ネイピア数eについて(2)-ネイピア数は身近な数学的な問題の中でどのように現われてくるのか:研究員の眼

確率・統計の世界においては、ネイピア数は無くてはならないものである。
Abstract random numbers 0-9, computer big data concept
Abstract random numbers 0-9, computer big data concept
LagartoFilm via Getty Images

はじめに

前回の研究員の眼では「ネイピア数(Napier's constant)」について、「それがどんな意味を有しているのか」について、その定義に基づいて説明した。

今回は、この「ネイピア数」が「我々の身近な数学的な問題の中でどのように現われてくるのか」について、紹介する。

ネイピア数(の逆数)が現れる世界(その1)-1/nの確率で当たるくじ-

1/nの確率で当たるくじを考える。これをn回引いた場合に少なくとも1回は当たる確率はいくらになるだろうか。これを聞くと、多くの人は、nがそれなりに大きければそれはかなり1に近い確率になるのではないかと思ってしまうだろう。ところが、実際にはそんなには甘くはない。

1/nの確率で当たるくじをn回引いて、n回とも当たらない確率は、

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となる。この値は

n=2 の時は、 (1-1/2)=0.25

n=3 の時は、 (1-1/3)=0.296296

n=4 の時は、 (1-1/4)=0.316406

n=5 の時は、 (1-1/5)=0.32768

n=10 の時は、 (1-1/10)=0.348678

n=100 の時は、 (1-1/100)=0.366032

といような感じで、nが大きくなると徐々に大きくなっていく。

人間の感覚からすると、nが大きくなると、さすがにn回引いてn回とも当たらない確率は、小さくなっていくのではないか、と思われるかもしれないが、実際は逆である。

それでは、この値はnとともに限りなく大きくなっていくのかというと、そうではない。

前回の研究員の眼でも述べたように、この値はn を限りなく大きくしていった場合に1/e(ネイピア数の逆数)に収束していくことになる。即ち、この確率は、

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に収束していくことになる。

さて、この値については、既にお気付きの方もおられるかもしれないが、以前の研究員の眼でも何回か出てきた。

ネイピア数(の逆数)が現れる世界(その2)-2つのトランプのカードが一致する確率-

まずは、研究員の眼「出会い(マッチング)の確率-世の中の各種事象において、出会い(マッチング)が起こる確率は、結構高いってこと知っていますか-」(2016.10.17)において出てきた。

XとYという2人がトランプのカードを、A(エース)からK(キング)まで、それぞれ1枚ずつ、合計13枚ずつ持っているとする。それぞれが1枚ずつ一緒に机の上に出しながら、「カード合わせ」を行うとする。同じ数のカードが同時に出た場合に「出会い(マッチング)」が起こったとする。13枚を全て出し尽くした時、「出会いが一度も起こらない確率」はいくらか、という問題を考えた。

これは、1708年にフランスの数学者ピエール・モンモール(Pierre Raymond de Montmort)によって提出された。この問題は、スイスの著名な数学者のレオンハルト・オイラー(Leonhard Euler)によって解決されている。答えは、約37%の確率で「出会いが一度も起こらない」ということになる。

なお、カードの枚数をn枚とし、nを十分大きくしていった場合には、この確率は1/e (ネイピア数の逆数)に収束していくことになる。

もう少し詳しい内容は、上記の研究員の眼を参照していただくことにして、まさに、(その1)とは異なる事象の確率が、nを十分大きくしていった場合には、同様の結論を生み出す形になっている。

ネイピア数(の逆数)が現れる世界(その3)-秘書問題

さらに、研究員の眼「ベスト・ベターな秘書をどうやって選んだらよいのか-「秘書問題」で効率的な選択を実現する-」(2016.6.20)でも出てきた。

秘書を採用することを考える。n人の応募者のうち、r人の応募者と面接した時、順位が1位の応募者が採用できる確率を P(r) とした場合、P(r)の最大値については、nが大きくなるにつれて減少し、「nが無限大に近づくと 1/eに収束する。」ことが証明されている。

ネイピア数(の逆数)が現れる世界(その4)-正規分布やポアソン分布

確率・統計の世界で、ご覧になられる機会も多いと思われる、いわゆる左右対称なつりがね状の曲線で表される「正規分布」の確率密度関数は、平均μ、分散σの場合、以下のようにネイピア数eを用いて表現される。

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また、きわめてまれな現象 (非常に発生確率の小さい偶然現象) を,比較的広い範囲で長時間にわたって観測するときみられる分布である「ポアソン分布」と呼ばれる発生確率の分布においても、ネイピア数が出てくる。

ある事柄をn回行った場合に、ある事象が起こる確率をpとして、λ=np が一定とした場合に、この事象が起こる回数をXとした場合に、X=kとなる確率P(X=k)は、nを大きくしていった場合に、以下の式で表される。

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このように、確率・統計の世界においては、ネイピア数は無くてはならないものである。

微分・積分の世界でもネイピア数が重要な数学定数であることは、前回の研究員の眼でご紹介したとおりである。

とりあえず

今回は、ネイピア数eが、我々の身近な数学的な問題の中でどのように現われてくるのかについての例をいくつか紹介した。ネイピア数は数学の世界において、幅広い場面で使用され、極めて重要な役割を果たしている。まさに、「自然対数の底」と呼ばれるように、数学の世界において、自然に現われ、自然に使用されているものである。

次回の研究員の眼では、実際の社会における自然現象等の表現や分析において、ネイピア数がどのように現れてくるのかについて紹介することとしたい。

関連レポート

(2018年5月8日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

常務取締役 保険研究部 研究理事

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