東京の企業や自治体、住民が危機感を共有し、様々なアイデアを出し協働することにより、東京が地方からの若者の流入に頼らない自立した経済成長を達成することこそが、地方と東京の「プラスサム」の実現といえるのではないでしょうか。
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地方創生による東京と地方の「プラスサム」の実現を

11月21日に地方創生関連2法案(*1)が国会を通過しました。

この法律を受けて、12月27日には人口減少の抑制や東京一極集中の是正に向けた長期ビジョン「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、地方創生の今後5年間の計画を示す総合戦略「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定されました。

総合戦略では2020年に、東京圏から地方への転出者数を13年比で4万人増加させ41万人に、東京圏への地方からの転入者数を6万人減少させ41万人とする目標を掲げています。つまり、東京圏の転入超過数を約10万人から0人へと大幅に減少・均衡させることが目標となっています。

同時に閣議決定された緊急経済対策は「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」と名づけられており、危機感が高まっている「地方の消滅」を回避するためにも、今後、地方企業の競争力強化のほか、東京圏からの本社機能や人材の地方移転を促進する法人税優遇策や人材の斡旋事業など、様々な施策が具体化されると報道されています。

安倍政権の成長戦略である「日本再興戦略」は当初、厳しい財政制約のもと、国家戦略特区を核とした東京等への集中投資により、東京等のグローバル競争力を強化することで日本の経済を牽引し、日本経済を回復に向かわせようとするものと私は理解していました。

しかし、地方創生関連2法案の成立を契機に、日本経済の振興施策の中心は東京一極集中の是正と地方創生に移り、東京圏と地方圏の若者の転出入を均衡させ、地方の成長を達成することへと最大の目標が移行したように感じています。

住民基本台帳人口移動報告によると、2013年の東京都の転入超過数は7万人で東京圏全体の7割を占めています。このため東京圏の転入超過数の均衡は、東京都の転入超過数の均衡が前提になります。その東京都では、長らく地方からの若者の流入によって人口規模や経済の活力を維持してきました。

「東京都の人口」によると、2013年中の東京都の人口増加7万人のうち自然増は△26人の減少、社会増は6万8千人の増加でした(*2)。つまり、東京都の転入超過数が0人になると、前年比での人口は横ばいとなります。

しかも、図表にあるように、7万人の社会増(日本人の社会増)は、近年では最も多い水準にあるため、今後、政策により東京への純流入が現在より7万人減少すると、東京からの転入超過数が減少(東京からの純流出)となる年が多くなると予想されます。

現在、東京都で自然増がほぼ拮抗しているのは、外国人の自然増が日本人の自然減を相殺していることと(*3)、人口規模の大きい団塊ジュニア世代などの出産が続いているためですが、今後、自然増の減少も拡大すると思われるので、東京の人口減少が拡大する可能性があります。

「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、地方創生は日本の創生であり、地方と東京圏がパイを奪い合う「ゼロサム」ではないと書かれていますが、例えば日本の18歳人口は122万9千人(2013年10月)であり、若者人口がどこで働くかという問題に関しては、東京と地方の間でゼロサムであることは否定できません。

2013年の東京都の転入超過数のうち18歳から25歳は6万3千人で90%を占めています。今回の総合戦略が目標としているのは、これら18歳から25歳の東京都への転入超過数をゼロにすることなのです。

このように、地方創生は東京の若者の減少を目指すものです。わたしの専門である不動産分野に関していえば、東京における賃貸マンション需要の減少や、2016年から2018年にかけて計画されている都心部での大量のオフィス供給に対する需要不足の可能性に直結します。また、若年層の流入の減少は、東京での高齢化比率の加速にもつながるでしょう。

東京一極集中の是正と地方の活力回復を目指した地方創生施策が進展する中で、東京がグローバル競争に勝ち残るためには、これまでのような地方からの若者の流入への依存から脱し、新たな社会経済構造をすぐに構築しなければなりません。

特に出生率の向上は、東京が中期的に自立した成長をするための最重要課題と感じます。

地方創生により若者の地方からの純流入がなくなった状態で、東京都の合計特殊出生率が1.1という水準が今後も続くのであれば、若者人口の減少という意味でも、グローバル都市間競争での敗退という意味でも「東京の消滅」は避けられない可能性が高い。

それを回避するためには、出生率の向上に加え、若者の減少による人手不足対策として労働生産性の大幅な向上や、外国人、女性、高齢者などの積極的な活用なども不可欠と思われます。

東京の企業や自治体、住民が危機感を共有し、様々なアイデアを出し協働することにより、東京が地方からの若者の流入に頼らない自立した経済成長を達成することこそが、地方と東京の「プラスサム」の実現といえるのではないでしょうか。

*1 「まち・ひと・しごと創生法案」「地域再生法の一部を改正する法律案」

*2 その他の増減が約3千人となっています。なお、ここでの人口は東京都の人口(推計)を基にしているため、住民基本台帳に基づく人口移動とぴったり一致はしない。

*3 東京都内の2013年の外国人の自然増は1千4百人、日本人は△1千5百人の減少でした。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 不動産市場調査室長

(2014年12月29日「研究員の眼」より転載)

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