確率は、0から1までの値で、ある事象の起こりやすさを表している。
高校での数学のテストなどでは、コインや、サイコロや、トランプなどを使った、確率に関する問題が出される。
しかし、確率は、起こりやすさ、という目には見えないものを扱うが故の、とらえにくさを秘めている。そのため、数学の中で、確率が難しくて苦手だと感じる生徒は、多いかもしれない。
確率が難しいと感じる一因として、一見、簡単そうに見える問題が、意外な一面を見せることが挙げられる。例えば、次の、2人のこどもの問題を見てみよう。
この問題は、慌てていると、次のように答えてしまいがちだ。
「2人のこどものうち、1人が男の子だろうが、女の子だろうが、もう1人の性別に、関係はないはずだ。問題文の1行目は、単に、回答者を混乱させようとして、無意味な条件をつけているのに違いない。男の子と、女の子の生れる確率は同じだというのだから、もう1人が男の子である確率は、2分の1だ。」
しかし、少し冷静になると、次のように正しい答えが見えてくる。
「2人のこどもがいる、というのだから、その性別のパターンは、『兄弟』『兄妹』『姉弟』『姉妹』の4つしかない。男の子と、女の子の生まれる確率は同じ、としているから、これらのパターンは均等に現れるはずだ。2人のうち、1人が男の子だとわかったのだから、『姉妹』ということはあり得ない。残る3つのパターンのうち、もう1人も男の子となるのは、『兄弟』だけだ。従って、もう1人も男の子である確率は、3分の1。」
実は、この問題には、1人が男の子とわかったときに、もう1人も男の子である確率、という言い回しに、巧妙な仕掛けがある。
性別が男とわかった1人目が、上の子か、下の子かを、敢えて明らかにしないことによって、『兄弟』『兄妹』『姉弟』の3つのパターンの可能性を残している。
例えば、問題文を、上の子が男の子とわかったときに、下の子も男の子である確率、を問うものにすれば、『兄弟』『兄妹』のいずれかとなり、答えは2分の1になる。
こう見ると、確率の問題というより、文章の読解力を問う、国語の問題のようでもある。
次に、2枚取り出したトランプの問題を見てみよう。
この問題は、うっかりすると、次のように答えてしまうかもしれない。
「最初に1枚取り出して、箱に入れておいたカードが、その後に取り出したカードによって変わることはない。52枚のトランプのうち、ハートは13枚だから、箱に入れておいた最初のカードが、ハートである確率は、52分の13、つまり4分の1だ。」
しかし、これも、冷静に問題を読んでみると、正しい答えが浮かんでくる。
「最初に取り出したカードと、(2枚を取り出した後の)残り50枚のカードの、合計51枚のカードは、中身が何であるかが、わかっていない。最初に取り出したカードは、このわかっていない51枚の中の1枚ということになる。2枚目に取り出したカードが、ハートだったというのだから、この51枚の中には、ハートのカードは12枚しかない。従って、箱に入れておいた最初のカードも、ハートである確率は、51分の12。」
この問題では、最初に取り出したカードの中身が、その次に取り出したカードの中身によって、影響を受ける訳ではない。
しかし、最初に取り出したカードがハートである確率の値は、その次に取り出したカードの情報によって変化する。
これが、この問題のポイントとなる。例えば、もし、2枚目に取り出したカードが、ハート以外であったとすれば、箱に入れておいた最初のカードが、ハートである確率は、51分の13ということになる。
このように、確率は、与えられた情報が少し違っていたり、追加情報があったりすると、変化することがある。通常、ビジネスの世界では、様々な情報が、頻繁にやり取りされている。
企業の経営者が、その情報をもとに、今後、進めるべき事業展開や、投資、事業撤退などの決断を下すこともある。
その際、情報を伝える側も、受け取る側も、そのわずかな違いや、追加情報の有無が、確率の値に影響を与えることがあるということを、知っておくべきだと思われるが、いかがだろうか。
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(2016年6月6日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
保険研究部 主任研究員