子比率が2パーセント台である日本においては、結婚というステップを経て子どもが生まれている。そうであるならば、未婚化(特に女性)は少子化にシャープに影響を及ぼすこととなる。

進行する未婚化に強い影響がある要因を探ることは、少子化対策として必要不可欠である。

そこで本稿では、国が提供している都道府県別の大規模データを用い、少子化の前段階にある未婚化に焦点をあてて要因分析を行った。

その結果、一つ特に注目すべき結果が見られたのでご紹介をしたい。

【都道府県別 生涯未婚率の状況】

まず各都道府県の生涯未婚率の全体像を見ておきたい。

図表1は2010年における各都道府県の生涯未婚率について男女別ランキングを作成したものである。(1)は生涯未婚率が低い、すなわち、結婚経験者が多い都道府県10エリアである。一方、(2)は結婚経験者が少ない10エリアとなっている。

結婚経験者が多いエリアを見ると多少男女で異なるものの、福井・滋賀・富山・岐阜・三重・石川の6県が男女ともにおいて、上位10エリアに入っている。

結婚経験者が少ないエリアとしては、東京・沖縄・高知・神奈川の1都3県が男女ともランクインしている。

以上の情報からだけでも、ある特徴がみられる。図表2は結婚経験者が男女とも多い上記6県を日本地図上で表したものである。

赤色の円で男女とも生涯未婚率の低いエリアにマークしたものだが、丁度日本列島を東西に分ける北陸から関西にかけてのタテのエリアにわかりやすく集中している。

このことは何を示しているのだろうか。

【低未婚率をもたらす要因は何か】

少子化対策に関して、昨年特徴的な動きが生じた。厚生労働省がこのほど発表した2015年の都道府県別合計特殊出生率で、島根県が大きく出生率を伸ばしたのである。

島根県は2014年の1.66から1.80へと0.14も合計特殊出生率を上昇させ、出生率上昇ポイントが2位の徳島や鳥取の0.09を引き離して上昇ポイント1位となった(図表3)。

島根県でなぜこれだけの出生率上昇が起こったのか。

一つの要因として考えられるのが、同県が2010年以降、特に力を入れている住宅政策である。人口減少を食い止めるため、Uターン、Iターンの増加を目指し、3世代同居世帯への補助金、お試し住宅政策などを展開し、若い世帯の島根への誘致に積極的に取り組んだ。

島根県が大阪、広島、東京の3都市で開催した2015年の「U・Iターンフェア」には、過去最多1280人が参加している。このフェアは2010年から開始されており、昨年は2014年に続く最多記録更新であった。

同県の継続的な住宅政策強化による若い世帯の同県への誘致が出生率に寄与したとの仮説のもと、生涯未婚率にも同じく何らかの寄与があるのではないか、との観点から都道府県別の住宅取得のしやすさの目安となる持ち家比率の状況と生涯未婚率との相関分析を行ってみることとした。

以下が、その分析結果である。

【持ち家比率と生涯未婚率―結婚してマイホームをもてるのか―】

持ち家比率を算出するために、総務省統計局の「社会生活統計指標(2016)」のデータを利用し、同データ中の(持ち家数)/(居住世帯あり住宅数)で持ち家比率を算出した。

この都道府県別の持ち家比率と男女別の生涯未婚率との関係性の強さをもとめるため、相関分析を行った。

その結果、非常に興味深い結果を得ることが出来た。

図表4は都道府県別の持ち家比率と「女性の生涯未婚率」の分散図である。図表からもわかるように、非常に綺麗な負の相関関係がみられる。

両者の相関係数は実に-0.83もあり、両者に強い関係性があることを示している。勿論、男女とも未婚率の低い6県(図表2)も、持ち家比率が全国平均よりも9%から18%も高い状況となっている。

つまり、日本においては、持ち家比率の高いエリア(都道府県)ほど、女性の生涯未婚率は低くなる傾向がとても強い、という結果である。

相関関係は双方向の関係性を示すため、女性の生涯未婚率が低いエリアほど、持ち家比率が高くなる、ということも可能である。

ちなみに男性の生涯未婚率と持ち家比率の相関係数は-0.51であり、女性ほど強い相関ではないが、「負の相関関係はある」(持ち家比率が高いほど未婚率が低い)ということが出来る値であった。

確かに女性の結婚経験者が多いエリアでは、そもそも「結婚したらマイホームをもちたいだろうから、未婚率が低いエリアで持ち家比率が高くなるのは当たり前では?」という見方もできなくはない。

しかし、例えばそれが大都市圏であれば、マイホームを建てようと思っても人口過密であるため、まずそう簡単に希望の広さの土地や建物を確保することは難しい。

その上、希望のマイホーム物件がみつかったとしても、都市部は不動産価格が非常に高いため、それを簡単に入手できるとは限らない。

そう考えると、「結婚後にマイホームで暮らすという希望が簡単にかないそうな」地方エリアでは、女性が求婚された際や、既に交際相手がいる場合に、結婚に乗り気になりやすい、と考える方が自然であるのではないだろうか。

一方、大都市エリアでは、女性が求婚されたり、交際相手がいたりする場合でも、結婚後の住宅事情が結婚を決意する障害となっている可能性が小さくないのではないかと考えられる。

妊娠出産を男性よりも肉体的に身近にとらえる女性側に、より強く「結婚後、快適な持ち家が簡単に得られるかどうか」が、(交際ではなく)結婚の決定誘因とされているのかもしれない。

【やはり結婚=マイホーム(特に女性)】

今回の分析において、未婚率がそのエリアの持ち家取得状況と関係性を持っていること、特に女性において強い関係性があることが判明した。

このことは、日本における未婚化対策、そして少子化対策、さらに地方振興策として重要視するに値する関係性ではないかと思われる 。

島根県のU・Iターン誘致政策ではないが、「住めば都」である。

そして何より、「コウノトリの飛来はまずはカップルの巣作りから」なのではないだろうか。

若いカップルが暮らしたいと思うような住宅の積極的な提供・宣伝は、これからの地域の出生率上昇のためのキーワードとなるのではないだろうか。

【関連レポート】

(*1) 調査時点において50歳である男女で1度も結婚経験がない者の割合。

(*2) 非常に限られた範囲の調査でではあるが、図表2の6県の出身者に、未婚率が低い理由は何であると思うか、筆者がインタビューした際にも「家が持ちやすいからではないか」という意見は必ずあがっていた。

(2016年7月11日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

生活研究部 研究員

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